民医連新聞

2005年11月7日

あなたの職場におジャマしまーす(19) 東京・グループホーム千住大川

“問題行動”じゃない!
認知症でもいきいき生活

 「認知症でもいきいき暮らしていける施設づくり」、学術運動交流集会での発表を聞いて、興味をもち、グループホーム千住大川を訪問しました。「お酒もOK」、「一人で外出する」。どんな生活をしているのでしょうか。
(横山 健記者)

 ホームの前に着くと、入居者らしきお年寄りが、玄関から一人で出ていきました。少しして、窓からTシャツ姿の青年が出てきて、後を追っていきました。 「玄関があるのに、なぜ窓から…」と思いながら中へ。玄関から見えるリビングは、時間がゆったり流れているように静かで家庭的な雰囲気でした。

 グループホーム千住大川は〇四年の六月に開設。九人ユニットが二つ、認知症がある一八人が共同生活しています。職員は常勤・非常勤合わせて二〇人。半数は新人でした。

 施設長の金澤彩子さんは、「認知症でも支援さえあれば自立できる」と考えています。「問題行動、たとえば『徘徊』は無目的なようでも、トイレを探してい る、仕事に行くなど、よく聞くと目的がある。その行動を周囲が理解していれば、徘徊も外出になる」といいます。また、『ダメ』という言葉は使わないことを 前提に、職員といっしょに方針をつくりました。困っていれば本人が理解できるよう環境設定を行い、どうしてもできない場合にはじめて手伝う、こういう方法 を徹底しています。

見守り、くり返し

 ホームでは原則として「何でもOK」です。入居者さんの行動に制限はありません。お昼からお酒を楽しむことも珍しくありません。食材の買い出しも入居者さん自身が近くの商店街まで出かけていきます。

 日中、二~三人の職員で、どのように見守るのでしょうか? 

 一人が「買い物に行く」とホームを出ると、職員も気づかれないように後を追います。「一人では買い物もできない」と、ほかの人に思われないようにするた めです。また、「一人で出歩ける」自尊心を守るためでもあります。さきほど窓から出たのも、そのためでした。残る職員は、ほかの外出を希望する人と洗濯物 をいっしょにたたんだりしながら、タイミングを合わせます。

 問題は、「変えたほうがいい」、「分かってもらったほうがいい」場合、どう伝えるかです。「伝えてもすぐに忘れるから言わない、ではダメ。とにかく本人 が納得し理解し、行動してもらえるまでやる」。その方法をいろいろ議論していきます。

 入居者Aさんは、何でもお金で解決してきたようでした。世話になった職員に一万円を渡そうとしました。全部やってあげても、お金は受け取らないことを何 度もくり返し、分かってもらうことに。「なぜ、受け取らないんだ?」と考えてもらい、別の価値観があること、今までとは違う生活もあるということを気づい てもらえるようにしました。

変わってきた、人も町も

 地域のホームに対する見方も変わってきました。はじめは「痴呆老人は何をするか分からない」と、猛反対。しかし最近は、いきいきと生活している姿に、 「あの人たちが認知症とは思えない。認知症になっても大丈夫なんだ、という気がする」という声も聞かれるほどです。

 職員も入居者さんなどを通して、自分自身を見直してきました。職員には「風呂に入り清潔を保つことが健康にいい」など、専門家としての価値観がありま す。しかし、入居者さんにも「私は毎日、風呂に入らない」、「自宅に風呂があるのに、他人の家で恥ずかしい」など、それぞれ価値観があります。これまで勉 強して築いてきた専門家の価値観は、入居者さんの幸せに必ずしもつながるとは限りません。なぜ風呂に入りたくないのか、職員同士で悩みながら、「無理に風 呂に入れ、というのではなく、入ってもらえない時には清拭をさせてもらおう」など、別のアプローチを考えました。もし、うまくいかなければ、方針を見直し ていきます。

 若い職員の多くは、悩みながら仕事をしています。そこでみんなで相談し「支援なんでもノート」も作りました。ノートに悩みを書くと、「自分はこうやって いる」など、ほかの職員が自分の経験や意見が書き込まれていきます。

 金澤さんの目は入居者さんだけではなく、職員一人ひとりの成長にも向けられていました。

(民医連新聞 第1367号 2005年11月7日)

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