民医連新聞

2006年5月22日

診療報酬大幅引き下げに抗し 患者さんと経営を守るには 医科診療報酬改定対策交流会ひらく

全日本民医連は「2006年度医科診療報酬改定対策交流会」を東京で開き、190人が参加しました。診療報酬の大幅削減は、国会審議中の医 療改革関連法案ともリンクする医療機関つぶしの攻撃。たたかいとの結合が不可欠です。「経営を守り、患者さんの負担軽減にも配慮しよう」と、職員の智恵を 集めて検討している対策を交流しました。

 全体会では室田弘・経営部長が問題提起しました。

 まず「引き下げ幅は公称3.16%に留まらず10%~33%にもなり、病院の存続と地域住民の受療権に関わる攻撃だ。民医連以外の医療機関、住民の共通 の困難ととらえ、共同して食い止める運動が重要」と指摘しました。

 対策のポイントであげたのは3点です。(1)療養病床の問題では、転換も含めた当面および長期的な視点での検討、(2)急性期・一般病床では「救急医療 加算」「DPC」「看護基準7:1」届け出の検討、法人内外のネットワークの拡大と強化、(3)在宅支援診療所の届け出です。

 ほか、取得可能な個々の点数を遅滞なくもれなく算定すること、「届け出」に熟達することを留意点にあげ、最後に「手だてだけに陥らず、たたかう経営と民主的運営を堅持しよう」と強調しました。

 全国保団連の前谷かおるさんが「マイナス改定への対策のポイント」で講演しました。「今回、大幅な改変にともない関連する告示が増えたが、告示の発出が 遅い。疑義解釈もNo.4以降も出る可能性がある」と指摘し、事前に参加者から寄せられた質問に答える形で話しました。

 今後の情報は保団連のホームページにも掲載されます。『新点数・介護報酬Q&A』『2006年診療報酬改定のポイント』(いずれも保団連発行)が参考に。各県保険医協会でも質問窓口を設けています。

 下記の5つの指定報告(別項)を受け、規模別に5分科会を開きました。大規模病院の分科会では、「すでにDPCに移行している病院は、改定でマイナスに なる部分があり、工夫が必要」などの意見が出ました。中規模病院の分科会では「療養病症削減とたたかうと言いつつ、対応として転換を考えるのはどうなの か」など苦渋の意見もありました。診療報酬を確保すれば、患者負担が増えることも論議になりました。


急性期病院
DPC、救急医療管理加算を4月開始
「看護基準7:1」に挑戦

事務長 安井重裕さん
北海道/勤医協中央病院
415床・年間事業収入80億円

【改定の影響】収入比▲3.9%
急性期特定入院加算・紹介外来特別加算など、入院基本料加算の廃止▲1億5000万円
薬剤・検査・リハビリの減額▲1億2000万円
食事療養費の各加算の廃止▲4000万円
 計▲3億1400万円

 当院は、地域連携室や救急診療部をつくり、病院機能評価を受審し、急性期の各種加算がとれる条件を整えてきました。将来的には地域医療支援病院も視野に 入れ、必死にハシゴを駆け上ってきました。今改定の各種加算の廃止は、途中でハシゴを外されたようなもの。しかし地域の急性期病院をめざす方針を変えるわ けにいきません。
 4月の対応として、DPC、救急医療管理加算、栄養管理加算・じょく瘡管理加算を届け出し、約3億円を取り戻します。続いて看護基準7:1の届け出に挑 戦します。そのためには20人以上の看護師を確保しなければなりません。救急部門に「救急入院病棟」を新設することや、ICUの見直し、積極的な看護師確 保運動が必要です。
 今回の改定は、病院にいっそうの機能分化を迫るものと解釈しています。急性期に対応していく病院には、それなりに報酬を手厚くする一方、療養病棟を切り 捨て、在宅・予防へと誘導しています。こうした中で医療・介護から閉め出される高齢者・無保険者など「困難な人びと」が多数出現します。当院は、介護・福 祉との連携の中で社会的使命を発揮し、人材育成の役割を担うため、いっそう機能選択をすすめることで、経営を守ろうと考えています。


