民医連新聞

2005年11月7日

どうなっているの―国保 “2割が保険料滞納世帯”という異常事態

  「国民健康保険料(税)を払ったら、医者にかかるお金が無い、という人が出ている」全日本民医連の社保委員長会議で、こんな報告がありました。また、保険 料滞納者の保険証のとりあげなど、いきすぎともいえる制裁措置の強化など、国保の患者がこれまで以上に医療にかかりにくくなり、命も脅かされる、という事 態がおこっています。国保に何が? 中央社保協の相野谷安孝次長(全日本民医連理事)にききました。

国保をめぐる異常事態
都市部の特徴、滞納者への制裁

 都市部では、国保料が上がりつづけ、年三〇〇~四〇〇万円の所得で、保険料の最高額(多くが五三万円)を支払わねばならない、というところが少なくあり ません。所得の一割以上の保険料は、支払える限界を超えています。そこで、所得の低い人たちからも、もっと取り立てようとしたのが京都市です。

 これは京都市だけではなく、すでに昨年、大阪・高槻市が同じことを行い、五〇〇〇人が市役所に押しかけました。来年は、大阪市、札幌市、北九州市なども計画しています。

■    ■

 厚生労働省は、国保の収納率(保険料が納められた割合)を上げるために、資格書を出していない自治体には補助金を減らすなどの「指導」を強めています。 また、保険料「取り立て」の強化をすすめています。このため、資格書を発行する自治体と発行件数が増えました。また、サラ金まがいの取り立ても。「わずか 一〇万円の年金を差し押さえられた」などの事件も急増しています。国保が、生きる権利すらも奪う人権侵害の制度にされているのです。

 病院や診療所の窓口で、国保の資格書や短期証を目にすることが増えました。資格書は、窓口でいったん治療費を全額支払わなければなりません、保険料が払 えないことも知られ、恥ずかしい思いもします。それでも受診される方は、病気のつらさが我慢できず、悩み、お金を工面しながら、来ているのです。

なぜこんなことが?
〝国保改造〟のひどい内容

 なぜこのようなことが起きるのでしょう? 原因のひとつは、国が国保に出す負担を減らしてきたこと。退職者など、低所得者の加入が多く、事業主負担のな い国保は、もともと加入者の保険料だけでは成り立ちません。そこは国が責任を持って、負担していました。しかし、昔は半分あった国庫負担が三分の一にまで 減り、さらに今年も「三位一体改革」の名で国庫負担が減らされています。

 二つめは、長引く不況も反映し、加入者に失業者などの低所得者が増えていることです。所得の低い人たちに重い保険料を課した結果、滞納者が激増。そして 「払わない人には医療を受ける資格がない」とでも言うように、罰則が強化されたのです。

 いま、政府や財界は、一連の医療「改革」の中で、「病気やケガは自己責任。治療も自分で工面しなさい。治療費は自分たちで出し合った費用~保険料の範囲 で」という方向を追求しています。「もっと良い医療を望むなら、全額自己負担を」という医療制度です。これは、全ての国民が安心して医療が受けられるよう に、という国民健康保険制度の目的に逆行します。しかし、現実には「自己責任」を追求する形で、この数年、国保の「つくりかえ」がすすんできました。

私たちができること

 私たちがそういう患者さんたちの命を守るために、「地域の最後の拠り所」として、できることをあげてみます。

 窓口では、資格書、短期、無保険者を見逃さないほか、国保料を払っている人たちもかなり無理しているはずなので、国保証の人は皆、注意の対象にする。中 断者の重視、保険料の減免運動や、国保法四四条を活用し、困っている人を救済する。また、自分の市町村の国保料がいくらか、自分の給与から引かれている医 療保険料と比べてみましょう。地域では、民主商工会や生活と健康を守る会などと交流を深める、自治体担当者(この人たちも悩んでいる)も含め、国保の研究 会や交流会を、できれば定例化する、「国保相談窓口」や「110番」を設置する、などがあると思います。

これが自治体の仕事?!
保険証とりあげ、滞納者へのとりたて…石川

石川では、国保料を支払う意思があり、納める努力をしている人の保険証がとりあげられるという事件が起こっています。

●滞納者にサラ金なみの延滞料が

 内灘町の事件。保険税滞納で、数年前から短期証になっていた自営業者。2人の児童を抱えている。有効期限 が近づくと一部納入し、短期証をつなげてきた。「資格証明書交付予告通知」が突然届いたので、役所で3万円余を納入するが、「毎月納入しなかった、誠意が ない」と、税務課職員は出した保険証をひっこめた。さらに「資格書で受診分の7割の還付金は過年度の滞納分にあてるから返金しない」と言われ、社保協に相 談が来た。町と話し合い、短期証を発行させた。

 この人には滞納額160万円余に加え、120万円を超す「延滞金」が課せられていた。滞納金には、納付期限を超えて最初の1カ月は4.1%。それ以降はサラ金なみの14.6%という法律で許される最高利率が設定されていた。

 同町は昨年も、年金生活者の預金を差し押さえ、残金ゼロにする、という違法な徴収をし、抗義を受け撤回していた。

●中断患者を訪問すると…羽咋(はくい)診療所

 治療を中断した患者さんを訪問すると、資格書だと判明。借金の返済で保険料が払えていなかった。「7割分の還付金を、本人に返さず未納にあてる」と役所から通知されたことも受診の足を止めていた。虫歯も自らペンチで抜いていた。

 友の会役員と事務長が羽咋市税務課に行き、交渉。「少しずつ支払っていたのに、過去9カ月の滞納を理由に、事情も聴かず、しかも病気療養中の人から国保証を取り上げていいのか」と、ねばりづよく交渉。即日、保険証が患者宅に届いた。

 

低所得者の保険料が2~7倍に激増
「払えぬ」と2万6000人殺到-京都市

 京都市は今年、国保料2.6%値上げと同時に、算定方式を「旧但し書き方式」に変更。所得から基礎控除33万円を引いた額に直接、料率が掛けられたた め、年金生活者をはじめ、低所得者層に大打撃が。非課税で所得割がとられていなかった約18万世帯に所得割が請求されることになった。

 「昨年と同じ所得なのに、国保料は2倍~最高7倍にアップした」という世帯が多発。「計算違いではないか?」「高すぎて払えない」と、国保料通知が届いたとたん、窓口に押し寄せた市民は2週間で2万6000人、加入世帯の1割を超えた。

 ある人は「国保料を払うために通院をやめる」とまで。年2万円と少しだった保険料が、15万円を超え、月7万6500円の年金から、家賃と国保料を支払うと、残る生活費はたった2万円。保険料が引き落とされないよう、郵便口座を解約し、防衛策をとる人まで出てきた。

●「署名」1万戸に配布し改善運動

 吉祥院病院のある南区では、国保証のとりあげで死者が出て以来17年間、社保協を軸に、毎月の区役所交渉、国保料減免や44条医療費減免の申請など、国 保の改善や加入者の相談にとりくんできた。しかし、今回の事態で相談に来た人の減免申請は約半数しか受理されなかった。

 7月から国保改善運動をスタート。署名と返信封筒を、診療圏も超えて行政区の3分の1世帯、1万戸に全戸配布。署名も連日10~20通単位で戻ってきている。

 同院では、この国保改善の運動を「受療権と事業所を守る、民医連の存在意義が問われている、全力をあげたい」と、現在も奮闘中。

(民医連新聞 第1367号 2005年11月7日)

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