民医連新聞

2006年2月6日

あなたの職場におジャマしま~す(21)/出雲市民リハビリテーション病院 通所介護施設 コスモス そのころ、あなたは? 回想法で思い出語り

 「高齢者の脳の活性化と自信の回復に効果がある」と注目されている回想法。その実践者として知られる鈴木正典医師を訪ね、出雲市民リハビリテーション病院の通所介護施設コスモスに、おジャマしました。(横山 健記者)

 夕焼けこやけの赤とんぼ~♪ デイサービス・ルームにはチェロの音色が響き渡ります。弾いているのは、鈴木正典医師!

 利用者さんといっしょに歌った後、写真を配りました。手にメンコを持った少年たち、昭和四〇年代の風景です。

 「昔の子はよく鼻水をたらしていましたね、なぜですかいね?」鈴木医師が利用者さんにたずねました。「すきま風が」「服も食べ物も粗末やった」、メンコで勝つ方法など意見が出ます。鈴木医師は利用者さんの横まで行き、目線を合わせ話を聞いていきます。

 次の写真は、映画のワンシーン。「原節子。美人やった」、「これ池部良や」「思い出せないわ」と話がはずみ、当時の記憶がどんどんよみがえっていきます。

 最後は全員で楽器を使ってリズムセッション。音楽の先生だった利用者さんを先頭に、歌に合わせて楽器をかなでます。

 「なつかしい…」と目頭を熱くし、「よくペッタン(メンコ)していた」と、利用者さんたち。約一時間で利用者さんの顔は、おだやかな笑顔に変わっていました。

 コスモスのスタッフのみなさんは、アシスタントや利用者さんの介助をしつつ、おやつの準備や帰る荷物の用意と、常に利用者さんに目を配っていました。

適度にツボをおす

 麻酔科医として緩和ケアを受け持っていた鈴木医師。日本ではまだ不十分な「心のケア」を勉強するため、海外のホスピスへ。そこでライフレビュー(人生回顧・回想法)に出会いました。

 「認知症は新しく覚えることは難しくなります。しかし、昔のことを忘れたわけではなく、思い出しにくいだけで す。回想法は『思い出語り』であり、「思い出すためのきっかけ」と、鈴木医師は話します。「思い出すことによって、『自分でもできる』という自信につなが るだけではなく、認知症の症状が緩和し、まわりのスタッフも利用者さんを『人生の大先輩』として敬意を払うようになる効果もある」と強調します。

 「回想法をすると常に新しい発見があります。今回は鼻水の原因について考えてくれました。うまくツボを押さえた 感じ」と満足げ。話しすぎると相手の言葉を取ってしまうので、聴くことに徹し、〝客筋〟(利用者さんのふるさと、年代、好みなど)を読んでうまく話を引き 出すことが大切だそうです。

高齢者に敬意を払うケア

 「今の高齢者ケアの文化の部分が、ややもすると小児向けの延長になりがちです。敬意を表するならもっと大人のプ ログラムを提供すべきです」と鈴木医師は力説します。「回想法で、若く元気だったころの『主役』にかえるんです。スタッフは、その時代について予習が必要 です。利用者さんの話が分かるように」と。団塊の世代のみなさんに、「特に男性は退職するとやりがいを失い、趣味がない人は早く認知症になる傾向がありま す。元気なうちに、料理教室やハイキング、音楽などに親しんでほしい」と、同じ世代の鈴木医師がアドバイスします。

中高年世代にも元気を

 鈴木医師は最近、高齢者だけでなく、中高年世代を元気にするために、「昔は元気でがんばっていた」という回想法を公民館などで行い、仲間づくり、傾聴ボランティアの育成に力を入れています。

 「回想法も同じものでは飽きられるので、おもしろくて目が輝くようなプログラム、日本人の体に染みついたリズムを使いたい」と、今年もあちこちの病院を旅芸人のように講演する予定です。

(民医連新聞 第1373号 2006年2月6日)

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