民医連新聞

2005年10月17日

知見と実践学び合う 第7回全日本民医連学術・運動交流集会 〝希求〟にこめた倫理9条は戦争の最大の歯止め

 「憲法を活かし実践してきた医療・福祉の活動・運動を持ち寄り交流しよう」と、9月22~23日、第7回学術運動交流集会を兵庫で開き、1350 人が参加しました。今回は開催日程が半日短くなり、16会場でセッション・分科会が同時並行で行われました。演題数585、4ナイトセッション、6ラン チョンセミナーがあり、密度の濃い時間が流れました。平和・憲法を考える企画が充実したことも特徴です。「9条の会」事務局長で東大教授の小森陽一さんが 全体会で講演し、イラクから招いた2人の医師が、戦争の悲惨さを語り、医薬品や医材などの支援を訴えました。全国のさまざまな活動を集約し、総会方針に反 映させる今集会は、熱気にあふれました。

 「一瞬でまちが倒壊し6433人の命が断たれたあの日からはや10年。民医連の仲間は1万人も支援に来てくれた」。兵庫民医連の合田泰幸会長は、こうあいさつしました。

 今集会のメインテーマは「復興する神戸から発信しよう、命と暮らしを守る国づくり、まちづくりのうねりを」。肥 田泰会長も災害にふれ、「米国のハリケーンに見るように、自然災害であり人災でもある。低所得者が集中的に受ける被害は軍国主義、新自由主義の政策によっ て増幅する」とのべました。会長は「その政策をすすめる小泉内閣の次のターゲットは医療だ。改憲、社会保障の切り捨てを許さないたたかいをすすめよう」と 語りました。

 田中眞治実行委員長が、集会開催へのさまざまな協力に謝辞をのべ、「新しい知見や実践を大いに交流し学び合おう」とあいさつしました。

 公開講座「阪神・淡路から10年―私たちの国はどう変わったのか?」は、市民の参加も呼びかけて開き、災害復興 のあり方を考えました。市民生活は災害以前の状態に戻ったか? 空港や高速道路など市民不在の「復興」がすすめられ財政破たんを招いている、との指摘に、 課題を議論しました。

 各地で広がる憲法・平和の活動が発表されました。介護や高齢者医療の発展と、あいつぐ制度改悪とのたたかいが報 告されました。安全性・倫理・人権を大事にする医療の努力、EBMや慢性疾患医療の新しい知見が注目を浴びました。また新臨床研修制度の医師養成、個人情 報保護では分科会を設け、情報交換しました。

 抄録集を手に会場を行き交い、情報交換し、休憩時間に講師や発表者にかけ寄り、熱心に質問する参加者の輪が、あちこちにありました。

総選挙の結果をどう見る☆☆

 2つ特徴があります。ナチスが開発したマスメディア操作の手法「沈黙のらせん」を使ったこと、「郵政国民投票」 という表現で、憲法改悪リハーサルをしたこと。「沈黙のらせん」とは、政府がメディアを使い、誰も考えてもいなかったことを「最も大事だ」と言い→反論が 出てこないうちに「国民に認められた」と宣言する→反論や批判が出てきたら「反国民的だ」と弾圧する→社会からの排除を恐れる人びとが口を閉ざす→これが らせんを巻いて「沈黙」が深まる、というものです。

 そもそも解散自体が限りなく違憲に近かった。衆院の解散は内閣不信任の対抗手段としてだけ認められています。そ れを参議院の法案否決を「不信任」とみなして解散した。これは自民党が8月に発表した新憲法草案の先取りです。これには「内閣総理大臣が衆議院の解散権を 持つ」とあります。

*****

 ナチスのメディア操作のノウハウを、米国の権力者は研究しています。国民が快・不快と感じる言葉をリサーチし、世論を動かしています。快と不快の世界で生きているのは0歳児。「快」ならスヤスヤ眠る。この状態に全人類を落とす戦略です。

