憲法を守ろう

2008年4月21日

9条は宝 私の発言〈34〉 平和でこそ医療なりたつ ノーモア・ヒバクシャ・戦争

肥田(ひだ)舜太郎さん(医師)
 1917年広島市生まれ。全日本民医連顧問。日本被団協中央相談所理事長。広島陸軍病院赴任中に被爆、被爆者の救援にあたる。埼玉協同病院院長や埼玉民 医連会長を歴任、いまも諸外国で被爆の実相を語り、核兵器廃絶を訴える。著書に『内部被曝の脅威』(ちくま新書)、『ヒロシマを生きのびて』(あけび書 房)など。

 九〇歳を超えてなお、日々被爆者の苦しみを受けとめ核兵器の廃絶を力強く訴え続けています。民医連の大先輩でもある肥田さんに話を聞きました。

 みなさんは被爆のことをどのくらい知っていますか。
 米国は原子爆弾を、たった一回実験して三週間後に広島に落としました。それは、日本を降伏させるためではなかった。すでに降伏は確実で、ヤルタ会談後、 ソ連が参戦する見込みの中、「日本を降伏させたのは米国だ」という実績をつくり、戦後の権益を有利にすることが目的でした。
 さらにもう一つの目的が、日本人を原子爆弾の実験台にすることでした。米国は原爆の破壊力は知っていたが、人間にどんな影響を及ぼすかも知りたかった。これが後にわかった真相です。
 そして、広島と長崎は地獄と化し、二十数万人が死亡、生きのびた被爆者も大変な苦しみを強いられました。

医療を無力にした原爆

 軍医だった私は、広島の戸坂村(爆心地から約六km)で往診中に被爆しました。ケガがなかったので、爆心地に救援に向かいましたが、すさまじい破壊の中で阻(はば)まれ、結局、村に戻り被爆者の治療にあたりました。
 そこに集まった三万人もの被災者に対し、医師は三〇人ほど。医療なんてものじゃありませんでした。死者か息があるかを確かめるのが、医者の仕事というありさまでした。
 さらに、そこで体験したのは、医師の理解が及ばないことでした。
 助かると判断した(ケガが軽い)人が、出血と脱毛、口中の粘膜が壊疽(えそ)を起こし次つぎと死亡します。異様でした。急性の放射能症状だったのです。
 続いて起きたことは、直接に爆弾を浴びていない人の死亡です。まったく同じ症状でした。警官や消防員、兵隊など救援や遺体の片付けに来た人、家族を探し に来た人です。壊れた寺の本堂や広場の木陰などに重傷者が寝ており、みなボロボロに焼け、何か身に纏(まと)っていればよい方という中、焼けていない服を 着ているので、一目でわかります。その人が「なぜ? 私は爆弾に当たっていない」と言いながら亡くなるのです。驚きと不安でいっぱいでした。

隠された被爆者の苦しみ

 その後、私は残った患者と山口にできた国立病院に行き、厚生省の技官として働きました。そして労働組合の運動に参加したため、レッドパージを受け失業。友人の須田朱八郎君(全日本民医連の初代会長)に教えられ、民主診療所の建設に参加しました。
 その間ずっと「なぜ被爆者がこんなふうに死ぬのか」という疑問を抱えていました。原爆の影響は何十年たっても、がん、白血病などさまざまな形で現れ、被 爆者を苦しめ、命を奪っていきます。その理由が「内部被曝」とわかったのは後年、被爆者とともに米国に行き、スターングラス博士の著書『低線量放射線』を 読んでからです。
 米国は一貫して被爆の調査資料を隠し続け、被爆者を検診しても治療をせず、日本の医師が調査することも禁止しました。日本政府や警察が同調したため、被 爆者は差別を受け、被爆を隠し続ける人も多くいました。そういう中、被爆者が安心して受診できる民医連の診療所の存在は大切でした。
 その後、被爆者の運動は核兵器廃絶運動と結びつき大きくなりました。私も民医連の医師として、被爆者とともに被爆の実相を明らかにしながら、国家補償を求める運動に尽力しました。
 日米政府は「二次被爆の影響はない」「生存被爆者は健康」と言いました。しかし被爆者は、身体の奥深くに、放射線の影響で起きる病気の烙印を押され、心 身の苦しみと差別と貧困の中で暮らしているのが事実です。被爆者自身の身体と体験を根拠に「原爆は人間にとって受忍できない」ことを明らかにし、認めさせ てきました。

戦争と医療は両立しない

 医療は平和の中でないと成り立ちません。戦争の中でやることなど医療ではなく、人の命を粗末にする戦争は、医療とは両立しません。憲法九条をなくすのは「戦争しません」という約束をやめることです。絶対に反対です。
 私たちの相手は、病という不幸を背負った人間です。その身になって支援する仕事、患者が訴えたいことを受け止めることで、医療従事者は成長していきま す。みなさんにも、人間を苦しめる病気・戦争の根っこは何か、おおいに勉強してほしいと思っています。

(民医連新聞 第1426号 2008年4月21日)

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