民医連新聞

2008年8月18日

フォーカス 私たちの実践 息つける介護環境つくりたい 東京葛飾医療生活協同組合水元訪問介護ステーション(東京) 鈴木和美(看護師) ケアチームの支援で虐待やめた男性介護者

 介護保険制度の変更や金銭的な問題から、自宅介護を余儀なくされ、介護負担から虐待にいたるケースは増えると予想されます。
 私たちが担当した患者は、虐待が疑われ緊急保護入所しましたが、入所負担額の問題で退所。訪問看護を再開し、主治医やケアマネ、看護師が連絡を取り合 い、男性介護者の訴えに耳を傾け、精神的なケアにも努めた結果、安定した介護を手助けできました。

制度変更と負担増で…

 事例を紹介します。
 Aさん。八〇代の女性、要介護5、主病名は脳梗塞後遺症(右片麻痺)・認知症・糖尿病・高血圧症。介護者は息子で無職です。 Aさんは、オムツを自分で 外してしまう、夜中にわめく、騒ぐなどで、息子のイライラが募っていたと思われます。窓からAさんを投げ落とそうとしたとの隣人の通報で、ケアマネが訪 問、緊急保護入所の措置をとりました。
 その後、入所の負担額増から息子は強く退所を希望。訪問看護を再開しました。このとき、制度変更でヘルパーの仕事が制限され、「いままで通りの介護が受 けられないなら」と息子はヘルパーもショートステイも拒否的になり、一人で介護することになりました。
 ある日、ケアマネがAさんの顔面に殴られたらしい青あざを発見。状況を聞くと、「うるさいから殴る。身内のことに口を出すな」と怒鳴られました。日本高 齢者虐待センターに相談しましたが、「介護放棄でないし、本人の訴えもないので関われない。ほかに家族がいるなら相談して」と言われました。認知症のAさ んが訴えることはできません。
 他市に住む姉に協力を求めましたが、ときどき様子を見に来るだけで精一杯のようです。

介護者とのコミュニケーション

 そこで、ケアマネ、主治医、診療所看護師、訪問看護師が担当者会議を開きました。デイサービス に通ってはいましたが、行かない日曜日の夜などAさんが眠らず、騒いだりオムツを外して便まみれになっていることも問題でした。「拒否しているが、安定剤 を再検討しては?」「オムツの抑制帯を試しては?」など検討し、息子さんに提案しながら、ていねいに関わることにしました。睡眠剤の使用方法や介護方法も よく説明し、コミュニケーションをよくするため、息子さんの趣味の話なども聞いてみました。問題を発見するたび、身体確認や聴き取りもしています。 
 そうするうち、息子さんの方から話すようになりました。殴った事実を隠さずに話したり、拒否していたショートステイ利用も前向きになりました。最近では 表情も明るくなり、虐待もないようです。だんだん信頼関係が築かれてきたと実感しています。

男性介護者のつらさ

 男性による介護の困難「ベスト3」をあげると、(1)家事ができない、(2)近所の人に相談できない、(3)弱音を吐けない、気が晴れない、ことだといわれています。
 介護保険制度の変更によって、施設の居住費・食費が保険給付から外され、デイサービス・デイケアの食費が自己負担化、ヘルパー利用が制限されたことも、 困難を大きくしています。介護者が無理にがんばらず、息をつける環境づくりは、虐待防止にもなりますが、男性の場合はいっそう必要だと感じています。今後 は、もっと息子さんが楽に介護できるよう、ケアチームで手助けしていきたいと考えています。

(民医連新聞 第1434号 2008年8月18日)

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