 石油企業から最大の献金を受けるブッシュ政権は地球温暖化防止の京都議定書にサインしません。誰もが危機感を抱 く「温暖化」という言葉をやめ「気候変動問題」と言い替えました。金持ち減税の「遺産税の廃止」でなく「死税の廃止」と言い、遺産税に縁のない貧困層の支 持も取りつけました。極めつきは戦争政策です。9・11後のアフガン攻撃をWar on Terrorと呼びました。War on~の表現は、貧困やエイ ズキャンペーンなどで使われ、人命を救うイメージを国民が持っているからです。

9条が米国の手をしばっている☆☆

 「自衛隊は戦力ではない」というのが歴代与党の公式見解です。「国土が直接攻撃された時だけ」のもの。日本の集団的自衛権の行使を違憲とし、世界第2位の軍事力を持つ自衛隊を海外で武力行使できないよう完全に無力化しているのが9条なのです。

 日本国憲法より1年早く生まれた国連憲章は、51条で防衛戦争を認めていて、そのため世界で戦争がなくなりません。

 大江健三郎さんは、憲法9条の「希求」という法律には珍しい言葉に着目し、倫理観がある、と言いました。それを 意識して読むと、9条が国連加盟国すべてに呼びかけていることが分かります。「日本国民は、国連憲章よりもっと誠実に平和を望んでいる、国権の発動の戦争 も否定するし、戦力も持たない」と呼びかけているのです。改憲の理由を「現憲法は、自分さえよければという一国平和主義で、問題だ」という人がいますが、 決してそうでありません。

 イラク攻撃は、米国単独では始められず、イラクのミサイルが届く範囲にある英国が参加して、「国連憲章が認める 防衛戦争」と理由がつきました。同じく、北朝鮮のミサイルは米国には届きませんが、日本には届きます。日本が米国との集団的自衛権を使えれば、米国は、 ユーラシア大陸の東側でも中国やロシアを押さえ、エネルギーを独占する世界戦略をすすめられるのです。

 9条は今も一刻一刻、日本と東アジアの、ロシアも韓国も北朝鮮も中国も含む平和を守っているのです。加藤周一さ んと北京で講演したところ、中国の大学生たちはこんなメールを発信しました。「大切なのは反日デモではなく、日本の良心的な人たちと手をつなぐことだ」 と。アジアの国ぐにも9条の大切さに気づき始めています。

「9条の会」を広げて☆☆

 私は52歳の今日まで、戦争で人を殺さず生きてこれました。ここにいるのは、学徒動員された父と、東京大空襲を経験した母が奇跡のように生き延びたからです。私はいま、2人の娘たちに9条を残したい。

 「会」の呼びかけ人の平均年齢は77歳。文字通りみな体を張っています。「9条があったから生きてこれた人たちは、9条の危機に体を張っていいのではないか? あなたも、いまから合流しませんか?」というのが「9条の会」の呼びかけです。


 

第1セッション
高齢者の医療
~認知症の医療と人権

認知症は「脳が壊れた人」でなく「生活を続けようと努力する人」

金澤彩子さん(グループホーム千住大川施設長)

 国内に100万人と推測される認知症の高齢者。人権を守る医療・介護の方向性を探りました。

 認知症の治療に20年間あたる岡山・きのこエスポワール病院の佐々木健院長の講演を受けました。佐々木氏は、同 院開設から現在まで、試行錯誤し変えてきた医療や介護の内容を振り返りました。「認知症の高齢者を『脳が壊れた特別な人』ではなく、『生活を続けていこう と努力している人』と見よう、というのがケアの根拠です。向精神薬が中心の治療だった創設期から、生活療法が中心のケアに変化した。これに伴い環境整備と 職員の意識変革をすすめています」と語りました。※1

※1)環境…病棟を、従来の病院のような非日常の場から生活の場、日常の場に変換/意識改革…(1)業務的ケアか ら利用者1人1人の個別性を重視したケアへ、(2)医学的な管理偏重の見直し、(3)利用者1人1人の生活リズムを見直し、その人本来の生活に近づける働 きかけをする、(4)行動を管理するのではなく、そのまま受け入れてゆく姿勢に、(5)職員もユニットケア生活を楽しむ

