民医連新聞

2006年6月19日

改定 介護保険 現場に何が(1) サービス削られ利用者から悲鳴

実態にあわない認定つぎつぎ
-千葉・あんしんケアセンターまくはりの郷

 改定介護保険が四月一日から全面施行になりました。現場では何が起きているのでしょうか?「要介護」に認定され ることが難しくなり、一級の身障手帳を持つ人が認定の更新で「要支援」になるような厳しさです。「要支援」ではヘルパーやデイサービスの利用が制限され、 ベッド・車イスが支給されなくなりました。使用中の用具を、経過措置が切れる九月末には返却しなければなりません。連載一回目は、千葉・あんしんケアセン ターまくはりの郷(市から地域包括支援センターを受託)で聞きました。(小林裕子記者)

両足のない人から車イス奪う

 「介護保険を使わせないための認定、としか思えない」。主任ケアマネージャーの加藤久美さんは、眉をひそめまし た。「要支援」になった二事例は、ともに一級の身障手帳を持った方です(表)。一人は右半身マヒ、一人は両足切断し車イスを使っています。二人ともヘル パーやデイサービスを利用し、がんばってきました。認定が変更されたことで、生活を大きく狂わされ、気落ちしてしまいました。両足のない人に車イスが支給 されないのです。新規に認定を受ける場合にも、要介護になるのは「かなり難しい」状況です。
 「認定調査員は詳しく聞いて行っている。医師意見書を情報公開で取り寄せたが、ちゃんと記載されていた。それでも要支援2だった」と加藤さんは不審を感じています。
 今回の法改定に合わせ、認定システムが変わり、機械的なコンピューター判定で予防給付に振り分けていると考えられます。審査も短時間で、調査報告や医師 意見書が反映されず、家族の状況も考慮されていないようです。

事業所経営ができない報酬

 予防給付の報酬は、とても低くなりました。さらに定額制です。
 一般の事業所には自衛策をとるところも現れました。デイサービス事業所の中には「要支援1は月四回、要支援2は月八回までしか受けない」と決めていると ころがあります。使える額(単位)が余っていても、休んでもらうのです。ヘルパーの派遣時間を、九〇分だったものを七〇分に減らす事業所も。また、始めか ら予防介護の指定を取らないヘルパー事業所まで。「要支援」に変更になった利用者が、ヘルパーさんを変えなければならないことも起こりえるのです。
 予防プランづくりにも、問題が…。報酬が低い上、地域包括支援センター以外のケアマネが委託されてつくる場合、上限が八件とされました。超えればペナル ティ、さらに報酬が下がります。そのため、予防プランづくりにタッチしない居宅介護支援事業所が多くなりました。「引き受けている事業所では、四~五月で すでに上限の『予防プラン八件』に達した」と、加藤さんは見ています。その分、上限のない包括支援センターに依頼がきます。

ベッド・車イス支給が中止に

 要支援では、福祉用具は、杖・手すり・歩行器・スロープの四種しか使えません。新規の認定で「要支援」となった人は、ベッド・車イスをしかたなく実費で購入しています。生活保護など経済的に苦しい人は、あきらめています。
 対策について、加藤さんは「自治体が買い取って、無償または安価に貸し付ける独自のサービスをしてほしい」と声を大にします。経過措置が切れた一〇月一 日、ベッド・車イスが福祉用具事業者のもとに、おそらく大量に引き取られてくるはず。「六月市議会に提案し、九月議会で補正予算を組んでほしい」と考えて います。

地域包括支援センターも不足

 包括支援センターはこの二カ月間、大忙しでした。改定介護保険の矛盾も集中しています。
 予防プランをつくるにも、利用者宅への数回の訪問は必要です。厚労省がいうように「電話で連絡して印をもらえば済む」ものではありません。始まったばか りの制度なので、委託先のケアマネと連絡を密にし、いっしょに予防プランをつくり、利用者にも目配りします。ところが報酬は、ケアプランの半分です。
 民生委員からも月に四~五件の相談があります。これら本来の仕事を妨げる膨大な事務量も問題です。各種の書類がたくさんある上、予防プランの報酬をとり まとめて請求し、配分したりの仕事もあります。市の委託料も十分ではありません。「設置数や人員を増やし、地域割りを細かくするなど、自治体が地域にもっ と目配りする体制が必要」と、加藤さんは語りました。


 

事例1】40代の小・中学生の子をもつ主婦。右マヒで身障手帳1級。電動車イス、ヘルパーと通所リハを利用。家事をしようと努力し、要介 護4から徐じょに回復。しかし、しゃがむ動作、会話、計算などが困難で右目も不自由。「要介護2」から「要支援2」になり、変更申請したが変わらず。通所 リハは日が変わり、不自由な言葉を理解してくれる仲間と別になるので、止めてしまった。ヘルパー時間も減り閉じこもりがちに。

事例2】60代女性。糖尿病性の壊疽から両足を切断。身障手帳1級。車イスと装具を使用。室内は腕をつかって移動。「要介護1」から「要支援2」に。10月に車イスを返せば、デイサービスなどに行く移動手段にも困る。

えっ!?
この方が「要介護」でない?

判定結果と実像のギャップ~全国の報告から~

要支援1

●認知症でインスリン自己注射も忘れがちな80歳男性。金銭管理も難しい。同居の妻も強度の認知症。在宅生活が困難。
●冠動脈バイパス術後の84歳男性。心機能は健康な人の38%、突然死の危険性が大きいにもかかわらず、現在月2回の訪問看護を月1回に減らすよう打診さ れている。自己決定能力が十分あるためか。

要支援2

●更新前は要介護1。うつ病でADL不安定、家事なども困難な92歳女性。入浴にも見守りが必要。主介護者の夫も病気がち。ショートステイを利用しないと在宅生活は困難。
●両下肢麻痺で車椅子を使用する78歳女性。訪問調査は20分ほどで「変わらないですね」と確認されただけ。デイサービスが週4回に減り、ADL低下が懸念される。
●間質性肺炎、心不全、糖尿病の80歳男性。在宅酸素だが、自分では内服や酸素の管理はできない。しかし、訪問看護を週1回→月2回に減らすよう、地域包括支援センターから提案された。
●歩行、起き上がり、寝返りはつかまればできるが、立ち上がりにささえが必要な方。一次判定は「非該当」。主治医意見書には「右大腿骨骨折後遺症、不安定 な歩行」と記載もされている。二次判定で要支援2に。
●季節が理解できず、物忘れがひどい方。更新前は要介護3だった。寝返り、起き上がりはつかまれば可。ささえ無しで立位保持できない。歩行はつかまれば 可。排尿・排便、薬の内服・金銭管理・電話の利用は一部介助。一次判定要介護1だったが二次判定で変更。
●意志の伝達、指示の理解は時どき通じる程度の方。昼夜逆転や、話の繰り返し、暴言も時どきある。立ち上がりはつかまれば可。金銭管理は一部介助。電話は 全介助。統合失調症で受診中。一次判定の要介護1相当が、二次判定で変更。

(民医連新聞 第1382号 2006年6月19日)

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