民医連新聞

2008年9月1日

フォーカス 私たちの実践 若年妊産婦を支援 埼玉協同病院・産婦人科病棟 伊藤由実(助産師) 10代の出産・育児 孤立させず 根気強くかかわる

 性行動の低年齢化にともない、一九歳以下の妊娠が全国的に増加しています。一〇代の女性の妊娠は年間約六万件と報告され、出産にいたるケースは約二万件です。望まない妊娠を避ける性教育の充実が求められる一方、出産する一〇代への支援が大切です。

じっくり話を聴く

 当院の年間分娩数は七〇〇~八〇〇件。うち若年者の分娩は六~八件ですが、一例一例がハイリスクであり、サポートが重要です。
 そこで、川口市の子育てサポートプラザを見学し、川口保健センターを訪問し、保健師からサポートのあり方を学びました。
 若年妊産婦の特徴は、(1)周囲に同世代の妊産婦がいないため、一人で不安や悩みを抱えこみ孤立しやすい、(2)人生経験の少なさから、困難への対応力 が十分でなく、ストレスが虐待などにつながりやすいこと、です。サポート体制は全国的に弱いのが現状です。
 研修先の保健師は「若年妊産婦」というくくりで、母親学級のような集団指導につなげるのは難しく、むしろ危険という意見でした。それは一人ひとりの背景 が複雑で環境も異なるからです。「個々に関わって、じっくり話を聴くことが先決」という話でした。
 望まない妊娠も多く、相談相手がなく、親にも言えずに悩み、病院に来たときは、もう出産という選択肢しかない場合もあります。思わぬ妊娠で、互いの絆も 確立しないままの結婚、出産、育児で、夫婦の関係が不安定になり、シングルマザーになるケースも多いのです。精神的に未熟な若者が、さまざまな壁を乗り越 えるには、ささえになる存在が必要です。家族はもちろん、ときには助産師もその役割を担う必要があります。

焦らせず、否定せず

 Aさん(17)は、小麦色の肌にピアスといった若者らしい装いで来院しました。話し方も幼く、妊婦としての自覚に乏しい感じを受けました。正常分娩しま したが、出産後「可愛くない。女がよかった」と気になる発言がありました。数日後、責任の重さに気づいたように泣くなど、子どもの受け入れがスムーズでは ありませんでした。
 助産師は「決して焦らせない、無理させない、否定しない、しっかり気持ちを受け止める」を合言葉に対応し、実母を交えて育児指導する中で、Aさんは少しずつ前向きに子どもとかかわるようになりました。
 当院では、リスクがあると判断した妊産婦さんには、本人の了解も得て、地域の保健センターに情報提供し、退院後の連携と継続的な支援をお願いしています。
 Aさんにも、産後一四日目に地域の保健師といっしょに訪問しました。その後も保健師は定期的に電話や訪問をしています。一年が経過し、Aさんは夫と協力してがんばっている様子です。その陰には同居しながら干渉し過ぎず見守る、Aさんの両親の存在が大きいようです。

ティーンズママの会

 当院では〇六年に、一〇代の妊産婦を対象にした「ティーンズママクラス」という会を立ち上げま した。栄養士を交えて離乳食の作り方を実習したり、座談会やクリスマス会などで、悩みを相談する機会にもなっています。もちろん、会に参加せず、こちらの 働きかけに反応がなく、保健センターへの情報提供も了解しない人もいます。その方がハイリスクと言えますが、時間をかけて、根気強く関わっていきたいと思 います。
 助産師は、妊娠分娩期だけでなく女性の一生に寄り添って必要なケアを提供する職業です。当院で実施している「命の授業」(高校や児童館へ出向き、命の大 切さを伝える)などを通じて、自分自身を大切な命の一つとして尊重していけるようサポートしたいと思います。

(民医連新聞 第1435号 2008年9月1日)

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