 同氏は、認知症ケアには、「認知症性疾患」に対する医学的な視点と、「認知症性高齢者」に対する人間的な視点の2つが必要、と報告しました。

 認知症性高齢者の医療と介護について、大事なポイントを8項目あげました。※2

 また、新しい展開として、認知症の高齢者の自分史、人生歴、その人らしさを尊重する「Person Centered Care」と、認知症高齢者を1人の生活者としてとらえ、安心して生活できる場の提供や、コミニュケーションを大切にするケアを強調しました。

※2)(1)適切な診断とアセスメント、(2)認知症状の正しい理解、(3)治療をあきらめない、(4)認知症老 人の心理に配慮した介護、(5)認知症老人の個別性の尊重、(6)認知症老人の生活環境の重視、(7)家族(介護者)の精神的サポート、(8)地域の医 療・福祉サービスとの連携

 第2部は実践報告。認知症医療の研修をどうすすめるかをまとめた「認知症医療の研修」(福岡・みさき病院)、 「拘束しない認知症介護~認知症が重度化する中での転倒防止のとりくみ」(千葉・老健まくはりの郷)、人格を尊重し、見守られながら地域に生きる認知症の 高齢者たちの様子をつづった「グループホームのとりくみ」(東京・グループホーム千住大川)、3本の報告がありました。

第2セッション
平和と憲法を守り
広げるとりくみ

平和が当たり前のコスタリカ予算は教育と環境にまわる

 第1部は、コスタリカのドキュメンタリー映画「軍隊をすてた国」を制作した早乙女愛さんの講演、第2部は憲法を守るとりくみのリレートークを行いました。

 「2歳から父の『平和英才教育』を受けてきた」と、自ら語る早乙女愛さん。日本の憲法9条のような法律を持ち、日本と全く違う道を歩むコスタリカについて、熱く語りました。

 コスタリカには軍隊はありませんが、完全に放棄したわけではありません。集団的自衛権が必要な時は召集できるよ うになっています。しかし、1948年に軍隊を廃止して以来、民主主義が浸透し、平和が当たり前な社会になっています。軍備にかかっていた予算は教育と環 境保護に回され、「憲法があるから戦争しないのではなく、平和を愛し、当たり前になっているから」と、多くの人が口を揃えます。

 コスタリカ政府がアメリカのイラク戦争有志連合に署名した時、「それは違憲だ」と訴訟を起こしたのは大学生でし た。子どものころから「平和の大切さ」を感じて育ってきた大学生は、「自分の権利と義務を行使しただけ」と語りました。1年後、最高裁が「違憲」と認定、 コスタリカは有志連合から外れ、「戦争をいままでも、これからも支持しない」と発表しました。

 子どものころから権利と義務を意識させ、平和を愛することを教えるコスタリカ。当たり前と感じていた平和が脅かされている日本。平和と憲法を守るために、できることを1人ひとりが、していきましょう。

 第2部は「全院所に9条の会を立ち上げた」(道南勤医協)、「憲法トーク講座」(富山)、「共同組織と共同した平和サークル」(愛知)、「地域ぐるみの憲法を守るとりくみ」(長野)のリレートーク。

 フロアから「活動が続かない」、「職員が地域に出て行けない。どうしたらいいのか」という悩みが。シンポジスト の愛知・尾張健友会の大口加奈子さんは「サークルではやりたいことをする。制度があるからではなく、何かしたいから。それが私たちの秘けつです」。道南勤 医協の山下悟さんも「教えられた言葉ではなく、職員が自分の職種を通して経験したことを自分の言葉で語ることが大切」と、この活動で職員が成長している経 験を語りました。

