民医連新聞

2008年8月4日

誇りある仕事だから 介護ウエーブ起こそう

 「介護の認定・給付・ケアマネジメント制限が異常事態を引き起こしている。一方で介護保険財政は黒字。いまが介護報酬引き上げのチャンス」と服部万里子さん(立教大学教授)は指摘しました(七月六日、九州・沖縄地協「介護ウエーブのつどい」講演)。
 高齢者・家族の困難と、サービス事業者の人手不足や経営難、介護職の厳しい労働環境の原因は同じです。打開にむけ「介護ウエーブ」が各地で始まりまし た。〇九年の介護保険制度・介護報酬見直しで、国はいっそうの改悪をねらっています。全日本民医連は「介護保険の抜本的改善を求める」二〇万署名などウ エーブの方針を提起しました。(小林裕子記者)

高齢者も介護職もつらい

九州・沖縄地協「介護ウエ-ブのつどい」
515人が参加(7月6日・福岡)

 「介護保険を利用できないAさん(八〇代)の場合」。障害をもちながら長年勤め、娘宅を増築し 同居、週二回のデイケアを楽しみにしていました。しかし〇六年の制度改悪で要介護から要支援に。デイケアの食事代が自費になり、通う回数も減らされまし た。そのうえ自営業の娘さんは、業績の悪化で、無理して身体をこわし入院。国民年金の収入しかないAさんは困りました。
 「毎月四〇〇〇円の介護保険料を払っていますが、これで何回デイケアに行けますか?」「食事は一品でいいから、安くして」と何度も言ったAさん。ついにデイケアの利用を休止、引きこもってしまいました。
 この例を示したシンポジストの総合病院鹿児島生協病院の川畑たか子さん(看護師)は「要介護認定・支給限度額・利用料負担が多くの高齢者を遠ざけた」と話しました。
 フロアからも「介護保険から脱退したいと嘆かれた」など、発言が続きました。あるケアマネジャーは「保険料と別に利用料がかかる、と納得させようとして いる自分が、偽善者のようでつらい。でもサービスを受けてもらわないと生活がささえきれない」と話しました。

在宅がささえられない

 〇六年、介護保険の利用者が減少に転じました。とくに福祉用具貸与、デイケア、ホームヘルパー 利用が減少。居宅介護のケアプラン作成も減、サービス事業所の数も減りました。新規ばかりか現状のサービスを維持するのがたいへんな状況です。服部教授は 「在宅介護しづらい状況になっている」と指摘します。
 施設介護は? 療養型施設・老健が顕著に減少。特養ホームも小規模多機能型施設も伸び悩んでいます。急増したのは有料老人ホーム。とくに医療必要度の高い人、お金のない人の行き場が減っています。
 さらに服部教授が問題視するのは後期高齢者医療制度です。いま要介護認定者の八三%が後期高齢者。その保険料の負担が増え、生活がいっそう厳しくなりました。
 そして所得が低い人ほど要介護・要支援になりやすく、利用料負担が重くてサービスが利用できない。もっとも公的介護が必要な人が、制度から遠ざけられ、「保険あって介護なし」の状態がひどくなっています。

「介護が大好き」だから…

 講演・シンポジウムを受けて、介護職から切実な声が出されました。
 ヘルパーの女性は「〇六年から給与が数万円下がった。つらいが介護福祉士めざしがんばっている」。サービス提供責任者の女性も「利用者にとって一割の利 用料負担は限界と」「職員を募集しても集まらなくて、訪問介護を断るのがつらい」など悲鳴のような発言が続きました。
 青年職員も率直に発言しました。「給与が上がらず、先行きが不安で、昇給のある民医連の『いきいき八田』に移った。妻も介護職だが、子どもに『なったら アカンよ』と…。本当は誇りある仕事、子どもにもすすめたい。だから、夢のある仕事だと言えるように国に改善を求めたい。僕は介護が大好きです」。
 「前に働いていた離島のデイサービスで、社長から『一〇万円しか給料は出せない。どうする?』と。家族を守るため、本土に転職した。島ではみんな低賃金 で働いている。自分だけ抜け出して来た。でも島は好きだ。こういう状況を変えたい」。
 「私が思う介護ウエーブは、志を半ばにして辞めていった人が戻って来られるようにすること」。

介護報酬引き上げで人手不足・低賃金の改善を

 ところが国は、利用者の生活や介護現場より『国の支出削減』を優先して「見直そう」としています。

公的責任の放棄許さない

 林泰則・全日本民医連事務局次長は「利用者負担の引き上げ、軽度者のサービス給付などをいっそう抑制する方向。介護従事者の処遇改善は、負担増や給付抑制と引き替えの、不十分なものになりかねない」と批判します。
 財務省の〇九年「見直し」に対する要求は露骨です。(1)被保険者を二〇~三〇歳に広げ、(2)自己負担を医療と同じ「三割」に、(3)給付範囲から 「軽度者」を外す、(4)認定調査項目を減らし、要介護・要支援にしない、などを要求しています(財政制度等審議会・五月一三日)。
 また昨年、厚労省幹部が「介護経営はどれだけ介護保険以外のサービス契約が取れるかが勝負だ」と露骨にのべ、「混合介護」の推進を打ち出しています。介 護保険の給付を削り、自己責任で対応させようというのです(阿曽沼慎司・老健局長、一一月一七日 日本介護経営学会)。
 まさに公的責任の放棄。これ以上の制度改悪を許してはなりません。

職場・地域から声あげよう

 「介護ウエーブ」では、(1)現場から高齢者の実情や介護労働の実態を知らせる「介護一〇〇〇 事例運動」の推進、(2)学習会やシンポジウムを地域でひらき、マスコミにもアピールして国・自治体・世論に働きかける、(3)民医連「介護再生プラン 案」を広め、消費税に頼らない財源確保が可能と知らせる、など提起しました。「介護報酬の引き上げ、利用者に必要な介護を」署名を八月までに二〇万筆を目 標に展開しています。

介護保険財政は「黒字」

 多くの自治体で、介護給付の実績が予算を大幅に下回り、介護保険財政上、大幅な「黒字」が出ていることが報告されています。あまりにも激しい給付制限と低い介護報酬、高すぎる保険料の結果です。
 介護ウェーブの方針では、こうした実態を地域に広く知らせ、介護サービス拡充や保険料引き下げなど、自治体の独自施策を求めていることも提起していま す。全日本民医連は七月二日、厚労相に介護報酬引き上げと利用者の負担軽減、必要な介護の保障などを求めました。

各地でも介護ウエーブが

 長野県大町市で六月二一日、介護関係者や住民二五〇人が参加して、「いま、介護保険のあり方を考える」シンポジウムを開きました。長野大学の合津文雄教授を招き、現状の課題や「介護の社会化」実現について話し合いました。
 全日本民医連に、京都の訪問看護STから二五筆、熊本の特別養護老人ホームから一〇筆など、署名が送られてきます。各県連や事業所から周辺の介護事業所 へ呼びかけている反響です。兵庫の「特養ふたば」からは、署名が二日で一四〇筆も集まったという報告が。職員はもちろん、実習の要請などの来客者にも頼ん でいます。

(民医連新聞 第1433号 2008年8月4日)

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