民医連新聞

2005年11月21日

多様化する診療所 奮闘中! 3年ぶり活動交流集会ひらく

 10月29~30日、3年ぶりの「診療所活動交流集会」を東京で行いました。ここ数年、診療所は役割や位置づけが大きく変化。在宅や介護機 能を備えたり、特化した診療所、近接診療所もありと多様化しています。また患者減や医師配置の困難など共通の悩みを抱えつつ奮闘しています。医師、看護師 長、事務長など39県連から約200人が参加し交流しました。

 集会の目的は、(1)診療所の医療や介護活動のあり方、在宅ネットワーク、健診のあり方や慢性疾患医療の今日的状況やすすめ方を議論する、(2)職員の養成と安全問題、(3)地域と向きあうことの意味を深める、です。

講演―在宅医療の将来は―

 記念講演は、在宅医療の将来について、上田建志さん(医療法人青い鳥会理事長)が一五年の在宅医療の経験を語りました。

 脳外科医として、手術の毎日を送る中で、手術後に障害が残った人の行き先がないことを痛感し、在宅・終末期医療 クリニックを開設。外来もしながら、携帯電話で二四時間対応しています。地域連携の難しさから、自ら訪問看護ステーション、ヘルパーステーションを開設、 ケースワーカーや理学療法士も採用し、在宅患者をささえています。

 「末期患者の多くは、在宅死を希望しているが、現実には家族の負担や急変の不安などが妨げている」と「二〇〇三厚生労働省調査」をもとに説明。「一五年間、在宅医療に関わることで医師としての醍醐味を味わった」と語りました。

 シンポジウムは「地域とどう向き合うか」をテーマで行いました(左項)。

民医連の診療所として

 分科会は七つのテーマですすめ、次のような意見交換を行いました。

〈近接診〉病院への帰属意識が強く、「外に出るのも困難」などの悩みが出され、患者が身近になった利点を生かし、問題にとりくみたい、といった意見が出ました。

〈医師養成・人づくり〉「研修医が副所長になるのが理想だが、体制的に困難」「スタッフを一~二年で変えない計画性を」、など、安定した配置が話題になりました。

〈介護事業〉事務長がケアマネージャーになった意気込みある活動が紹介されました。「介護改悪でヘルパーが影響を受ける。どうヘルパーを育てるか」、が論議されました。

〈慢患・在宅・健診〉地域の開業医と連携として二四時間体制を維持している経験、職員が慢患コースを体験し患者の思いを理解する、運動療法のひろがり、などが出ました。

〈医療安全・整備〉電子カルテで誤りが増え、防止のため患者に名乗ってもらう、処方せんを確認するなどが、話題になりました。

〈共同組織・まちづくり〉共同組織と職員が共感するための工夫、地域の信頼を地道につくり、患者増にもつながった経験が出されました。

〈民医連診療所をどう改革するか〉 「意識づくりが大切」、「カンファレンスが役立つ」、「民医連を語れるトップ集団づくりを」などのアイディアが出ました。

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 また、夜には自主交流会も実施。「診療所医師養成」がテーマ。「所長の職務とは何か」などで、ワークショップを行いました。


シンポジウム

地域とどう向きあうか

医師、「ここで勝負」
千葉・いちはら協立診療、岡田朝志所長

 「『来て良かった』と思われる診療所にしよう」。一〇年前の着任時のコンセプトを、今も大切にしています。内装を整え、BGMを流すなど居心地良くしています。

 また、医師一人と限られたスタッフで、地域の医療要求に応える「究極の何でも屋」をめざしました。受診しやすい よう、CT以外の基本的な検査はすべて可能にし、予約システムをつくり、特定日にしかできない検査は極力なくし、院内調剤するなど工夫しています。月・ 水・金曜の夜間診は八時まで受け付け、昼と同レベルを心がけています。夜間検査ができ、小児の肺炎を夜間外来だけで治せる水準にする、というように。夜間 しか来られない患者は多いです。がんは一五八例発見しました。

 医師会活動にも積極的に参加、技術向上を兼ね、プライマリケア学会認定医・指導医、産業医、マンモグラフィ読影資格をとりました。

 英語、スペイン語、ポルトガル語も習得し、住人の約六%を占める外国人の受診が増えました。母国語で話しかけると、片言でも「患者を理解したい」という気持ちが伝わり、問診もよくとれます。内視鏡や糖尿病教育なども日本人と同じように行っています。

 地域とつながり、「医師として勝負するのはここだ」と感じています。(常勤14人、患者数85人/日、1449人/月)

「地域の火の見櫓(やぐら)」に
愛知・たから診療所、菅井加代子師長

 診療所で九年、大変さもありますが、まちを歩けば患者さんに出会う日々は、面白いです。

 「健康づくり」もスローガンだけにしていません。組合員と共同で健診をすすめ、結果返しやフォローもしっかり実施。班会メニューも豊富です。慢性疾患指導はデータで脅さず、良い点を認め、三年後の目標をききます。管理が得意な看護師も「待つ」ができるようになりました。

 診療圏に、生活保護世帯や高齢者が多い市営住宅が六つあります。要介護者は、たとえ生協の施設の利用料さえ払えず入れないのが現状です。そんな中、診療所は「地域の火の見櫓」になり、ささえ合いのネットワークを築かなければと思います。

 課題は人材育成。介護報酬が低いせいで介護職の賃金が低くては、定着や質向上の障害になります。新人看護師が在宅医療を希望して来る場合もあり、やる気を生かしつつ、スキルアップできる研修もしています。

(常勤6人、外来患者数75人/日、872/月、在宅患者46人)

全職員で「受療権」守る
大阪・姫島診療所、前田元也事務長

 診療圏の西淀川区は全世帯の半数が国保加入世帯(二万)。滞納五〇〇〇、長期滞納一五〇〇、短期保険証七〇〇、資格証明書が三〇〇世帯という状況。職員で知恵を出し合い、受療権を守るとりくみを行いました。

 まず、高齢者医療費償還払いの代行申請をしました。制度や地域状況を学んで作ったチラシと、申請用紙をカルテに挟みました。さらに未申請の人に、もれなく声かけ。「市役所から振り込みがあった」「財布の中身まで心配してくれるんやな」と感謝され、励みにもなりました。

 また、患者外からの問い合わせを契機に、『知って得する制度の紹介』を持ち、患者以外の訪問を開始。困っている人の情報が集まり、健診や受診につなげました。

 社保協と国保減免の集団申請にもとりくんで三年。今度も国保カルテ六〇〇冊にチラシと申請書を挟み、「困りごと は?」と、必ず声をかけました。例年六~七〇人が行う集団申請に付き添い、結果が出たころ電話します。「国保料を払うため借金」「無収入なのに国保税が六 〇万円」「夫が失踪。収入が絶え、子どもを抱え働けない」など、知れば地域はまるで「焼け野原」でした。支援してきた中断患者が「保険証が届いた」と再受 診して、職員は拍手で喜びました。社保は特別な活動ではないです。アンテナを張り、診療所の存在を輝かせたい。

(常勤14人、外来患者155人/日、1017人/月、在宅患者30人)

(民医連新聞 第1368号 2005年11月21日)

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