第3セッション
医療安全セミナー

医療事故の裏に人手不足エラーのしくみ知って対処を

 日本看護協会常任理事の楠本万里子さんと、筑波大学人間総合科学研究科の海保博之教授が講演。

 楠本さんは「医療安全対策の現状と課題」と題し、看護現場で起きた事故事例をもとに、起こる背景や安全にするポ イント、職場でとりくむ留意点を話しました。「2004年度、看護職が関わる医療事故で報道されたものは95件。原因は、看護師の知識不足、技術・手技の 未熟、基準・手順の不備、労働環境など。患者が高齢化、重症化し、看護業務が複雑、過密になっているが、看護者の配置は手薄。入院期間が短縮し、エラーが 事故につながっている。日本の100床当たりの看護職員数は欧米諸国に比べて少ない」と指摘しました。

 また新卒看護師の仕事上の悩みとして「医療事故を起こさないか不安」「インシデントレポートを書いた」などをあげました。

 「エラーと超過勤務・過重な業務量との関連」、「薬の渡し忘れ・点滴速度の間違い・転倒転落のインシデントと主観的な忙しさの相関」のデータを紹介。協会としても「人員増を求めている」と語りました。

 また病院に求められることは、事故対応や安全管理に関する相談・支援窓口の設置、特に事故当事者の相談・支援体制を急ぐこと、事故をタブー視せず、起こる可能性や起こった場合を直視する訓練であり、日ごろから組織としてとりくむ必要性を強調しました。

 海保さんは、「医療現場のヒューマンエラーを減らす心理学からの提言」と題して講演。心理学の立場から人間がエラーを起こすしくみを説明しました。以下要点です。

 エラーについての知識を豊富にし、反省することで個人の力を高め、自己をコントロールすることができます。「必 要な知識を必要なときに思い出す」には、ヒヤリハットなど情報を共有すること、事例検討などで知識を活性化しておくこと、言葉に出して注意を喚起するなど が有効です。「思いこみエラーをなくす」には、即断即決せず、データや証拠を常に集める、などが有効です。

 習熟するにつれ確認ミスが発生します。それを防ぐには、指さし確認、仕事後の確認、が有効です。自分がどんなエ ラーを起こしやすいかを知ることも役立ち、「取り違えエラー」「思いこみエラー」「うっかりミス」「確認ミス」のどのミスをしやすいか、自己チェックをし ておくことも大切です。

第4セッション
介護保険
~今後の課題

主治医意見書が介護予防で重要になる

 第1部は産業医科大学教授の松田晋哉さんの講演。介護予防や地域支援事業を研究してきた立場から、新予防給付の背景や考え方を解説しました。

 介護予防では「筋トレ」が強調されがちですが、栄養改善や口腔ケアも大切です。対象者の選定では主治医意見書が 重要視され、様式は9月中に見直し、11月に通知される見込みです。高齢者の生活内容を聴き取り、機能を評価、意欲を引き出す主治医の機能が重視されま す。要介護認定を見直し、浮いた事務コストを給付に回すべきとの意見があります。

 包括支援センターでは、保健師と社会福祉士の役割が大事。また住宅改修には作業療法士の関わりが必要。介護予防 プログラムで、個人と集団のどちらが効果的かは、性差と地域差によるようです。「介護予防はトレンドだ」と思われ、声をかけ合って参加を促せるような地域 社会づくりが不可欠です。

 ホテルコストについて、住宅は社会保障の一環であり、住居費に対する公的給付を創設して解決を、という考え方も あります。地域の資源を介護予防という観点で見直すことも必要。たとえばパチンコ屋を月に1日高齢者に開放しているまちがあり、喜ばれています。格差が広 がるいま、新自由主義でなく社会民主主義的に、受動的利己的でなく能動的で利他的な社会をめざしたい。介護予防はまちづくりといえます。

 第2部はシンポジウムでした。

 山平久雄さん(北海道・SW)は「介護保険の見直し後の課題」で発言。社会保障改善の担い手として、ケアマネの役割が大きくなる、とのべました。

 門祐輔さん(京都・医師)は、急性期病棟の患者が高齢化する中で、在宅・外来と連携し、生活機能障害を評価、リハに力を入れている、と報告。

 笹原祐美さん(北海道・ヘルパー)は、「ヘルパーは現状で平均2時間しか使えず、内容も対象も制限があるが、生活意欲をひきあげ介護予防を実践してきた。今後は腰が痛くなったら介護予防を申請し、暮らし方のプロ・ヘルパーを使おうと呼びかけたい」とのべました。

