民医連新聞

2008年2月18日

9条は宝 発言(33) 世界の英知あつめた憲法護り、守られ、未来へ

堀毛 清史さん(医師)
 1955年兵庫県生まれ。全日本民医連理事。北海道勤医協副理事長、もみじ台内科診療所所長。地域の医療連携をすすめ、健康教室などの講師活動を行う。

 第三八回総会議案の新綱領改定草案に「私たちは、日本国憲法の理念を高くかかげ」と明記されました。堀毛清史理事は「時代の要請」と語ります。

 先日受診した四〇代の男性は、急に体重が二〇kgも減り、血糖値が七五〇mg/dlの重症糖尿 病でした。トラックの運転手で、朝二時から午後二時と、午後四時から八時までの二つの仕事をかけ持ちし、睡眠時間が二~四時間、食事が摂れない時もあり、 働きづめでした。入院をすすめると、「健康保険に入っていない。歩合給が減ったら家族が生活できない」と断りました。「せめて食事を規則的に、必ず外来に 来て」としか言えませんでした。
 「眠れない」という七〇代の女性患者さんは、自衛隊基地のそばに住んでいます。騒音が九五デシベル、これは電車の高架下くらいです。国の補助金で防音装 置を付けたら、雨音も虫の音も聞こえなくなった。無音の生活に耐えられず窓を開けると、とたんに九五デシベルというわけです。
 この人たちは日本国憲法二五条の「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されていないのです。

憲法が国に命じたこと

 実はこの二五条が、僕は若いころから疑問でした。なぜ「最高」でなくて「最低限度」なのか? 四年前、医学生に憲法と医療について話す機会があり、集中的に勉強しました。そして分かったのです。
 憲法の中心を貫いているのは、一三条の「幸福権の追求」をもとにした「基本的人権」です。土台になるのが「自由権」、その上部に「社会権」があります。 あわせて自由と平等です。これは戦前は保障されず、妨げたのは戦争と絶対的天皇制でした。そこで一番上に「戦争放棄」と「国民主権」を定めました。憲法は こういう重層構造なのです(「日本国憲法重層構造論」)。
 二五条は社会権を規定し、憲法は国に対して「すべての国民にこれこれを保障する」よう義務付けています。だから「最低限度」を使う。「国のめざす目標」 ならば「最高の」でしょうが、命令だから「これ以下にしてはならない」のです。「最低限度」という言葉の歴史的値打ちに気づきました。

未来に対する宣言

 よく調べてみると、この重層構造は人類の歴史につながっていました。「自由権」は、一八~一九 世紀に獲得した権利概念です。その後、二〇世紀までに「社会権」が生まれました。そして「平和のうちに生存する権利」は、世界で初めて、日本国憲法が二一 世紀に向けて掲げた理念です。これは未来に対する宣言です。
 でも、どこかで聞いたことがありませんか? そう、ジョン・レノンの「イマジン」にあります。「イマジンライフ イン ピース(想像してごらん、平和な人生を)」。
 「これからの世界は、武力でなく、話し合いで平和をつくる」と具体的に示したのが九条です。僕がそれを強く意識したのは、チェチェンのテロ軍がロシアの 小学校で、大勢の子どもを殺した事件のときです。朝日新聞にこんな記事が載りました。「人質の母親が『なぜ子どもたちにひどいことをするの』と叫んだ。武 装集団の一人は『我われの子どももロシア軍に殺された』と話した」。僕はこれを見て胸が詰まり、ある童話を思い出したのです。

チャランケ(話し合い)精神で

 宮沢賢治の童話『二十六夜』では、梟のお坊さんが復讐は「ならぬ」と説きます。「仕返しの連鎖が起きる、耐えよ」と。理不尽なことをされたら激しく抗議すべきです。でも暴力はいけない。いのちの大切さと共存する社会をつくるべきです。
 アイヌ語の「チャランケ」は、話し合うとか討論するという意味です。部族が共存をはかる方法として編み出されました。チャランケの考え方が、いま世界レベルで必要です。
 民医連は、いま新綱領草案について検討をすすめています。憲法に込められた人類の財産の重みを、私たちの活動の柱にすべきだと思います。
 憲法一二条がいうように「不断の努力」で憲法を守ることは、憲法に書かれている国民の自由や権利を守ることです。枝を大きく広げた樹が憲法で、人びとは 樹の下で守られ、一方私たち日本国民はチャランケの精神で憲法を護っている。「この憲法を護り、この憲法に守られる」、そんな風に捉えたいと思っていま す。
 民医連の綱領が憲法に依拠することを明文化することは、時代の要請だと思います。憲法を護るたたかいと地域住民の人権を守ることを統一してすすめたいと考えています。

(民医連新聞 第1422号 2008年2月18日)

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