民医連新聞

2008年3月3日

相談室日誌 連載257 患者さんの心の声が聞きたい 馬目(まのめ) 伸悟

半年前から食欲不振が続いていたAさん(五〇代・男性)は、国民健康保険に入っておらず、受診を我慢していました。同居人のBさんから当院に相談があり、その日のうちに受診してもらいました。
 Aさんは一度結婚しており、二人の娘さんがいます。離婚して福島県に移住、Bさんと暮らすようになりました。しかし、仕事がうまくいかず、四〇代の時、 一人東京に出て職を転てんとしたそうです。そのころ体調が悪くなり、Bさんのところに戻り、再び二人で暮らしていました。
 検査すると、胃に腫瘍がみつかりました。しかし、腫瘍が大きいため手術ができず、抗癌剤で治療することになりました。生活保護の受給はすぐにできました。
 入院して数日後、食事も取れるようになったため退院しました。しかし数カ月後、状態が悪くなり再入院しました。
 だんだん状態が悪くなるAさんに、「何かしたいことはないですか」と聞くと、「別にない」と言いました。しかし、いよいよ悪くなってくると、Aさんは 「家に帰りたい」と訴えました。Bさんに相談したところ、「病気が病気だけに病院のサポートがあっても不安が大きい。まして籍も入れていないので、責任は 負えない」と言われ、退院は見送りました。
 その後、Aさんは危篤状態になり、それまで「呼ばなくていい」と言っていた娘さんに「会いたい」と言い出しました。すぐに県外に住む娘さんに状況を説明 し、来てもらうことになりましたが、Aさんの状態が悪かったため、電話で娘さんの声を聞いてもらいました。結局、娘さんは間に合わず、Aさんは亡くなりま した。
 このケースを通して、自分は一体Aさんの気持ちをどれだけ分かっていたのだろうかと思います。もしかしたら、もっと早くから家に帰りたい気持ちがあった のではないか、娘さんに会いたいと思っていたのではないだろうか。そうだとしたら、違う援助ができたのではないだろうかと思うこともあります。
 今後、もっと患者さんの心の声が聞き取れるようなソーシャルワーカーをめざしたいと思います。

(民医連新聞 第1423号 2008年3月3日)

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