 寺田路子さん(愛知・看護師)は、医療と介護の事業所で「尾張圏域ブリッジ」を作って情報交換していると報告しました。

劣化ウランに苦しむイラクに手を差しのべて

第5セッション
イラクの医療事情とイラク人道医療支援

 イラク戦争から2年。イラクでは今も子どもや女性、高齢者など、市民の犠牲が絶えません。さらに医療機器や薬剤 も足りません。全日本民医連は、自衛隊のイラクからの撤退を求めるとともに、1400万円の募金を集め、NGO組織と協力し、医療支援を続けてきました。 イラクから2人の医師を招き、がんや白血病が増加している様子、医療事情を聴きました。また医療支援を行っている日本のNGO組織「アラブの子どもとなか よくする会」の西村陽子さんが活動報告しました。

戦争後、がん・白血病患者が激増アル・アリ医師(バラス教育病院)の報告

 「2003年の爆撃で病院が壊滅的な被害にあい、薬や機器が入手困難になりました。抗生剤や点滴類も足りません」と、アル・アリ医師は十数人の白血病やがん患者の写真を見せました。多くはあどけない顔の子どもたちや、死産した奇形の赤ちゃん。ほとんどが亡くなりました。

 アル・アリ氏は、機器や薬剤に加え、汚染源の地域の調査、被害の拡大を防ぐ専門的な知識、医療スタッフの養成などの支援を求めました。以下要点です。

 イラクは3度の戦争で、破壊されました。環境汚染のひどい南部を中心に、報告します。

 汚染物質は、煤煙などの化学物質、菌やウイルスなどのほか最も深刻なのが放射線です。81年、イラン・イラク戦 争で原子炉が爆破され、近くの川づたいに汚染がひろがりました。91年の湾岸戦争では劣化ウラン弾が投下され、03年のイラク戦争でも使われました。※1 さらに戦後、放射能で汚染したドラム缶が廃棄され、汚染が拡散しました。

 がん患者の死亡者数は88年に34人だったのが、2003年には650人を超えました。バスラの5歳以下の子ど もに、がんや白血病が95年以降急増しています。また2003~05年(上半期)白血病がさらに増加。今年は半年で114人、1年の発生は160人を下ら ないでしょう。放射線で起きる種類のがんも2001年から急増。潜伏期間は10年ほどです。1990~2001年、先天性奇形の発生も増えています。放射 線に起因する染色体異常で起こる障害です。

 環境汚染の要因は以前からありました。しかし91年の湾岸戦争以降の健康被害のひどさは、経験したことがありません。湾岸戦争で新たに加わったものは劣化ウラン弾です。その因果関係を確定する疫学的な調査も必要です。

※1)91年湾岸戦争で使用された通常爆弾は14万㌧。この戦争で史上初めて劣化ウラン弾が使われ、300㌧を超 える量がバスラ西部に投下され、2003年の戦争では、1000~2000㌧が市街に打ち込まれた。バスラの放射能測定レベルは5mR/hrと、91年の 100倍にまで上がった。

乳がん患者が増加しているジナン医師(乳ガンセンター)の報告

 ジナン医師は、2001年9月から始めた調査に基づき、乳がん患者が増加していると報告。精神的なケア、外科手術、化学療法、放射線治療、スタッフ教育がほしい、とのべました。

イラクで奮闘する医師たちを見た「アラブの子どもとなかよくする会」西村陽子さんの話

 自衛隊が派遣されてから、イラクに入れなくなりました。西村さんは、日本で集めた寄付を隣国ヨルダンで薬剤に変え、イラクに送る活動をしています。

 輸血の針やパックがないために失血死する白血病患者が少なくありません。4人部屋に8人が寝ており、続ぞくと子どもたちが亡くなっています。

 こういう患者たちをイラクの医師たちは毎日診ています。給料が入るとその足で薬や医材を買いに走る医者、薬の冷 蔵庫が壊れたら自分の家から冷蔵庫を持ってくる医者、自分の安全を守るのも精一杯な国・イラクで、より困難な人を救おうと奮闘していました。イラクの子ど もたちを救えるのは、イラクの医師たちしかいない、と思いました。

