民医連新聞

2009年1月19日

フォーカス 私たちの実践 その人らしさ知り 寄り添う介護に役立てる 入居者の「自分史」づくり 特養ホーム たくまの里

 特別養護老人ホームたくまの里(五〇床)では、入居者の幼少期から現在までのエピソードを聴き取り、「自分史」づくりにとりくんでいます。その効果を、魚谷康洋さん(介護支援専門員)が看護・介護交流集会で報告しました。

輝いていた時を知らず

 ある女性入居者の葬儀で驚いたことがあります。写真は「この人は誰?」と思うくらい違っていた のです。その人は重度の認知症で、徘徊や異食があり、介護への抵抗がありました。短い白髪で、化粧もせず、いつも無表情でした。でも遺影は、きれいに染め た髪、薄化粧で優しそうな表情でした。
 私は、その人の昔について何も知らなかったことにハッとしました。もし、歩んできた人生を知っていたら、日常のケアや会話も含めて、もっと生活しやすい 環境を提供できたのでは、と思いました。それが「入居者の自分史づくり」のきっかけです。

その人らしさの手がかりに

 一般的に、高齢者施設では、入居者に関する情報として、ADL、疾患、簡単な生活歴を把握します。
 私たちは、それに加えて、幼少期・青年期のことや仕事・結婚・子育てなど、各年代ごとの思い出やエピソードを聴き取り、その内容を自分史にまとめること にしました。「ユニットケア・寄り添う介護」を実践するための「その人らしさ」を知る手がかりになると考えたからです。
 方法は、本人や家族から一回に三〇分ほど、四~七回インタビューします。写真などを見せてもらい、記憶を呼び戻します。当時打ち込んでいたこと、好き だったことも聞きます。そして、集めた情報を文章にし、写真や時代背景を添えて、一〇ページ程度の冊子にまとめます。

題は「めぐりあい」

 A子さん(八〇代)は、パーキンソン病で身体が思うように動きません。生まれ育った故郷や家 族、お転婆だった学生時代、当時のおしゃれ、恐怖の戦争体験、かわいいペット、結婚、すてきな夫の思い出を聴きました。Aさんは当時の記憶とともに感情も よみがえり、自然と笑顔に。そして不自由な身体のストレスなども、率直に話しました。料理が得意だったこと、出会いを大切にしてきたこともわかりました。
 Aさんの自分史のタイトルは「めぐりあい」で決まりました。いま、誕生会のお菓子づくりを手伝ってもらっています。

コミュニケーションツールとして

 自分史を読むことで、スタッフは入居者の人生を理解し、何ができるのかを考えます。入居者には人生を振り返り、いま何をしたいか、どんな生活を送りたいか、考えてもらいます。
 昔、好きだったことを施設内でできるようにすると、時間を持て余し気味だった人の生活が変化し、自発的な行動も増えたようです。
 自分史はコミュニケーションツールとしても役立ちます。入居者と職員との話題が増えました。職員は、入居者の尊厳を意識して、ケアするようになりまし た。また、ユニット会議やサービス担当者会議などで、ケアを検討する際も参考資料になります。
 このように利点が多いのですが、課題は、聴き取りや作成に時間がかかるため、みんなのコミュニケーションツールとして活用するには至っていないことで す。今後は自分史の内容、作成手順などを改良し、多くの職員に浸透するよう、がんばりたいと思います。

(民医連新聞 第1444号 2009年1月19日)

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