中小病院
救急指定、療養病棟の転換、外来・在宅の強化など
全職員討議と意思一致

事務長 大葉清隆さん
東京/代々木病院
150床・年間事業収入24.5億円

【改定の影響】収入比▲4.8%
療養病床▲5000万円以上
リハビリ▲1800万円
透析▲500万円
検査▲480万円
薬品▲980万円
 計▲1億1800万円

 「地域での当院の役割と質を高めるために、構造的な転換をはかる。職員との認識一致を大切にする」を基本姿勢にし、以下のような5点の対応をすすめてい ます。
(1)10年ぶりに2次救急指定病院になった。これによって救急管理加算を届け出るとともに、地域の救急医療のなかで役割を強める。
(2)政管健保の生活習慣病検診の指定事業所になった。健診事業に積極対応する。
(3)近接診療所が「在宅療養支援診療所」を届け出た。それと連携して地域の在宅医療支援機能の役割をいっそう強化する。
(4)専従セラピストを確保し、脳血管リハビリ(I)を届け出る予定。
(5)生活習慣病療養指導算定をめざす。そのために外来看護と慢性疾患管理の今日的あり方を再検討する。
 最大の問題は療養病棟です。これまでの療養病棟で培ってきた質の高い高齢者ケアや在宅復帰支援の役割を発展させるため、回復期リハビリテーション病棟に 転換する方針を選択しました。ミドルステイなどの対応をどうするのか、や近隣医療機関との連携強化、スタッフの確保、地域ニーズの検討が必要です。そこで 準備と意思統一のために、当面は一般病棟に転換し「施設等入院基本料」を先に届け出る予定です。これらが全部実現できれば、病院の赤字構造からの脱却につ ながります。
 一番大事なのは職員討議と意思統一です。管理会議、職責者合宿、職場会議の議題にあげ、全職員集会も4月から2回開催し、意見を出し合い、意思統一をす すめています。


療養病棟
重症化への対応を準備
行き場失う「医療区分1」
患者どう守る

事務長 吉川郁子さん
島根/松江生協リハ病院
医療療養病床245床
年間事業収入20億円

【改定の影響】収入比▲33.6%
入院料▲5億400万円
食事療養費▲2760万円
リハビリ料▲4800万円
そのほか▲720万円
 計▲5億8680万円

 圏域内の療養病床の28.6%をもつ当院は、このままでは年間約6億円、33.6%もの減収になってしまいます。「医療区分2・3の入院患者を8割に」しないと予算が成立しない、とこれまで次のような点を検討してきました。
(1)入院患者の医療区分あてはめ調査。
(2)医療区分2・3の患者を受け入れる準備。受け入れ基準の作成、重度化に対応する準備。
(3)医療区分1の人の退院援助について。
(4)法人578床のありようの検討、
などです。しかし、「医療区分2・3を8割にする」には、いくつもの壁があります。(1)医療区分1の人を受け入れる家族、施設がなく、退院後の行き場が ない状況、(2)実態として医療区分2の紹介が少ないこと。(3)重度化した場合には、人的体制、医療器機、設備の強化が課題になることです。
 現状を踏まえ、以下のようなことを視野に入れて、病棟の検討をすすめる予定にしています。
(1)一般病棟に転換し、「障害者施設等入院基本料」「特殊疾患入院施設管理加算」を取得する。
(2)介護保険移行準備病棟にする。
(3)医療区分2・3を8割にして療養病棟で継続する。
 今回の診療報酬改定内容について、全職員に対する説明会を開きました。討議の中で「家族の事情を知っていると、胃ろうを造って家に帰すのは困難と感じ る」「充分な看護が出来ない」など憤りの声が上がっています。
 また、地域では、有床診療所の閉鎖も起きています。そこから11人の方が転院の相談に来られ、「療養病床削減反対」の
署名用紙を持ち帰られました。