 私たちの活動は、ヨルダン人の熱心な協力もあって成り立っています。私たちの力は小さくて、砂漠にスポイトで一滴、水を落とすような活動かもしれませんが、それでもいい、私ができることを、と思っています。

第6セッション
慢性疾患医療の
今後の展望

生活と労働に着目 知識+αで行動を変える

 「厳しい人員のなかで委員会や中断チェック、患者教育が弱くなる傾向がある。過酷な労働が生活習慣を破壊し、無 保険者が増加するなど、健康に、労働、生活、社会保障の視点が欠かせない時代。今日的に民医連の慢性疾患医療を再構築するため、忌憚(きたん)ない意見を 交わそう」。司会の里見和彦医師の問題提起から始まりました。

 第1部は、福田洋医師の「自分史で語る慢性疾患医療の今後の展望」講演。北海道民医連で研修し、順天堂大学公衆 衛生学へ、糖尿病教育から予防医学へ歩んだ経験から語りました。「産業医になり患者の生活を知り、見方が大きく変わった。失業、泊まり込み業務などで糖尿 病が悪化した症例を経験した。患者教育の有効性は最近、大規模スタディで確かめられた。患者の行動を変えるには、脅しではなく、自分の問題と認識してもら う工夫、知識にプラスαが必要」と語りました。

 第2部はシンポジウム。服部真医師(石川)は、総コレステロールの職種別比較、1日の労働時間が糖尿病に与える 影響などを示し、7つの提言をしました。(1)病名でなく生活・労働に注目した慢性疾患医療の再定義、(2)心身・活動・社会など多面的に診断する、 (3)疾患と労働・環境・生活のエビデンスを学び知らせる、(4)遺伝子でなく生き方・労働・生活の違いに配慮したオーダメイドの支援プランつくり、 (5)Plan→Do→Act→Checkサイクルを共同で回す、(6)集団で健康になる力を育てる、(7)ITも活用した患者参加のしくみづくり、で す。

 藤沼康樹医師(東京)は「家庭医療学からみた慢性疾患管理」を発言。家庭医として1人の患者の背景に地域の健康問題を知り、何かあったときに相談にのる継続的な活動を紹介しました。

 内山集二医師(愛知)は20年間で地域に慢患・在宅・健診の3本柱を定着させた経験を。「誕生月に定期検査」が 地域の合い言葉になり、脳心事故が激減、がんの早期発見もすすみました。「慢患管理」ではなく外来の枠を超え地域住民に広がる「慢患運動」と「合併症ゼロ 運動」を提案しました。

 質疑が多数あり、司会は「現場の悩みが反映。アイデアは新しい出発点になる」とまとめました。

ナイトセッションの話

【EBMセミナー】

 (社)地域医療研修センターの名郷直樹医師が、高コレステロール血症の患者事例をもとに「EBMを実践しよう」を講演しました。高齢の女性患者から「コレステロール値を下げる薬が飲みたい」と相談された時の対応について参加者とロールプレイしました。

 名郷医師は「一般的な治療・診断でなく、個別の患者の問題解決にとりくむことがEBMだ」と強調。まず問題を明らかにし、次に文献など情報を集める。情報の信頼性を批判的に吟味し、どう役立てるかを考え、医療を提供することがEBM実践のステップと説明しました。

【個人情報保護とカルテ開示】

 愛知・協立総合病院の高木篤医師が講演しました。同院で実践しているカルテ開示の経過を紹介し「1病棟が患者に カルテ配布をはじめ、それをきっかけに病院全体に広がり、開示に懐疑的だった自らの意識も変化した」と報告。「徹底的に情報開示すると医療者と患者の信頼 関係が強まり、治療への患者の積極性も増す」とエピソードを交えて語りました。個人情報保護では、電子カルテ導入などで増えている電子データの取り扱いの 注意点などについて触れました。約30人が参加しました。

