民医連新聞

2006年3月6日

1職場1事例運動 交流しました 患者さんを支援して職員の確信や感動に

「人権のアンテナを高く掲げ、職場から受療権を守るとりくみを」と提起された「1職場1事例運動」。1月27日の交流集会には30県73人が参加し、 10の指定報告を受け交流しました。浮かびあがったのは、病気、失業などをきっかけに貧困に陥り、低賃金、高い国保料、社会のゆがみなどで泥沼化する事例 の深刻さです。職場で知恵を出し、様ざまな組織の力も借り、生活保護や国保法44条・77条を使い、援助した経験が出されました。県連・法人の単位で推進 体制をとる経験にも学びました。(小林裕子記者)

情報集めるしくみを

 東京・新松戸診療所では「いのちと暮らしのアンケート」を、国保・介護保険料の納付書が届く六月に毎年実施し、「国保の減免を受けたい」という要求を把 握しています。また常に相談を受ける態勢をとり、中断や資格書受診、保険証変更によるレセプトの返戻にも着目。地域の「国保をよくする会」や社保協の学習 会、諸団体の健康相談などにも出向いて地域の情報をつかむ「手がかり」にしています。問題を抱えた患者さんを訪問し、話を聞くことを業務に位置づけていま す。(関智子さん)

■  ■

 和歌山民医連は、医療生協・労働組合とともに「気になる事例検討会」を実施してきました。昨年一一月から二五日 を定例日にし、「気になる事例メモ運動」を事業所に提起。メモカード(写真)を備え、「気になる事例」に出会ったらその場で記入、職場会議の検討を経て、 一例を検討会に出す、という流れです。主旨を書いて全職場に掲示しています。この三カ月で一七事例を検討会にかけ、定着をはかってきました。(藤沢衛さ ん)

解決の援助体制つくり

 長崎・大浦診療所は、慢患・検診委員会が中心になり「気になる患者フォローシステム」をつくりました。気になる患者とは、(1)看護日誌、(2)毎週の 全職種参加のミニカンファ、(3)「111運動(職員一人が一日一人の中断患者に電話をかける)」からつかんだ、問題を抱えた患者さんや家族です。

 パソコンに入力し、対応を話し合い、必要に応じて訪問します。毎週、看護師と各部門一人がペアで出かけ、状況はカンファで報告しています。(宮崎佳代子さん)

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 富山民医連は県連に「生活相談担当者」を置いています。事業所が受けた患者さんの相談にアドバイスし、役所にも同行、問題解決を推進しています。富山診療所も毎月二五日を「何でも相談の日」にし、地域にアピールしています。

 同県では、六五歳以上で四~六級の障害者の医療費を無料にする「福祉医療費助成制度」が、市民の運動で今年も継続になりました。(中山雅之さん)

薬局もがんばる

 静岡・ことぶき薬局では、流動栄養食ラコールの減点査定を撤回させ、患者の自費負担を防ぎました。能書にある使用法なのに「経口使用」を認めないのは宮 城と静岡の国保だけ。製薬会社への働きかけや医師の申し立て書を提出して交渉。助かった患者さんの負担額は二万五〇〇〇円です。(林昭文さん)

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 宮城・つばさ薬局は、中断や未収金のある患者さんを訪問しています。目的は回収ではなく、受診を復活し、回収できる状態になるよう支援すること。「生活いかがですか?」と声をかけます。新入職員から訪問に疑問が出たら、「行ってみて考えよう」と提起しています。
(日下晋さん)

事例が力になって

 事例運動は職場づくりにも役立っています。「訪問・カンファなどで問題に気づき、集団で検討した。患者さんを助けられたことが、職員の確信に。看護師の 粘り強い姿勢に感動」と、愛知・有松診療所の岩田義正さんは報告しました。

 共同組織との連携も出されました。事例検討で「この年金なら生活できるのでは?」と考えた職員も、「会員から高齢者の生活実情をリアルに聴いたら変化し た」と滋賀・膳所在宅ケアステーションの井上早苗さんは話しました。