リハビリ
病名・処方箋を見なおし
リハビリ日数制限に対処

理学療法士 浦田 修さん
福岡/みさき病院
医療療養病床144床、
年間事業収入14億6000万円

【改定の影響】(収入比▲15.2%)
特殊疾患入院施設管理加算▲1億8396万円
食事療養費▲1577万円
そのほか▲2211万円
 計▲2億2184万円

 今改定でリハ部門は大きな影響を受けますが、その特徴は、短期集中リハの評価と、算定日数上限を設けたことによる慢性期・維持期リハの切り捨てです。4 疾患別体系となり日数が制限、施設基準が緩和、人的な基準が厳しくなりました。患者一人当たり、1日では18単位から24単位に増え、週では108単位ま でに制限されました。また、摂食機能療法が評価(3カ月は毎日算定可能)されました。回復期リハ病棟では、対象疾患が拡大、疾患別に入棟までと入棟中の期 間が短縮されました。
 当院は「特殊疾患入院施設管理加算」を算定しており、8割が車イスで、寝たきりや認知症の患者もいます。リハビリの継続が可能かどうかは、重要な問題で す。そのため、1月に出た厚労省1次案にそって、全職員の協力で患者調査を実施しました。結果は現状では、外来患者で実に57%が継続困難、病棟では 30%が継続困難でした。
 そこで、医師と相談の上、リハ継続の必要性に関する医学的判断を行っていくための再評価などを実施し、必要に応じてリハを継続していくようにしました。 さらに、摂食機能療法に関しては、STをを中心に、書式や手順等の整備を行いました。4月に入って実際の診療に入ったわけですが、リハ提供単位を調査する と、週108単位を超過した例がありました。せっかく土曜日に実施したのに請求できません。合理的な職員の稼働も検討事項です。
 リハビリ関係は大幅な改変のため、厚労省や県、基金の解釈にズレが予想され、対応に1年はかかると考えられます。患者の受療権を守るため、週2回程度は 維持期のリハを算定できるよう要求していく必要があります。施設基準緩和の背景には、3万床の回復期リハ(病床)を6万床にする厚労省の誘導も見えます が、セラピストの確保が課題です。
 なお当院では、療養病床に関する対応として、新設された「療養病棟療養環境加算Ⅰ」を届け出、さらに3病棟のうち1つを回復期リハ病棟へ、1つを障害者施設等への転換を、検討しています。


診療所
「在宅療養支援診療所」
体制づくりを万全に

健愛会 専務理事 木崎雄一さん

東京/ホームケア診療所
往診専門診療所
患者件数153件(昨年11月)
年間事業収入8720万円

【改定の影響】収入比▲20.3%
往診部門▲2800万円

 健愛会は足立区・墨田区に5つの診療所を展開しており、その合計年間収入は10億円、往診患者は約330件です。ホームケア診療所のある足立区では、健 和会グループなどが早くから在宅医療を展開し、24時間訪問看護も実施してきました。
 改定による影響は、診療所外来では小幅でしたが、往診部門ではこのままでは大幅な減収です。新設された「在宅療養支援診療所」を届け出するかどうかで大 きく違い、した場合の試算は+12.5%になります。
 住み慣れた家庭や地域で療養できることは患者の要求であり、経過からすれば取得は当然ですが、問題は患者負担増です。それに医師・看護師の体制です。 24時間、患家から連絡を受け、往診が可能で、緊急入院の対応ができ、ケアマネとの連携がとれるなどが求められます。当法人では、24時間の往診・訪問看 護のしくみがあったとはいえ、往診当直のすき間をなくし、訪問看護ステーションの看護師が行っていない患者に診療所の看護師が対応したり、当直の環境整備 をするなど、準備が必要でした。
 「在宅療養支援診療所」には届け出だけでなれますが、後で要件が欠けて問題にならないよう、よく準備して始めることが必要だと思います。