【口腔ケア QOLの向上】

 大阪・耳原歯科診療所の重松雅人歯科医師が講演。口腔ケアは「誤えん性肺炎と口腔疾患を予防し、正常な味覚を回 復し、食べる楽しみを実現し、リハビリになる。目標8020に対し現状は8006」とのべました。歯科衛生士がケアの手法を説明、病棟に『手引き書』と5 種の道具をワゴンに常備し、約10分で「オーラルエステ」をしていると紹介。「電動ブラシも活用して」などアドバイスも。

 「夜は入れ歯は外した方がよいか?」「入れ歯に名前は入れてもらえるのか?」など具体的な質問が続き、会場は「歯科と医科・介護の連携が必要」のムードに。終了後も用具の説明を聞きました。

【ここが聞きたい電子カルテ】

 民医連の多くの院所で電子カルテ導入がすすんでいます。導入の経験や悪戦苦闘の様子を埼玉と京都が発表しました。

 フロアから「オーダリングシステムと電子カルテの同時導入は可能か?」という質問が。「先にオーダリングを入れた方が」「もともと一体、同時導入も」など、活発な議論になりました。

 導入時の困難として、ペーパーレスのはずが、説明、順路案内などで紙が増えること、あらかじめ「do(前回と同)処方」の入力をしないと、診療が遅れ、医師のストレスになるなど。「症状を入力すれば、病名候補と処方が出るシステムが必要」などの意見も出ました。

ランチョンセミナーの話

【職場のメンタルヘルス】

 会場は立ち見が出るほど。労働科学研究所の鈴木安名さんが、働く人の安全と健康の視点から講演しました。「寝不 足が不眠症を招く、睡眠をしっかりとる」と強調。自分がうつではないかチェックするポイントに「眠れない、食べたくない、疲れやすい」3つの身体症状を、 管理職が職員の症状を早期発見するサインに「欠勤、遅刻・早退、泣き言、能率低下、ミスや事故、辞めたいと言う」と説明。「まず話を聞いて。管理職には、 民法、労働基準法、労働安全衛生法にもとづく職員の安全と健康に配慮する義務があり、労働時間、心身の健康状態を把握し、必要に応じて勤務軽減するマネジ メント能力が必要」とのべました。

【その人らしい健康づくりをめざして-共同の営みの慢患とは-】

 耳原老松診療所の井上朱実医師が発表。「チーム医療でする慢性疾患管理にこそ民医連の優位性がある。糖尿病は食 べたらダメと合併症で脅す教育ではなく、おいしく食べようと栄養士が料理教室をしたり、体を動かす楽しさを知ろうと、運動トレーナーも2人配置した。患者 の生活、人生がかかっているのだから。あせらず待つことも大事」と、静かに力強く語りました。

【回想法は最高の癒し】

 島根・出雲市民病院の鈴木正典医師が講演。「回想法は高齢者の心を安定させる心理療法。認知症のある方も記憶し ている昔の思い出を、写真や品物、歌などを使って出し合い共有する。認知症を予防し進行を遅らせる効果もある」とのべ、昔の写真を見せました。青ハナをた らし、メンコを抱えた男の子、ちゃぶ台を囲んで夕食をとる大家族、小学校でぞうきんがけするおかっぱ頭の女の子など、懐かしい写真に会場は大喜び。昔懐か しい歌謡曲を口ずさみ、多いに沸きました。立ち見が出るほど関心の高いテーマでした。

【介護予防~いっしょにチャレンジ】

 松田誠さん(奈良・事務)と高岸陽子さん(同・言語聴覚士)が「介護予防セミナー」を紹介しました。嚥下体操をビデオで見せ「誤嚥が最初の一口で起きやすく、食べるモードに切り替えて防ぐ」と説明しました。