 大阪民医連は、この冬、夏の熱中症調査に続き、暖房調査を実施。コタツしかなく風邪が治らないなど、貧困が命・健康を脅かしている実態がわかりました。

 「失業すると生きていけない」「治っても、五〇代のブルーカラーに仕事がない」「最後の依り所の生活保護が、行政の受給制限で、必要な人が申請せずがま んしている」「労働組合の力を借りるのも大切」など、実感が出されました。

■  ■

 事例は行政との交渉でも力を発揮しています。鹿児島医療生協の在宅介護の家族会「やすらぎ会」は、一九八五年に 結成して以来、県・市と定期的に懇談し、訪問給食事業、在宅酸素の電気代補助、紙おむつ助成、介護保険減免制度などを実現し、いまも介護負担軽減で交渉中 です。「事例を示すことは訴える上で有効な手段」と井上豊子さんは報告しました。

 「資格書の説明をしたら患者が帰ってしまった。いっしょに役所に相談に行こうとしていた患者が心筋梗塞で亡くなるという苦い経験を繰り返したくない」 「患者と接しない職種にどう参加してもらうかも課題」「SWをもっと活用して」などの意見も出ました。

 内間均理事は「一事例の運動を、全職場にひろげ、大きな社会保障運動に発展させよう。秋に再び経験交流を」と集会をまとめました。


報告された事例から

■父の入院で自分の治療費が出せない■

 Aさん(40代)は糖尿病で、5人家族が月収30万円で暮らしていたが、父親がガンで入院し、自分の医療費が払えなくなった。

→国保法44条による減免を申請したが却下、再申請を検討中

■家族2人が入院。無保険で困り果て■

 Bさん(70代)は、妻がくも膜下出血で入院、息子(30代)は仕事中、建築現場から転落して入院。自営業が続けられず借金し、家も処分し市営住宅へ。 それでも国保料が払えず無保険に。自費も困難で妻の治療が続かない。

→妻の身障手帳を申請、医療費無料制度を活用。生保も受給する

■ケガで受診した患者は、糖尿治療を中断、失明していた■

 Cさん(50代)は側溝に落ちたケガで受診。糖尿病だったがインシュリン治療を中断し、目にアメーバ状のものが出たが放置、突然の失明となってしまっ た。転勤が多く、10年以上外食を続けていた。会社が倒産し、国保料も払えていなかった。

→生保受給を支援、目を手術し退院

■ネズミ講で借金が…■

 中断がちのDさん(60代)は、受診のたび「高い」と苦情を言うので話をきくと収入が不安定で少ない。「ネズミ講」に入会し70万円の借金があった。研 修も受けさせられたが、「親切な友人」の紹介なので、悪質だと考えなかった。背後には消費者金融がいて、「金になる」と、貧しい人たちを餌食にしている。

→Dさんが保存していた契約書・記録類をもとに解約させ、市で初めて国保法44条による減免を申請

■息子からの虐待を発見■

 右下腿の巨大潰瘍でEさん(80代)が受診。着衣の汚れや異臭も。

→病院のシャワーを使ってもらうなどして信頼関係を築く。医師の診察や訪問で、50代の息子からの虐待に気づいた。離れ住む家族や行政と連携を取る。再び Eさんが虐待で負傷したため、介護保険を申請し緊急入所。息子は精神科受診し生保を申請

■仕事中のケガで退職を迫られた■

 Fさん(50代)は、重い荷物を運ぶ配送の仕事でアキレス腱を痛めた。しかし、会社は退職と借金返済を迫った。蓄えはゼロ。前の会社で、些細な事故を個 人責任にされ、数十万の預金を取りあげられていた。

→生保申請の一方、労働組合に相談。会社と団交し無理ない返済計画を認めさせた

(民医連新聞 第1375号 2006年3月6日)

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