民医連新聞

2006年4月17日

療養病床 23万床削減 高齢者の行き場まで奪う医療改悪法案から患者守れ

 「二〇一二年三月末までに、介護型療養病床一三万床を全廃、医療型は二五万床を一五万床にする」。この削減計画を、政府は突然「医療制度改革関連 法案」で打ち出しました。しかも七月から、療養病棟の入院患者を「医療区分」。これに応じて診療報酬を引き下げ、経営面からも病床縮小を誘導する形です。 この余波は、患者を療養病床に送れなくなる急性期病院にも及びます。三年前に一般か療養かの病床選択を迫られ、設備投資をしたばかりの病院も多く、民医連 の「療養病床の廃止・削減の中止」「医療区分実施は延期を」の提案に賛同が集まっています。(小林裕子記者)

療養型120床の病院では

 医療型療養病床一〇〇床と介護型二〇床を備えたみさと協立病院(ほか精神科病棟六〇床)を取材しました。

 「社会的入院の解消だ、といって片付けられる問題ではない」と、生田利夫医師はいいます。

 療養病棟の患者さんのほどんとは、脳血管障害の後遺症で身体が不自由です。糖尿病、肺気腫、肝硬変など内科の病 気や認知症を合併していますが、慢性期です。とはいえ、入院中はインスリン注射が要らないほど改善するが、退院すると悪化する患者さん。すきま風が吹き込 む家に居られず、冬だけ入院する在宅酸素の患者さん。褥そうが悪化して施設から来た患者さん…入院の理由はそれぞれ。自宅には長く居られず、グループホー ムなども受けられない状態です。この人たちを「社会的入院」と言えるでしょうか?

 患者さんの世帯をみると、独居、老夫婦が多数です。妻や夫も病気、入院中という人、若い家族がいても独身で、仕 事を辞めれば食べていけず、介護ができないケースも目立ちます。徘徊・せん妄・暴力などの症状に対応できなくなったり、全介助に疲れ果てた家族もいるそう です。とても在宅には帰せない状況でした。

***

 「胃ろう」のある患者さんがたくさんいました。胃ろう管理だけの患者は、七月から最も低い「医療区分Ⅰ:入院の必要性の少ない区分」にされ、診療報酬は半減します。

 「今後、胃ろうをつくって生かしてほしいと希望しても、転院先がなく、家で看て下さい、となるのでは」生田医師は心配します。同院では、胃ろうの患者さんが、嚥下リハビリで口から食べられるまでに回復した例をいくつも経験し、家に帰してもいます。

療養病床は効果ある削減の根拠ない

 生田医師は、往診の体験から言います。「ここの患者さんと同レベルの病状で在宅でがんばっている人も確かにいる。しかしその覚悟を、誰にでも求めるのは無理」。

 厚労省の調査で「医師の管理が常時必要ですか」と聞かれれば、「必要ない」と答えたのかも知れない、しかしそれは単に断面での医学的な判断。介護施設並みに報酬を下げたり、療養病床を減らす根拠にならない、と憤ります。

 病院を三カ月ごとにたらい回しされていた患者さんが、療養病床に来て、落ち着いて治療をすると、見違えるほど改善するそうです。在宅でギリギリまでがんばって、入院してきた患者さんに、社会的支援もないまま「まだ、がんばれ」といえるのか…と。

「7月実施」は延期を

 同院の乾招雄事務長が、七月からの療養病床の診療報酬を試算すると、年間で約一億円の減収になりました。

 「医療区分I」の患者を受け入れると赤字要因になってしまいます。「だからといって断るわけにいかない。しかし、II・III区分の患者さんを優先する傾向になるのでは…」と、乾さん。療養病床をもつ病院はすでに悩ましい問題に直面しています。

 「厚労省は医療区分にもとづく改定を七月に強行せず、延期して軌道修正すべき」と乾さんは主張します。「経済的に困難で、病人を抱える家族は弱い。病人を家族任せにしたら共倒れになる。悲惨な結果になります」。

 「介護難民」23万人?!

 政府の説明は、「医療型・介護型どちらの療養病床に入っている患者も、多くは入院の必要性が低く、在宅、 老健施設、有料老人ホームで十分」というもの。この案が示されたとたん、経済団体などは「賛成」の声明を出しました。理由は医療費の削減効果、つまり企業 負担を減らせるから。

 では、病床を減らす代わりに介護施設が充足されるのかというと、そうはなりません。介護保険法の改悪で、 4月から国の介護施設分の負担割合が変わり、25%から20%に縮小、都道府県負担が12.5%から17.5%へ増えました。各県の施設づくり計画にブ レーキがかかったのが実際です。いまでも特養ホームの待機者は38万人。「介護難民23万人か」という不安も広がっています。今年10月からは、療養病床 の居住費・食費が患者の自己負担も導入に。

全国9150の病院に 要請書を発送

 4月1日、全日本民医連は、すべての病院に、厚生労働大臣宛て「介護療養病床の全廃・医療療養病床の大幅 な削減を中止し、療養病床入院基本料の抜本的な是正を求める緊急要望書」「質の高い安全な医療提供のため、『7対1入院基本料』を病棟単位の設定にし、看 護改善を国の責任で進めることを求める要望書」の2つの用紙とアンケートを発送し、協力を要請しました。

 直後から、反響があります。「ありがとう、必ず要請する」と電話が入り、アンケートには怒りの声が…。

 一般病床から金をかけて転換し、戻さない念書もとっている。これでは詐欺/患者の不幸のみならず、病院経 営者は返済不能に陥る/重大な社会問題になると学者や役人を説得しなければ/帰宅できない患者のために赤字覚悟で診療する/介護難民の激増にどう対処する のか/政策に現場は右往左往させられ、正常な医療活動ができない。

【北海道では】
閉院した病院も…地域医療が危ない

 今回の医療改革法案と診療報酬について懇談するため、当院の院長・事務長が市内の病院を訪問しました。

 ある療養型病院の事務長は「改定で二〇%のマイナス。途方もない影響で、やっていけなくなるのでは」と、団体署名をしてくれました。

 また、急性期に特化した病院では、「今回の改定で療養病床が減れば、亜急性期から慢性期の患者の受け入れ先がなくなる。すると急性期病棟が維持できない。今でさえ困っている。釧路市内は特養ホームも少ない」と強い危惧を訴えました。

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 また既報のように、根室市(人口三万人)にある社会福祉法人隣保院が、付属病院(療養型七五床)を三月末で閉院 すると発表し、大問題になっています。いま五七人の入院患者の行く先が市内にはなく、二〇〇㎞も遠くの弟子屈(てしかが)へ転院する人、仕方なく在宅を選 んだ家族もいます。

 閉鎖理由には「今回の医療改革で経営に見通しがなくなった」とも。

 「根室の地域医療を守る会」は、「医療の継続と職員の再就職先の確保」を求め市や道と交渉を開始。署名は一万二〇〇〇筆を超えています。

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 釧路協立病院では、当てはめ試算で一・三億(六・四%)の減収です。その対応にずっと追われる日が続き、暗くなっていました。

 しかし周囲の事態をみて、受け止めが変わりました。管理部会議で、「今回の改定は当院だけの問題でなく、地域医療を崩壊させかねない大変な内容。何としても当院の経営を守り、地域の人びとにも働きかけて、地域医療を守ろう」と確認しました。

(民医連新聞 第1378号 2006年4月17日)

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