民医連新聞

2005年11月21日

連載 安全・安心の医療をもとめて(43) 松江生協リハビリテーション病院 「転倒を起こしやすい薬」 薬局の情報発信で事故予防

 当院の薬局では、入院患者さんの転倒・転落を防ぐため、入院時に「転倒・転落を引き起こしやすい薬剤情報」を発行し、スタッフに注意を促し ています。また、転倒が発生した時には薬剤の影響を検討し、医師と処方の変更を協議し、再発防止に役立てています。「薬事日報(八月三一日付)」にも紹介 されました。

 当院は二四五床の療養型病院です。入院患者さんの多くは高齢者で、インシデント・アクシデント報告の半数以上が転倒・転落です。

 これまでも、病棟では患者の入院時に「転倒スコアシート」でリスク評価を実施してきましたが、なかなか転倒は減らず、対策が課題でした。

 薬剤は転倒を起こす要因の一つです。さらに、〇三年に実施した調査では、薬剤数が多いほど転倒の危険が高いことがわかっています。「転倒あり群」の平均薬剤数七・一剤に対し、「転倒なし群」は五・五剤と有意な差がありました。

 そこで、薬局では、二〇〇三年六月から入院当日に「転倒・転落の薬剤情報(以下、「情報」)」を発行することにしました。その内容は図の通りです。

 当院が採用している内服・外用薬八八〇剤から、文献をもとに危険性のあるもの、二七九剤を選択。「転倒リスク度」を三段階評価しました。

 「情報」の発行には、市販のデータベースソフトで独自に作成した薬剤管理指導支援システムを使っています。入院時に薬剤師が患者さんと面談し、聞き取った患者情報と処方内容をシステムに入力し、「情報」を作成、入院当日にカルテに添付します。

 「情報」によって、「転倒スコアシート」の記載が詳しくなり、転倒リスク評価が的確になりました。従来は当院外 で処方された薬を持参した場合や、薬に詳しくない職員が記載を担当した場合などでは、不備なことが多かったからです。その後、新規入院患者の転倒報告は減 少しています。

転倒を起こしてしまった場合の再発防止

 当院では、各病棟のリスクマネージメント委員が、事故発生から一週間以内に、インシデント・アクシデント報告をパソコンに入力します。薬剤師は週一回、そのデータから転倒した患者の情報を把握し、すみやかに薬剤の影響について検討します。

 その結果をもとに、「薬剤リスク軽減のケア計画」を作り、再発防止を提案。医師と処方の変更などを協議することにしました(〇四年五月から)。

 〇四年五~九月の間で、薬剤の影響で転倒したと考えられた患者さんは二九人でした。医師と話し合い、うち一三人の患者の薬剤を変更または減量、中止しました。残り一六人については、医師の判断や患者さんの不安などがあり、できませんでした。

 「処方変更群」と「継続群」を比較すると、その後一~三日の転倒発生状況は「変更群」が二人、「継続群」が五人 であり、オッズ比は三・三三。また、一~三〇日間で比べると「変更群」が五人に対し、「継続群」が九人、オッズ比は三・二四でした。「継続群」に比べて 「処方変更群」の方が転倒の危険はやや低くなりました。なお統計的に差があるとはいえない結果でした。

*   *

 薬剤師として患者さんの転倒・転落を防ぐため、これからも「情報」の提供や再発防止の提案に力を入れ、ケアの向上に役立てていくつもりです。

(定岡秀樹・矢藤弘子・小谷紋加)

(民医連新聞 第1368号 2005年11月21日)

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