民医連新聞

2008年6月2日

原爆症認定・集団訴訟 座り込みで訴える 原告全員の救済を早く

  原爆症の認定制度の改善を求める「集団訴訟」は、いま全面解決に向けた大切な時期を迎えています。昨年までに出た六地裁の判決は、どれも国の認定行政を厳 しく批判するものでした。しかし国はすべて控訴し、裁判を続けながら一方で「新しい審査の方針」を策定し、この四月からこの方針で認定を始めました。その 問題点と、三〇五人の原告の思いを、日本被団協事務局長の田中煕巳(てるみ)さんに聞きました。

 いま裁判は、一五の地裁と六つの高裁でたたかわれています。大坂高裁(原告四一人)と仙台高裁(原告二人)で間もなく判決が出ます。
 これまでの裁判で、原告は六〇年余にわたる苦しみを吐露し、被爆の残酷さを明らかにしました。地裁の裁判官はそれを受け止め、「救済すべき」との判断を示しました。この土台は崩れないと思います。
 私たちが求めているのは、被爆者の思いを受け止めて、原告全員を認定することです。

線引きせず救済を

 厚労省の「新しい審査の方針」は、放射線の起因性を求める点では、あくまで線引きし、被爆者を切り捨てるための手段です。積極的認定をうたっていますが「どう救済するのか」という視点がありません。私たちはこれが一番の問題だと考えています。
 「線引きする」という考えは、一見「科学的」に見えて、まったく違います。原因確率論は、爆発の初期放射線についての疫学調査に過ぎません。残留放射線 や内部被曝で起きる問題を無視しています。裁判のなかで、その限界が明らかになりました。
 原爆の被害、放射線の被害は、まだ解明できていない部分が大きいのです。それは被爆者の心身の苦しみがもの語っています。
 「線は引かない、引けない」というのが科学的な態度だと思います。

原爆を告発する証人

 厚労省は、交渉の中で「線引きは認定制度ではあたり前」とか「救済の原資は国民のお金だから」などと言います。しかし、原爆被爆は戦争被害の中で最悪で、二度と繰り返してはならないものです。被爆者はその「生き証人」です。
 戦争の加害も被害もあってはならない。国民がそれを忘れないために「被爆者を助けて大事にする」 。それが当たり前であっても良いと思うのです。
 それに、必要な予算は四一億円ですが、被爆者対策費全体の「原資」は増えません。残念なことですが、毎年一万人ほど亡くなる被爆者の健康管理手当の減額 内で、全員を認定してもまかなえます。一方、国は巨額の軍備費を支出し、また戦争する国になる動きを強めています。これに被爆者は心を痛めています。

核兵器廃絶への思い

 集団訴訟の目的は、全員で勝利し、原爆症認定制度を抜本的に改善させることです。長く苦しんできた被爆者を救済する立場で、理屈抜きに認定してほしい。こう総理大臣に迫りたいと思っています。
 また、集団訴訟は原爆に対する告発です。法廷の内外で原爆被害の全体像がいっそう明らかにされました。被爆者は常に核兵器廃絶を最高の目標にしていま す。被団協は五~六月に、座り込みや集会、署名・宣伝を強め、もう一度、全国会議員と政党に総当たりすることにしています。
 集団訴訟を勝ち抜くことは被爆者だけの問題でなく、国民的な課題です。民医連のみなさんの支援も期待しています。

「新しい審査の方針」の問題点

 「1.積極的に認定する範囲」として、(1)被爆地点が爆心地より約3.5km以内で ある者、(2)原爆投下約100時間以内に約2km以内に入市した者、(2)約2週間以内に約2km以内に1週間程度以上滞在した者の悪性腫瘍・白血病・ 副甲状腺機能亢進症・放射線白内障(加齢性を除く)・放射線起因性が認められる心筋梗塞が加えられたが、甲状腺機能低下ほか裁判で認められた疾患が除外さ れているなど疑問が多い。また、「1に該当しない場合、個別にその起因性を総合的に判断」とされたが、認定の基準が明確でないだけに、勝訴原告からも非認 定者がでる恐れがある。

(民医連新聞 第1429号 2008年6月2日)

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