民医連新聞

2008年9月15日

「窓口無料うれしい」 母親、小児科医が自治体動かす 山梨

 山梨県では、今年四月から子どもの医療費の窓口無料制度が始まりました。合わせて、無料の対象者も拡大。これは、宇藤(うとう) 千枝子医師(石和(いさわ)共立病院・小児科)たちが運動した成果です。山梨県には無料制度はありましたが、償還払い方式でした。それを変えたいと、医療 者や地域の人が自治体を動かしました。(佐久 功記者)

 「窓口無料になってうれしいです」。そう答えるのは、池谷(いけや)友里さん。この日は息子の光世(こうせい)くんを連れ石和共立病院を受診。「上の子はぜん息なので、検査があるといくらかかるのか心配でした。いまは安心してかかれます」。
 山梨県では四月から、子どもや障害者の医療費が償還払いから窓口無料になり、多くの親たちから歓迎されました。

面倒だった“償還(しょうかん)”

 償還払いは面倒で、親たちの間ではとても不評でした。患者がいったん全額立て替えて払い、その後、役所で用紙をもらいます。次に医療機関に用紙を渡し、証明を書いてもらう。再び役所に行って申請して、やっと戻ってきます。
 息子の日向(ひなた)くんのケガで石和共立病院に来ていた平山比呂子(ひろこ)さんは、「子どもを連れてわざわざ役所に行くのは大変。仕事を休まないと 行けない人もいます。それに長い時間待たされる。交通費や手間などを考えると、あきらめた人も多かったのでは」「たまっていた二年分の立て替えを申請した ら、子ども二人分で四万円にもなりました」。
 償還払いのため役所はいつも混み合い、職員は対応に追われていました。また医療機関にとっても、償還払いの証明の作業がたくさんあり負担でした。

署名ひろげる

 「福島市では、子どもの医療費が窓口無料になるらしいよ」。当時、甲府共立病院に勤務していた宇藤医師は、甲府市会議員の小越(こごし)さん(元・甲府共立病院職員)からこんな話を聞きました。
 「市長が替わり、甲府市でも実現できるのでは」と、窓口無料化を求める会を二〇〇三年六月に発足。誰でも自主的に参加できる運動に、と広く呼びかけまし た。呼びかけ人には、宇藤医師をはじめ開業医や保育士、新日本婦人の会会員などが名を連ねました。山梨県と甲府市に対して署名を集め、交渉していくこと に。
 親たちは保育園、スイミングスクールを通じて広げていきました。また、呼びかけ人の小児科の開業医たちもどんどん集め、賛同する医師も増えていきました。
 山梨民医連でも、各院所で職員が精力的に集めました。
 そして三カ月後の九月、県に約一万五〇〇〇筆、市には約七五〇〇筆を提出。一一月には、追加で県には約一万筆、市には約四〇〇〇筆を提出しました。
 宇藤医師は「とくに、お母さんたちと小児科医ががんばりました」と。自らも診察室で署名を訴え、カレンダーをつくって売り、活動資金に充てました。

試算出して交渉

 しかし、県や市は「窓口無料化を実施したら医療費が増え財政が圧迫される」などと答え、交渉はなかなか進展しませんでした。
 そこで、無料化すれば自治体の経費節減につながることを証明。償還払いの事務に必要な人件費よりも、窓口無料化したときの経費の方がずっと安いという試 算を出しました。そんな中、甲府市との交渉で、こちらの試算を踏まえた回答が出てきました。
 何回かのやりとりの後ついに、県が実施することに。しかも、重度心身障害者やひとり親家庭の医療費も、同時に窓口無料になりました。会を立ち上げて五年近くがたっていました。

*   *

 現在、宇藤医師は石和共立病院(笛吹市)に異動、ここでも署名を集めています。甲府市は独自の医療費助成があり、外来・入院とも小学校卒業まで無料です が、笛吹市は県の基準(外来・五歳未満、入院・就学前まで)のまま。今年一月、中学卒業までに引き上げを求めて会を発足させ、現在約一万九〇〇〇筆を提出 しています。
 「みんなの力で何とか窓口無料化が実現しました。しかし財政難の中、制度が後退する可能性もあります。制度を守るため、これからも運動を続けていく必要があります」。宇藤医師は語りました。たたかいはまだまだ終わりません。

(民医連新聞 第1436号 2008年9月15日)

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