 松原真理さん(島根・作業療法士)はトレーニングマシンを導入し、介護予防体操を実践した効果を報告。「パワー リハは、心身の機能を高めるとともに、コミュニケーションを良くし、活動する仲間に入り、自分の価値を引き出すことできるきっかけになる」とのべ、「働け ず落ち込んでいた男性が、体操のリーダーになって明るくなった」例などを紹介しました。ボランティアが援助しています。

市民公開講座 …私たちの国はどうかわったのか
阪神・淡路から10年

インフラ整備されても  住民の生活は戻らない

 阪神・淡路大震災から今年で10年。ここ数年に多発した地震や台風被害に、阪神・淡路の教訓は生かされたでしょうか? 第1部のシンポジウム、第2部の講演を通して教訓と課題を明らかにしました。

 「震災被害から社会が見えてくる」、NPO法人理事長の黒田裕子さんは、破壊された暮らしの立て直しとコミュニティの結束の重要性を訴えました。

 中越地震を経験した新潟・下越病院の五十嵐修院長は「診療所も避難所、防災拠点になる可能性がある。防災対策を考えておくべき」と発言。

 豊岡水害を経験した兵庫・たじま医療生協の森垣修氏は「全国から支援を受け、診療所は翌日には開け、10日間で2600軒以上訪問した」。

 神戸大学教授の塩崎賢明氏は講演で、「光と影のあるまだら模様の復興だ。成功ではない」と、「創造的復興」を批判しました。

 「行政は高速道路や神戸港のインフラ整備を優先して復旧はしたが、神戸港の輸入は増えず、景気もよくなりませ ん。ビル群は『創造的復興』を遂げましたが、空き店舗が並び、中小企業の業績はいまだ回復していません。特に住宅問題が深刻です。被災者の多くが遠く離れ た山中の仮設住宅、公営住宅に住むことを余儀なくされ、コミュニティも破壊され、孤独死が500人を超しました。長田区は71%、灘区は77%しか住民が 戻っていません。『創造的復興』の名で、10兆円の被害に対し16兆円を投じても完全な復興にいたらず、予算不足で学校の耐震化、自治体の防災計画ができ ない状態です。できるだけ早く、住民生活を震災前の水準に戻すこと、そのための支援法を整備することが重要です」。


感想は

 分科会やポスターセッション会場は、発表に聞き入り、熱心に質問する人がいっぱい。感想を聞きました。

 ☆平和と憲法のセッションで。国の方向が今のままではいけない、介護も若い人の生活のためにも、あきらめないで 運動しなくては。(石川・都築留巳子=ヘルパー)☆9条が日本を守っている、と良くわかった。小森さんが、朝日訴訟にふれたこともうれしかった。(石川・ 多川博子さん)☆愛知の「模擬患者参加による接遇研修」と兵庫の「療養日誌の意義」の報告が印象的だった。帰ったら話し合って使ってみたい。小森さんの話 で、小学生のときで「青い空は…」と歌ったのを思い出して親しみを感じた。(福岡・東村悦子さん)☆「糖尿病によるストレス原因…」の発表をしたら、東京 の医師が「とても素敵な発表」と手を握り「ぜひ他でも発表しなさい」とすすめてくれ、うれしかった。(京都・臼井玲華さん)☆初参加の山形・佐藤瑞枝さん は「被爆者医療のとりくみで、熊本の被爆者健康調査を聴いて驚いた。広島や長崎以外にも被爆者が多くいることにも…」。当の発表者川端眞須代さんが現れ、 「被爆者も心の奥を青年職員に話す機会ができて、喜んでいました」と交流。☆EBMセミナーで、患者さんの生活背景や論文の評価など「根拠について」考え た。(奈良・倉本郁子さん)☆医療情報システムと医療活動の分科会で、電子カルテの導入や運用の情報が、参考になった。(大分・安藤美菜子さん)☆小森陽 一さんの憲法の講演が良かった。「沈黙のらせん」という言葉が印象に残った。(北海道・浦崎伸吾さん)☆医療安全セミナーでハッとした。最近は指差し確認 も心がこもってなかったと、反省。職場で報告します。(島根・藤原富美江さん)

(民医連新聞 第1366号 2005年10月17日)

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