いのちと人権を守る

2008年11月3日

高齢者の権利かかげて(5) 「天引き」に怒り ―全国で一斉行動

 年金支給日の一〇月一五日、「天引きするな」の怒りが全国に巻き起こりました。後期高齢者医療制度で天引きを猶(ゆう)予(よ) されていた人、六五~七四歳の国保の人、被用者保険から後期高齢者医療制度に移った人など計約四三〇万人が新たな対象になり、「天引き」は全国で約八六〇 万人に。矛盾や混乱も激しく「制度は廃止しかない」の声が大きくなっています。

若者の関心高く

 【静岡=鈴木英治通信員発】年金天引きの対象者が拡大した一〇月、「怒りの一揆」行動に決起。一七日の夕方、当県連をはじめ県社保協に加盟する諸団体が集まり総勢五〇人に。毎月定例の「25条デー」行動の数倍の人数です。とくに年金者組合からドォ~ッと結集し、大宣伝・署名行動になりました。
 高齢者自身が次つぎとマイクを握って訴えました。署名に立ち寄る人びとの中で、目立ったのは若者です。「アキバ系の衣装」を身につけた少女、高校生などが何人も、署名用紙に筆を走らせていました。
 静岡県のある大学で、学生にアンケートしたところ、「高齢者への負担増・年金天引きには反対」が〝ダントツ〟で多数派になっていると「静岡新聞」が報道しました。この日の街頭行動はそれを裏付けるかのようで、「世代の連帯」を感じさせました。
 署名した四〇代の男性(家電メーカー勤務)は「年配者や弱者を苦しめる今の自民党政治に正直、むかついています。今まで自民党を支持してきたが、今度は野党に期待したい」と話していました。
 「怒りの一揆」行動は、県民医連の共同組織や県年金者組合などが共同して、不服審査請求に発展しています。六月に第一次として三五人、九月に第二次とし て一〇四人が請求。現在、反論書の提出から、審査会での意見陳述へ展開しており、対応してとりくみをすすめています。

 【京都発】法人・事業所ごとに駅頭や繁華街に出て宣伝。上京病院では他団体とともに交差点へ。「よろしくお願いします」と頭を下げていく高齢者もいました。民医連ビラの受け取りもよく、ステッカーも目立ちました。
 信和会・メディカプランの職員は、交差点で昼休み宣伝。署名した八〇代の男性は「この制度はひどい。医療費の自己負担分が三倍になった」と語りました。
 葵会では、訪問看護を終えた若い看護師などがスーパー前で宣伝。ふくちやま協立診療所、やましろ医療生協も駅前へ。年配者だけでなく労働者も足を止めていました。

 【熊本発】社保協の参加団体といっしょに各地で行動しました。「高齢者は怒る会」が主催した大集会には一五〇人が結集。四野党が激励のあいさつに来て、高齢者がトークしました。
 九一歳の女性も、「厚労省は私のところに来て、何を切り詰めるのか教えたらどうか。戦争で苦しい思いをした私たちに、冷たい仕打ちだ」と訴えました。その後パレードし、市民にアピールしました。

 【滋賀発】県庁前に、県内各地から民医連をはじめ年金者組合、 労組などから一二〇人が集まり、一年前から数えて五回目の「県庁前座り込み集会」を行いました。小池晃参院議員が国会質問で取りあげた「県単位75歳専用 バス」のイラストや「怒り」のチラシを掲げシュプレヒコール。集会は地元のテレビで放映されました。集会後、第四次集団不服審査請求に九人が参加。不服請 求は、これまでの合計が、後期高齢者医療制度に対し八三件、前期高齢者の国保料天引きに対し八一件になりました。

 【鹿児島発】怒りの集会を一八日、みなと大通り公園で開催。各団体がアピールし、医学生もドクターウエーブの訴えも込めて発言しました。基調のあいさつは税所孝樹県連会長が。マスコミの取材もありました。一五日から、怒りの街頭宣伝行動を、各事業所の周辺で展開しました。

「姥(うば)捨て」にとどめを刺すぞ この一票

(年金者組合の川柳コンテストから 千葉の人の作)

 

保険料が2~3倍

東京23区の場合

 東京都北区に住む、山口一正さん(81)、末子さん(82)夫妻。ほくと医療生協の組合員です。後期高齢者医療制度ができて、世帯の保険料が国保料に比べ二・三倍になりました。年間、五万二五〇〇円だったものが、一三万一五〇〇円に一気に増えました。
 なぜこんなことが? 後期高齢者医療では、加入が個人単位なのに、保険料の軽減措置が世帯単位の収入によるからです。末子さんの年金は少ないのに、一正 さんの年金が一定程度あるため、保険料の均等割・三万七八〇〇円がまともに課せられたのです。
 世帯の収入合計が同じでも、夫婦の収入バランスの違いで、保険料がまったく違います。
 たとえば、夫と妻の収入がともに一五〇万円の場合、軽減措置があり世帯の年間保険料は一万円程度です。ところが夫が二五〇万円で、妻が五〇万円だと、夫婦で一四万円。一三万円も差が出ます。
 一正さんは、リウマチで人工股関節を入れており、家の中でも杖が欠かせません。障害四級の手帳をもっています。角膜移植、胃ガンの手術も受け、一一月には膝の治療で入院予定。とてもたいへんな生活です。
 一正さんは若いころから畑仕事、馬糞拾いなどに従事、一八歳で敗戦を迎えてからは旅行社勤めなどで、ずっと働いてきました。
 いま一番言いたいことは「日本の再建に全力を尽くしてきた私たちの世代に対する仕打ちがこれか!」ということ。
 「 『ご苦労様』といって医療を無料にしたっていいはず。カナダやヨーロッパでできることが、経済大国の日本でなぜできない? 映画「シッコ」を観てよくわ かった。米国をまねて、軍事費や大企業支援に税金を使うからなんだ。医者や看護師を足りなくして、子どもも安心して産めない社会なんて恥ずかしい。この制 度は廃止するしかない。自民・公明政権が悪い。も
う選んじゃいけないね。
民主党もくっついちゃダメ」 。思いはいっぱい。
 一正さんは、抗議の意思をこめて、仲間とともに「年金天引の中止」と「不服申請」の手続きをしました。

矛盾だらけ

北区議(日本共産党)山崎たい子さんの話

 制度は矛盾だらけです。北区の議員・山崎たい子さんは「東京二三区は、特に上がり幅が大きく、二~ 三倍になった世帯もある」と指摘します。国保料の算出では、収入から医療費控除・障害者控除・寡婦控除がされます。住民らが長年の運動でつくり上げてきた しくみですが、それが後期高齢者医療制度にはありません。
 「年金二四〇万で一人暮らしの女性は、寡婦控除などがあり国保料は三万五一〇〇円でしたが、九万七〇〇〇円になり、がっくり。高齢者は寝たきりや耳が遠 いなど、意思表示すら大変。不服申請した一万人の後ろに、それができない多くの人がいます。地域を回ると、拝むように訴えてくる高齢者がいるんです」。
 山崎さんの調査では、低・中所得者の保険料が大幅に上がり、高所得者は逆に下がるという実態も明らかに。「廃止」に向け、議会でも問題提起しています。

(民医連新聞 第1439号 2008年11月3日)

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