民医連新聞

2008年3月3日

第8回 学術・運動交流集会の報告から “被爆者に甲状腺疾患が多い” 検診で証明、原爆症申請を支援

兵庫・東神戸診療所 野口和江(臨床検査技師) 郷地秀夫(医師)

 被爆者が甲状腺機能障害になりやすいという論文に着目し、検診で確認。原爆症認定申請の援助に役立てている兵庫・神戸健康共和会からの報告です。集団訴訟の支援に全国的な統一検査の必要性を提起しています。

 当法人は長年、被爆者医療を重点の一つにしてきました。東神戸病院と東神戸診療所を合わせて、毎年約六〇〇人の被爆者検診を実施しています(一般検査・がん検診・精密)。
 二〇〇六年度から精密検診の中に、甲状腺検査を取り入れました。甲状腺疾患(特に甲状腺がん)は放射線障害で起こることが知られています。二〇〇六年一 月に放射線影響研究所が「被爆者約四〇〇〇人の調査で五〇%近い被爆者に何らかの甲状腺疾患がある」と発表しました(JAMA)。
 原爆症認定集団訴訟の大阪地裁で九人全員が「認定」の勝利判決を得ました。うち二人が甲状腺機能低下症でした。こうしたことから甲状腺検査を重点にしました。

7人の甲状腺がん発見

 甲状腺機能検査の項目は、甲状腺ホルモンと甲状腺自己抗体検査です。これを夏・秋の精密検査で五三二人に実施しました。
 また、三九二人に甲状腺エコー検査を実施。エコーで直径一cm以上の腫瘤を認めた場合に、さらに精密検査を行いました。
 その結果、甲状腺がんを三九二人中七人(一・八%)に認めました。日本人の臨床的甲状腺がんの罹患率は一〇万人中、三人という報告があるので、被爆者の罹患はとても高率です。
 また一般に、被爆時の年齢が低いほうが発がんリスクが高い、とされていますが、七人とも被爆時の年齢は一九歳未満でした。六人が手術を受け、原爆症認定 の申請をしました。なお〇七年末で甲状腺がんは一〇人に増えています。

機能低下が多い

 甲状腺機能検査で、FT4が低値かつTSHが高値の場合は原発性甲状腺機能低下症(多くは橋本病)、TSHだけ高値の場合は潜在性甲状腺低下症とされています。
 潜在性を含めると、機能低下者は男性二三五人中三七人(一五・七%)、女性二九七人中四〇人(一三・四%)、合計五三二人中七七人(一四・五%)でした。
 一号被爆者(直接被爆者)を被爆距離別に見ると二km以内が一七・八%で、二km以遠は若干低く一一・四%。二号被爆者(入市被爆者)は一五・八%で、 三号被爆者(救護などで被爆した人)は一六・二%でした。甲状腺の自己抗体、抗TG抗体および抗TPO抗体の陽性率は各二〇・〇%、一九・五%で、どちら かが陽性は三三・三%でした。
 距離別で検討してみると、第一号被爆者の二km以内と二kmを超える群、第二号被爆者の陽性率は四〇%前後と高く、第三号被爆でも一七・七%と高率でした。
 甲状腺機能低下症については原爆症認定申請をすすめ、六人が申請しました。

甲状腺の全国調査を!

 当院の被爆検診対象者は六〇〇人ほどに過ぎません。全国の民医連の病院・診療所が、被爆者の精密検診に統一した甲状腺検査を取り入れれば、甲状腺疾患が見つかり、全国で多くの被爆者の原爆症認定申請ができると思います。
 また、学術的データにもなり、原爆症認定集団訴訟を支援する大きな力になると思います。ぜひ実現させたいものです。

(民医連新聞 第1423号 2008年3月3日)

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