いのちと人権を守る

2008年9月1日

「助かります」無料低額診療 民医連の良さのひとつ とりくんで50年 京都保健会

 「無料低額診療制度の活用へ挑戦を」は三八回総会が強調した方針です。患者減による経営困難は受療権の侵害と結びついており、これを打開しようと提起したものです。この事業にとりくんで五〇年の京都保健会で、その役割を取材しました。(小林裕子記者)

 京都保健会では、いま、のべ患者数に占める、同事業の割合は七・九%。生活保護を加えると一八・二%です(〇七年度)。同会で外来患者数が一番多い京都民医連太子道(たいしみち)診療所では、この事業の対象はおよそ一二〇〇世帯におよびます。

「紹介しています」

 患者の一人矢守裕子さん(65)は、この事業を受けながら治療中です。「とても助かっています」。というのは、この一〇年間、さまざまな病気に襲われ続けたからです。五五歳で卵巣のう腫の手術を受け、その後も脳梗塞、肺がんに…。
 夫の弘一さん(68)は、和服の絞り染めの職人です。当時から仕事は減る一方でした。四〇年間、この仕事に携わり、研究も続けてきた弘一さんですが、 「昔のように、着物はつくったら売れるという時代ではなくなりました。不景気だし、高価なので買う人が少なく、競争も激しい…」という状況です。弘一さん も糖尿病や緑内障で定期受診が必要です。
 夫妻は、民医連とは三〇年のつきあい。裕子さんは「友の会」のコーラスサークルに所属し、「楽しい活動で会員を増やしたい」とがんばっています。さらに 最近は、がん患者としての体験談を、患者会や医療懇談会で話すようになりました。「民医連の良さの一つとして無料低額診療のことも紹介しています」と裕子 さん。弘一さんも「患者はこの制度を知らないか、遠慮していると思う。民医連の病院では、謝礼も要らないし、部屋代がないことも知らせています」と言葉を 添えました。

「手持ち金は医療費でなく食べ物につかって」と言える

 同診療所の相談室では今年四月、対象の世帯に更新のお知らせを郵送。面接して、収入に関する資料を確認し、あらためて制度の説明もしました。新人SWも含めた五人で手分けして、全世帯の更新をやりきったのですが…。
 SWの植松理香さんは言います。「収入が下がり、生活がいっそう厳しくなっていることを実感しました」。同診療所では、生活保護に準拠して無料低額診療 の適用を判断しています。生活保護基準が下がったのに、対象から外れた世帯がないのです。
 相談室には日々、医事課や医師から新規の患者が紹介されてきます。子どもが多い、多額の借金がある、仕事が減ったという人。高齢者では保険料・税金の天 引きで生活が苦しくなった人。ほとんどの人が無料低額診療事業の対象です。
 「無料低額診療事業で生活をささえられるわけじゃないです」と植松さん。でも、この制度を使えば、少ない手持ち金を医療費で失わないで済みます。お金は 食べ物に充て、その間に生活が立ちゆく道筋をつけることができます。すぐに適用できるのも利点です。植松さんは「それを可能にする唯一の制度」と評価して います。

タイミング逃さず支援を

 ところが最近、こんなケースが目立ちます。行政が「病気で働けない」と相談に行った人を、「無 料で診てくれるところがあるから」とポンと紹介してくるのです。生活状態について聞き取りもしないで。地域のSWの集まりでも「新手の水際作戦では?」と いう疑問が上がりました。
 内田琢也さん(SW)は「行政が使える制度を細かに教えないことも問題です。だから問題を抱え込んでしまい、サラ金に手を出したり、脱却の糸口がない状態になってしまう」と指摘します。
 京都市には、六五~六九歳の人に対する「老人医療費制度」があります。収入によって、窓口負担が一割負担で済みます。でも、転居届けに来た人にこれを教 えません。「その時、それを知っていれば助かったのにというケースは多い。制度の利用にはタイミングがあるんです」と植松さん。

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必要性は増している

 SWのみなさんに「政府は、無料低額診療事業の必要性は減ったと言っているが、どう思いますか?」と質問してみました。
 「とんでもない。最近の相談は働けない人だけじゃないです。ちゃんと正社員で働いている三〇~四〇代の人でさえ、子どもの医療費が払えないという。低賃 金なんです。子どもがいるのに資格書や短期証になっている人もいる」と武政隆志さん。
 「財政より命やん!」「そんなこと言う役人は、ここに研修に来なさい! それも二年続けて。そうしたら必要性が増していることがわかるから!」 。
 植松さんは「私たちSWは、この制度があるから医療費相談にのりやすいという一面があるのです。医療費を生活費から奪うことなく、生活立て直しのための 時間稼ぎができる。もしこの制度がなかったら、私たちの仕事はまったく質の違ったものになると思います。医療費を払ってもらうための分割相談が中心の、付 け馬(借金取り)のような仕事。それはしたくない」 。
 民医連らしい仕事をするためにも、無料低額診療事業は欠かせないという意見でした。医療費の未収金が問題になっているいま、国には充実させる責任があると言えます。

山形、北海道でも広がる

 山形・健友会と北海道勤労者医療協会、二つの法人の届出が今年新たに受理され、四月にさかのぼって実施することになりました。

まず申請すること

 全日本民医連の総会方針案の討議をすすめる中、二月から県との協議や対象者の検討など行いました。
 山形県では、実施している病院が少ない現状もあり、届出は問題なく受理されました。
 四月から入院患者を対象として実施していますが、患者さんや家族からはとても喜ばれています。
 またこの制度は固定資産税が免除されるため、法人にとっても、大きな意義があります。(健友会常務理事・阿部正義さん)

受診につなげたい

 公益法人である当会は無料低額診療を以前から実施していました。
 このたび受理されたのは社会福祉法第二条第三項にもとづく事業です。昨年暮れから準備、北海道や札幌市と交渉、札幌にある三病院・二診療所が適用になりました。
 国は抑制する旨の「通知」を出していますが、必要性があって書類が整えば、都道府県は受け付けます。
 生活困難から受診できないでいる人を、受診に結びつけるために積極的に広げ、活用していきたいと考えています。(北海道勤医協本部・渡辺隆さん)

【無料低額診療事業】公 益法人が行う事業のほかに、社会福祉法第2条第3項に規定する第2種社会福祉事業にあたる「生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業」が ある。低所得者や行路病人を対象に、医療費の窓口負担の減免を行うことができる。SWの配置や取り扱い患者総のべ数の1割以上などを満たせば、固定資産税 などの減免が受けられる。これは法人の種類を問わず届出ができる。
 政府は「社会情勢等の変化に伴い、必要性が薄らいでいるので、抑制を図る」という「通知」を出しているが、民医連では申請が受理された事業所があい次いでいる。

京都保健会は、民法第34条にもとづく公益法人として1965年に設立。4病院・19診療所で無料低額診療を行う。うち第2種社会福祉事業は、3病院・8診療所で行っている。

(民医連新聞 第1435号 2008年9月1日)

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