民医連新聞

2008年12月15日

フォーカス 私たちの実践 「子どもの心」診療のとりくみ 松本協立病院・小児科外来 “自己肯定感” を促す支援 家庭・学校・NPOと連携も

 第九回看護介護活動研究交流集会で、松本協立病院の水島充子さん(看護師)が発表しました。

 いま、子どもの命に関わる事件、いじめ、暴力などが多発しています。一〇年間で不登校が約三倍に増加、小・中学校で約一三万人と言われ、子どもたちが置かれた環境の厳しさを感じさせます。
 当院の小児科では二〇〇三年から「子どもの心の相談」外来を月一八単位、予約制で実施しています。今回、思春期の事例を報告し、社会や医療者の関わり方 について問題提起します。「心の相談」に携わるチームは、医師一人、臨床心理士二人、看護師、社会福祉士、子育て支援員が各一人です。月一回カンファレン スを開き、支援方法などを話し合っています。

思春期と不登校

 受診者は五年間で九二人。うち、思春期に当たる九~一七歳が最多で七八人でした(図1)。
 初診時の症状は、頭痛が一番多く(二五人)、腹痛、朝起きられない、だるいなどさまざまです(図2)。七八人中不登校は四四例(五六%)でした。そのう ち適応障害が五四%あり、不安障害、気分障害(うつ病)、身体性障害、発達障害が続きます。
 適応障害の原因では「いじめ」が多く一一例(三四%)、「友人関係」「家族の病気・死亡など」「指導者」もありました。身体性障害の内容は、心身症が四 例、ほか過敏性大腸症、起立性調整障害でした。不登校でない症例の背景にも「いじめ」が多くあります。

支援で元気になれる

 プライバシー保護のため、特徴だけ抽出し、事例を紹介します。
 不登校の女子高校生です。仲良しの友人からも仲間はずれにされ、 「消えろ」と言われ、携帯サイトに悪口を書かれました。孤立し、うつになりましたが、 がんばって相談室に登校していました。そこの教師のすすめで受診、症状が落ち着き、転校し元気になりました。
 いじめでは「死ね、うざい、きもい」とみんなの前で何回も、男女から上級生からも言われていた子もいます。思春期の女性にとっては本当につらいと思います。
 朝になると腹痛を起こす男子中学生は、人前に出るのが苦手なのに成績優秀のため、生徒会役員になったことも原因でした。臨床心理士と家族の支援で改善しました。
 十代の女性。さまざまな理由や背景があり不登校からひきこもり、強迫性神経症もありました。通院できないときは親を支援し、本人に手紙を書くなど、二年間の治療で少しずつ外出を始めました。

訴えをよく聴くことから

 診療は、子どもの心や生活環境をていねいに聴き取ることから始め、常に子どもの立場から、状況 を把握します。そして治療では自己肯定感を促します。また、家庭や学校関係者(教師・養護教諭・カウンセラー)、不登校専門学校、県や民間の自立支援セン ター(NPO)と連携しました。
 また、いじめは「学校崩壊」とも関係し見過ごせない問題です。
 地域の中学校の例を紹介します。窓ガラスが割れ、トイレは詰まり、電灯は壊れ、教師は生徒の暴言・暴力、授業妨害で疲れ果てていました。そこで親たちが 声をかけ合い「親の会」を立ち上げました。まず、子どもの心や取り巻く社会を理解しようと学習会を始め、教師との懇談会などもすすめる中、学校の荒れは著 しく改善しました。
 しかし、孤立化や経済的困窮など深刻な問題を抱える家庭ほど、「親の会」に出られず、子どもが放置される傾向もあります。行政が専門家を配置することも課題では、と考えさせられます。

(民医連新聞 第1442号 2008年12月15日)

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