アスベスト対策

2008年6月2日

フォーカス 私たちの実践 住民検診の胸部レントゲンから アスベスト曝露(ばくろ)を調査

住民検診約1%に「胸膜プラーク」

建設業退職者などのフォローに有用

東京・小豆沢(あずさわ)病院 井上修一(医師)

 アスベストによる中皮腫・肺がんなどの被害が社会問題になり、石綿障害予防規則が二〇〇五年七月に、「石綿による健康被害の救済に関する法律(石綿新法)」が〇六年三月に施行されました。しかし、一時の報道熱は冷めているように感じられます。
 一方、今年度から「特定健診」が始まり、多くの自治体で住民が胸部レントゲン検査を受けられなくなりました。しかし、「住民検診」でアスベスト曝露に関 連した所見を調査することは、職域検診を受けない人びとの状況を知るうえでも、地域の汚染状況を知るうえでも重要です。

住民の1%に「石綿」所見

 今回、アスベスト曝露との関連が深い「胸膜プラーク」を「住民検診」の胸部レントゲンでチェックし、検討しました。
 対象は、二〇〇五年度の板橋区住民検診(三五歳以上が対象)で小豆沢病院に受診した二八〇四人と、二〇〇六年度の二八〇七人です。胸部レントゲン写真 (直接撮影)を呼吸器科の医師が読影し、両側にあり石灰化をともなう肥厚した胸膜を「胸膜プラーク」、じん肺法の不整形陰影(I型相当)以上を「石綿疑 い」としました。
 職業歴は、厚生労働省から医療機関向けに配布されている「石綿曝露歴チェック表」を用い、対面で聴取しました。
 結果は、二〇〇五年度分の二八〇四人中、一〇人に明らかな胸膜プラークを認めました。検出率は〇・三六%で、その八〇%が職業的曝露によるものでした(表)。
 年齢は五八歳から八五歳。男性九人、女性一人。就業期間は一九四三年~現役までおり、職業歴では、建設業やボイラー操作従事者など、明らかな職業性曝露 が八人。とくに建設関係はその半数の四人でした。二人については、職業との関係ははっきりせず、居住歴などからも環境性曝露は不明でした。
 二〇〇六年度については、胸膜プラーク、石綿肺を疑わせる不整形陰影は四四人でした。二年分を合わせると
検出率は約一%でした。

アスベスト曝露の指標

 アスベストの高濃度曝露では、すべてのアスベスト関連疾患が発生しますが、一般住民に見られる低濃度曝露では、胸膜プラークや良性石綿胸膜炎、中皮腫(胸膜の悪性腫瘍)が発生します。
 胸膜プラークは胸膜肥厚斑あるいは局限性胸膜肥厚ともよばれる胸膜病変です。アスベスト関連病態の中でもっとも頻度が高く、アスベスト曝露の良い指標になり、検診では極めて重要な所見です。
 最低でも一〇年、概(おおむ)ね一五~三〇年で認められ、石灰化には二〇年以上かかるといわれています。それ自体は無症状で、肺機能にほとんど影響しま せんが、経過観察することで中皮腫など悪性の病気の早期発見につながります。

住民検診の充実で掘り起こしを

 住民検診での「胸膜プラーク」の報告はいくつかあります。熊本県松橋町で一九八八~一九九三年に実施した検診で、九八三二人中九三八人(九・五%)に認めたとの報告があります。
 スウェーデンの調査では、四〇歳以上の一九八五年住民検診で二・七%に胸膜プラークを認め、その八八%が職業性曝露と報告されています(一九九一年)。
 第五五回産業衛生学会で海老原らは、老人健診の胸部レントゲン一万枚を読影し、産業立地とアスベストの影響について発表しました。「消費されたアスベス トの多くが建材に含まれ、アスベスト曝露の危険性が高かった元建設労働者の多数に胸膜プラークが認められた」と報告しています。
 こうした報告から、引退した建設労働者には「住民検診」が有用です。今回の調査からも、住民の一%程度に胸部プラークが存在すると推測されます。工場周 辺住民や一般家庭環境での曝露形態である低濃度曝露による胸膜疾患を掘り起こすためにも、「住民検診」は有用と考えられます。

(民医連新聞 第1429号 2008年6月2日)

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