民医連新聞

2006年2月6日

「所得格差」が「健康格差」生む社会の問題を鋭く指摘 日本福祉大学 近藤克則教授講演

 日本福祉大学の近藤克則教授は、著書『健康格差社会』で、「所得の格差」が「健康の格差」につながっていると示しました。また、イギリスで の医療が、競争を導入しても医療費を抑制したままでは、荒廃してしまったため、イギリス政府が医療費抑制策を転換せざるを得なくなった経過を示し、日本の 医療改革案に疑問を投げかけています。一月の県連会長事務局長会議での講演を紹介します。

 昨年、生活保護の受給が一〇〇万世帯を超えました。就学援助金を受けた小中学生は約一三三万人(二〇〇四年度)で、この四年間で四割増えました。貧困層がじわじわ増えています。

 一方、大手銀行は、五億円以上を預ける資産家向けの豪華応接室を設けたといい、高額所得者もいます。

 こうした所得格差の拡大を人びとも感じてきています。内閣府の「国民生活選好度調査」をみても、収入や財産の不平等感をもつ人は、一九七八年の一三・五%から二〇〇二年は二二・四%になり、一〇%近く増えています。

要介護になりやすい低所得層 高所得層の5倍にも

 所得格差が健康にも影響しています。

 ある自治体の協力を得て、所得と要介護者数割合の関連を調べました。すると、要介護者の割合は、低所得層に多 く、高所得層の五倍にもなりました。転倒歴、うつ状態の高齢者の割合も低所得層に多いことが分かりました(図)。また、「噛めない」「健診を受けていな い」「閉じこもり」の割合は、低学歴の人ほど高いことも分かりました。

 従来、健康は疾病、肥満、飲酒、喫煙などの有無から検討されてきました。しかし、所得や学歴など社会経済面が大きな影響を及ぼしています。貧困や格差のある社会が引き起こすストレスやうつなども重視すべきです。

所得格差、人間関係の希薄ストレスを高める

 社会のあり方がどのように健康に影響するのか? 二つの説を紹介します。一つは、「相対所得仮説」です。所得格 差が大きい社会と小さい社会では、そこに暮らす人の健康度が違う、という説です。格差の大きい社会では、相対的に「低所得だ」と感じる人が多くなり、それ がストレスを高め、全体の健康水準が下がる、という説です。

 もう一つは、「ソーシャル・キャピタル仮設」です。人間関係や連帯感、信頼感などが乏しい社会は、ストレスが高まり、健康に悪いという説です。そして所得格差が拡大している社会では、信頼感が乏しいことが示されています。

 所得や学歴などによる社会格差が拡大すると、不安や不満など心理的なストレスが高まります。それが内に向かえば、うつ状態や自殺に、外に向かえば、犯罪や暴力につながると考えられます。

 その原因を放置したまま、「安全はお金で買う時代」といって、登下校中の子どもたちにガードマンをつければ、果たして安全は確保できるのでしょうか?

格差の少ない社会は居心地良く健康的

  「所得格差は、効率の高い経済成長する社会には必要だ」、という人たちがいます。しかし、国際比較研究からは、所得格差と経済成長の大きさとは関係ありま せん。また経済成長して、経済的に豊かになっても幸福(生活満足感)を感じる人は増えません。むしろ不幸を減らすために失業や疾病になったときの不安を和 らげる対策をとる方がよい。格差の少ない社会の方が居心地の良い、多くの人が不幸にならない健康な社会といえるでしょう。

 イギリスでは政府が、健康格差が拡大していることを認め、それを阻止するため「健康の不平等への行動プログラ ム」を発表しました。健康格差を個人の責任にするのではなく、社会問題として共有し、社会全体で解決していくためのコミュニティ政策から社会保障政策まで 含む総合的なプランです。

 この方向でとりくんでいるヨーロッパの国ぐにと、反対に格差を放置しているアメリカがあります。いま日本がどちらの道を選択するのかが問われています。

 アメリカ型に近づく医療構造改革をすすめ、お金がないと病院にもかかれなくなる、そんな健康格差を拡大する方向はとるべきではないと考えます。


近藤克則さん  日本福祉大学教授。1983年千葉大学医学部卒。千葉民医連・船橋二和病院元リハ ビリテーション科長。2000年、英ケント大学に留学。主な著書に、『「医療費抑制の時代」を超えて-イギリスの医療・福祉改革』(医学書院、 2004)、『当直医マニュアル2006~07年版』(共編著、医歯薬出版、2006)など。

(民医連新聞 第1373号 2006年2月6日)

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