いのちと人権を守る

2008年12月1日

無保険の子 虫歯ガマン 職員の気づきから保険証もどる 京都 待鳳診療所歯科・みつばち薬局・待鳳診療所 歯科・薬局・医科が連携

 七月末、六歳の長男を待鳳(たいほう)診療所歯科に連れて来た母(Aさん)は吉川恵造所長に「応急処置だけ」と頼みました。受付 でAさんが出したのは資格証明書。職員はすぐに福田崇事務長に相談。福田事務長は「何か困っていませんか?」と声をかけました。五日後の再受診時、Aさん は「お金が続かない。今日で終わりにしてほしい」と。そこからAさん一家に対する相談と支援が始まりました。(横山 健記者)

 長男の虫歯は六本もありました。しかし治療費が工面できず、痛みに七転八倒するほどになって、ようやく受診しました。
 Aさん一家は、夫と二人の子ども(長男・次男)の四人家族。不況などで夫の収入は上がらず、親族の借金も肩代わりするなど、生活は苦しくなる一方。四人 が生活するだけで精いっぱいで、国保料を払う余裕はありませんでした。何度も区役所と相談しましたが、そのたびに「滞納分を払え」。出産一時金も一部差し 押さえられ、児童手当も相殺されたそうです。
 福田事務長は、すぐに区役所に電話。「保険証を出してほしい」と交渉しましたが、役所は「滞納分を払わないと出せない」の一点張りでした。
 翌日、Aさんが来院し、福田事務長と待鳳診療所の小竹正彦事務長が相談に乗りました。夫とも電話で話しましたが「何度も役所に行った。どうせ無理、ほっといて」。冷たい対応を受け続けた心は頑(かたく)なでした。
 その後、長男は治療が終わらないまま来なくなりました。

ようやく短期証が

 治療中断から一カ月後、法人ブロック事務長会議でも「ほっとかれへん。最後までかかわろう」と議論。福田事務長がAさん宅に電話し、みつばち薬局の原龍治事務長とAさん宅を訪問。「子どもたちのためにもいっしょに区役所に行こう」と、夫を説得しました。
 事務長たちの親身な対応に、Aさんと夫に変化が生まれました。
 訪問の翌々日、Aさんから「いっしょに役所に行ってほしい」という電話がありました。
 そして九月一六日、Aさんと原事務長は区役所を訪ね、生活状況を説明。一時間以上の交渉の末、Aさんはようやく短期証を手にすることができました。一〇 月中旬には、夫と原事務長が「生活と健康を守る会」に相談、生活保護を申請しました。
 現在、長男の治療も順調、中断していたAさんも治療中です。吉川所長は「短期証になり、レントゲンや薬も渡せるようになりました。表情も少し明るくなった感じです」。
 若い職員も資格書では受診しづらいと肌で感じ、「お金がない人から一律に取り上げはおかしい」と話します。「受付で気づき、事務長にすぐ相談したことも よかった。今回の事例を社会保障制度の矛盾を考えるきっかけになれば」と吉川所長。
 Aさんの話では、他院で資格書を出したところ「これ保険証ですか?」 「全額払えるんですか?」と、言われて屈辱感でいっぱいに。「お金がないだけで、 なんでこんな目に…。早よ亡くなった母の所に行きたい」とまで思わせる心ない対応でした。
 福田事務長も「子どもまで資格書にする役所の機械的な対応は大きな問題」と憤りました。

民医連でよかった

 事務長たちの「いっしょに行くから」と、親身な対応がAさん夫妻の心をほぐしました。「私も夫も『騙されたらアカン』と警戒していた。でも話を聞くうちに真っ暗な人生に一条(ひとすじ)の明かりがさした」とAさん。
 小竹事務長は「Aさん家族だけでは、解決できなかった事例だと思います。集団で対応したことが良い結果につながりました」。
 原事務長は「毎回、スムーズにいくとは限りません。その時、その人と心を通い合わせる支援活動ができるかどうか。そのために生活背景を知ること、顔を合 わせて話すことが大切。ここまでできるのは『民医連ならでは』」と笑顔でした。
 Aさんは「生活も落ち着いてきました。本当に感謝しています」。その言葉に職員も「民医連で働いてよかった」と喜びました。
 そして一一月一七日、Aさん一家にようやく生活保護受給が決定しました。

(民医連新聞 第1441号 2008年12月1日)

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