 


マイナス改定への対策のポイント
全国保団連・前谷かおるさんの講演から(抜粋

 今改定は、「医療費削減」のねらいから、影響の大きい診察料や入院料、リハビリ料、検査料が大幅に下げられました。一方で在宅医療、ITの推進など厚労 省の目標達成のためには、施設基準など条件つきで高い点数がつきました。病院間の格差も生じてしまいます。
 また、今改定によって事務量が膨大に増え、収入が減ることに加え、二重の打撃です。医療費削減をやめさせ、再改定させる運動は当然ながら、算定できる報 酬をよく検討し、取りこぼさないことが必要です。

■在宅療養の対応は

 「在宅療養支援診療所」の届け出は、当初は「とてもできない」と思われましたが、24時間体制を求める患者にのみ対応すればよい、ということが知られ、 他の医療機関や訪問看護ステーションとの連携で体制をつくるなどし、届け出が増えそうです。しかし、1つの診療所に終末期の患者が何人もいたら対応できる のか、在宅死を受け入れる患者がどれほどいるかは未知数です。国が在宅死を推進してよいのか、など様ざまな疑問も出ています。
 「在宅時医学総合管理料」は診療所に加え、200床未満の病院も届け出が可能になりました。これにマルメられるのは、特定疾患療養管理料はじめ、小児科 療養、難病外来、皮膚科特定、小児悪性、寝たきり患者処置指導の各管理料と調剤料だけです。検査料が別に算定できるようになりました。重症患者にも対応し やすいよう、処置指導管理以外の、在宅酸素療法など在宅療養指導管理料が別に算定可能になりました。

■理学療法士いなくても可能な
リハ(I)

 日数の上限を設け、維持期のリハビリテーションを切り捨てるなど、大きな問題です。
 運動器リハビリテーション(II)の人員基準では理学療法士か作業療法士を配置することが必須です。しかし運動器リハビリテーション(I)では、経験を 有する医師と所定の研修を終了したあんまマッサージ師・看護師・准看護師・柔道整復師のいずれか2人が配置されていれば、届け出が可能です。
 厚労省の説明では、「(I)では、経験を有する医師の評価を高くした」といいます。しかし「所定の研修」の要件も、施設基準の内容も意図も周知がされな かったため、4月の届け出を見送った医療機関がありました。

■療養病床の転換は

 厚労省は、7月から療養病床入院患者の「医療区分」を実施するとし、細かな「医療区分・ADL区分に関わる評価表 評価の手引き」を出しています。それ によると評価の頻度が「1日毎」、評価表は患者・家族にも提示することになっています。しかし、「ただでさえ忙しいのに、誰がやるのか?」という反発が起 きています。しかも厚労省は、これで赤字になる病院が発生することを見込んで、「融資制度」まで検討しています。
 様ざまな問題を引きおこす療養病床削減・報酬改定であり、矛盾が吹き出しています。各地で猛反対が起きており、全力でやめさせていきましょう。
 困難なことですが、一般病床に転換することを考える場合は、地域医療計画の病床数に制約されます。今年は都道府県の「計画」が見直される年なので、それ との関係で検討をすすめることが必要です。また、医師と看護師を確保し、基準を満たしていくことが必要条件になります。

■救急医療加算は

 今改定で「救急医療を実施する日時」「算定する日」の届け出が必要になりました。従前より算定している医療機関は、届け出要件を満たしていますから、もれなく届け出ましょう。
 救急で来た患者については、7日間の算定ができます。また「算定する日」として届け出ていれば、救急医療の「当番日」でなくても、平日の日中でも算定で きます。第二次救急の医療機関でなくても届け出はできます。

(民医連新聞 第1380号 2006年5月22日)

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