憲法を守ろう

2006年6月5日

患者と現場を苦しめる「医療改革」とめよう 石川で県民集会 民医連のとりくみに賛同 療養病床削減は見直しを

「きょうは勇気をふり絞って出席しました」。松田昌夫医師(石川・二ツ屋病院副院長)が療養病床の危機を訴えました。「医療制度をよくする石川い のちを守る会」が五月一三日に開いた「医療制度『改革』ストップ県民集会」です。社保協や民医連が地域の病院を回り懇談する中で、意見が一致、この集会の シンポジストを引き受けてくれました。「看護師ふやして」の宣伝をしパレードで会場に来た看護師も発言。「医療を壊すな」の運動は急速に広がっています。 (小林裕子記者)

 「昔、貧乏人は麦を食え。今、貧乏人は死んでゆけ。恐い世の中になりました」「年金ギリギリの生活。人工透析をしながら四月から医療費一割負担を払うこ とになり、どうすることもできない。助けて下さい」…悲鳴に近い「私の一言」の朗読が、集会参加者約二五〇人の耳を打ちました。同会は四月末、一一万枚の ハガキ署名を地元紙に折り込み。一三九五通・四九八四筆が戻り、三九九通に「一言」が。
 「ドキリとした。想像を絶することが起きていた」。県社保協事務局長の寺越博之さん(石川勤医協)は、毎日届くハガキを整理しながら、危機感をつのらせ ます。二〇〇二年に患者団体・労組八団体で「会」を結成して以来、様ざまな運動をしてきて、こんな反応は初めて。寺越さんは、せっぱ詰まった様子の人に は、連絡を取り始めています。
 社保協は、県内の病院約半数を訪問し懇談。「どうにもならん」「やっていけない。今年度中に病棟をやめる」「億単位の減収」「希望が持てない。デモが起 きないのが不思議」「医療は公共性が大。続けるのは使命。国はわかっていない」など話は深刻でした。

県医師会も反対

 県民集会には、県医師会長がメッセージを寄せました。同理事会は「療養病床再編計画に断固反対」の声明を発表しています。
 シンポジスト四人は「医療改革」を様ざまな角度から批判しました。
 石川県保険医協会長の井沢宏夫さんは「健保財政が悪化した本当の原因は、国庫からの繰り入れが減り、リストラで加入者が減ったこと」。
 特別養護老人ホーム入居待機者家族会の代表・林亀雄さんは「介護保険も悪くなり、高齢者の状況が厳しい。医療改革は家庭崩壊や高齢者の虐待、自殺を増やすだろう」と指摘しました。
 看護師の広瀬優子さんは「看護師も医師も不足という背景で、医療事故が起きている。医療改革では解決しない。無理に患者を家に帰して、誰が看るのか?  仕事ができなくなくなる家族の生活費はどうするのか?」と。
 集会は「拙速な法案の採決をやめるよう」アピールしました。

療養病床削減は見直しを
松田昌夫さん

二ツ屋病院は204床の療養病床を運営し、日本療養病床協会の正会員。

 今回の「医療改革」のように急激で大幅な制度変更の場合は、政府は、国民に内容を正確に理解させ、疑問にも答えるべきです。しかし十分な説明がないた め、将来に関わる重大問題とは認識されていないと思います。
 今の「改革」は、「二〇二五年までに八兆円の医療費を削減する」という目的から出発しています。そのなかで国は、急性期の入院期間を短くし、慢性期の医 療や終末期の看取りを入院から在宅に移し、現在三八万床の療養病床を、二〇一二年までに一五万床まで減らすと、打ち出しました。そのために、療養病床の患 者を医療必要度で三つに区分し「社会的入院」をなくすというのです。

慢性期病床が急性期化

 医療必要度の高い「区分3」。内容を見ると、二四時間の監視、管理を要する状態など、「慢性期病棟」のはずが、まさに急性期病院にいるような患者です。 こういう設定にした政府のねらいは、急性期の在院日数を引き下げるため、容態がどうであろうが二週間ほどで退院させ、療養病床で診てくれ、ということだと 思います。
 「区分2」は、療養病床に入る標準的患者という設定でしょうが、制限がつきます。難病、肺気腫、ガンなどで痛みの強い方、肺炎、尿路感染症などです。リ ハビリが必要な患者は、発症して三〇日以内です。急性期病棟で二週間過ごし、療養病棟に移って二週間経つと、もう「区分2」ではなくなります。

社会的入院の分かれ目

 他にも、喀痰吸引が「一日七回以下」の方は「区分1」です。また、「一日三回以上の血糖チェックを七日間、一週間のうち二日以上実施」の条件を満たさないとどんな事情があれ「区分1」です。
 嚥下障害で肺炎を繰り返し、胃ろうを造った方は、皮膚のトラブル、逆流、下痢などトラブルが発生しがちです。でも他の条件がないと「区分1」です。
 心不全で利尿剤や強心剤の量を状態をみて調節しているような不安定な患者さんも、酸素を使用していないと「区分1」。国から「社会的入院」と事実上レッ テルを貼られ、入院の対象外になってしまいます。

削減効果も疑問

 「区分1」の患者さんは報酬が介護施設よりも低く、病院は、経営が成り立たなくなるので泣く泣く退院していただかざるをえない。一部の方は介護施設に移 るでしょうが、そこは治療の場ではありません。「区分1」に含まれる多数の医療の必要な人は、当然悪化します。急性期の病床に逆戻りし、結果的に医療費が 増えてしまいます。一時的に減っても、また上がります。医療費削減効果も疑問なのです。
 また、こういう方が家に帰ったら、介護者は二四時間しばられます。働きに行くなど、とてもできません。政府が「少子高齢化で労働人口が減るから、女性も 元気な高齢者も働いて」と言っていることとも矛盾します。地域の社会生活すら、破壊されてしまいます。

本来の仕事ができない

 「区分3・2」の患者が残る療養病床では、仕事が今よりもっとハードになるでしょう。一般病床ならば医師は16対1以上ですが、療養病床では、48人に 対して1人。三分の一で、ほとんど急性期といってよい患者を診ることになります。看護師も20~25対1人です。非常に心配です。
 さらに政府は医療機関に対し、患者が医療区分のどれに該当するか、毎日チェックして証拠を残すよう求めています。たとえば、吸痰を一日に何回したか、受 け持ち患者すべてを医師に書かせる。日本では諸外国に比べ、医師も看護師も少ないことが大問題になっている中、こんな要求をしてきました。今でも医療事故 を起こさないようにとか、いろいろ気を遣い、カルテはじめ書かなければならない書類は山ほどあるのです。本来なら治療や看護に向けるべき貴重な時間を取ら れてしまいます。
 「家族に一カ月に一回チェック表のコピーを渡せ」といいますが、こんなチェック表を受け取って、ご家族はうれしいでしょうか?

「医療区分」見直しを

 さらに、療養病床を一五万床に減らすことで医療費削減効果はどのくらいか、厚労省が試算して発表しました。年間の国民医療費三十数兆円の中で、わずか一 〇〇〇億円の減少です。何となく療養病床が医療費を押し上げているというイメージを植えつけられていますが、そうではありません。
 この問題は、現在療養病床に入っておられる方、これから入られる団塊の世代、そしてわれわれ自身の問題です。いま何とかしないと、日本の医療が本当に崩壊してしまいます。
 だから私は今日あえてここに出てきました。医療区分の内容見直しなど、安心して医療が受けられるような中身にするよう、強く国に求めたいと思います。
 (発言から要旨を編集部でまとめました)

(民医連新聞 第1381号 2006年6月5日)

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