民医連新聞

2009年1月5日

輝く民医連の看護・介護 「お宝ばあちゃん」として大声も這(は)いずりも受け入れて 奈良・老健やくしの里 山根浩之(介護福祉士)

春さん(仮名)は九〇代後半のおばあちゃん。一〇年前から当施設を利用、当初はデイサービスでしたが、現在は入所し、車イスで生活をしています。
 入所当初は、シルバーカーで歩行し、マイペースな生活でした。しかし、〇六年ごろから脚力が低下、車イスの生活になってから、昼夜逆転や大声で叫ぶといった行動がみられるようになりました。
 職員の中からは「安定剤を使用しては?」という意見もありました。しかし過去に安定剤を使用したケースで、副作用のせいか「傾眠が強く、食事摂取が困難 になった」「歩行時にふらつき、転倒した」「会話が減り、表情が乏しくなった」という悪影響があり、生活の質が保てなくなる恐れがありました。「安定剤は 使わず、ありのままを受け入れよう」と話し合い、見守ることにしました。
 春さんが、どういう時に大声を出したり、徘徊をするかを考えました。行事の時など、職員が側にいる時は落ち着いていて、大声を出すことはありません。春 さんに聞くと「大声で言わな聞こえへんし、来てくれませんやろ」と。「一人でさみしい。誰か来てほしい」という訴えだったのです。春さんの不安定な気持ち を痛感しました。そこで問題をキャッチしたら「すぐに関わり、話を聞くこと」を徹底しました。
 日中は、ほかの利用者さんといっしょに過ごします。大声を出し始めたら、すぐに職員が行き、手を握ったり、話を聞きます。「あっちに行きたい」と訴える 時は、いっしょに行きます。それでも大声を出す時は横になってもらい、夜間の眠りを妨げない程度に休んでもらいます。
 また昔、春さんは散髪屋でした。そこでクシを渡したり、人形を抱かせたり、試行錯誤しながら対応しています。
 夜は、眠れない時に這って部屋から出てきます。ケガがないように注意しながら見守ることにしました。
 また部屋を暗くすると、目覚めた時に大声を出すこともわかり、枕元に灯りをつけて休んでもらうようにしました。それでも大声を出す時は、詰所や職員の側 でゼリーを食べてもらい、眠たくなったら部屋に戻すなど、無理に寝かせず、春さんの睡眠サイクルを見守っています。
 春さんも落ち着いたのか「がんばる」などの前向きな言葉が増えました。
 まだまだ大声を出す毎日ですが、私たちに「介護のあり方」を教えてくれた当施設の「お宝ばあちゃん」として、春さんをありのままに見守っていきます。

(民医連新聞 第1443号 2009年1月5日)

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