民医連新聞

2009年2月16日

多額の未収金 背景に生活困難 185人の患者訪問でわかったこと ―福岡・千鳥橋病院 「無料低額診療を利用しませんか」 重い3割負担を緩和、受診へ

  福岡・千鳥橋病院では、多額の「医療費未払い」に対応するため、職員総がかりで「未収患者生活実態調査」を行いました。未収金の背景にある患者さんの生活 困難を自分たちの目でとらえ、患者を支援し、経営を守るためにはどうすればいいのかを考えました。行動が若い事務集団を成長させています。(村田洋一記 者)

 「未収金比率が異常に高い」。医事部長の竹元(たけもと)悟さんは県連の指摘を受け驚きました。〇七年一〇月に全日本民医連が行なった「病院未収金問題交流会」の事前調査で、事業収益の〇・九四%が未収金になっていました(全国平均は〇・二八%)。
 同院は〇八年二月、院内に「未収金プロジェクトチーム」を立ち上げ、原因の追究、問題の整理に乗り出しました。竹元さんは「多いとは認識していたが、民 医連は未収金があって当然、どこも同じようなものと思っていた」と振り返ります。問題視されたのは「担当者任せで、未収金の実態が把握されていなかったこ と」「社会情勢の悪化」でした。
 そこで未収金管理を明確にすると同時に、全職員に「未収患者生活実態調査」を提案しました。
 四月、五月、八月と三回の訪問を実施し、のべ一八五人の患者さんと対話しました。職員参加は、のべ一九五人。事務職員中心でしたが、参加者の約三割は看護師・コメディカル。ある病棟師長は、三回とも参加しました。
 当初は「何でこんなことに」「事務職の責任じゃないの?」など、不満の声も。しかし、行動するたびに他職種の認識も変わってきました。
 「実際に行ってみて、話を聞いて勉強になった。病棟で見ているだけでは患者さんの実生活はわからなかった」(病棟看護師)、「生活に困っている患者さん が多いことに気づいた」(医局事務)など、自分の職場からは見えない事実を知ったのです。

払いたくても払えない

 病棟から名前があがった患者は、入院精査で食道がんが見つかり、退院後に中断していた男性でした。
 訪ねてみるとAさん(五〇代)は失業中で、妻はパート、息子は派遣労働者という三人家族でした。厳しい生活の中で、入院費を少しずつ支払っていました。 受診しなかった理由を尋ねると「お金がないので。しかたがないね、と夫婦で話をしていたところ」と、あきらめていました。その後、同院の無料低額診療制度 を利用して、Aさんは化学療法を、妻も受診を再開しました。
 タクシー運転手のBさん(男性・五〇代)は、心疾患でステント治療のため、六回も入院治療しています。入院のたびに約一〇万円の自己負担が発生、月に一 万円ずつ支払っています。その支払いが終わらないうちにまた入院、新たな未収金が発生する状態でした。聞くと、年収は約一五〇万円。Bさんも無料低額診療 制度を利用することになりました。
 また病院近くの日雇い労働者の寮を訪ねた時のことです。患者さんとは別の人が「具合が悪い」と。急いで病院にストレッチャーを取りに行き、そのまま緊急 入院、緊急手術になりました。その人は無保険でお金がなく、来院できずにいました。すぐに生活保護を申請。少し遅ければ大事にいたるところでした。
 実態調査をすすめる中でSWが奮闘し、無料低額診療制度や生活保護申請などにつながる人も増えてきました。そして、調査結果をまとめると、未収金の患者 は決して「払えるのに払わない」という悪質な人ではなく、多くは「払いたくても払えない」ことが明らかになりました。

患者の立場に立った対応

 「訪問して、職員の意識が大きく変わり、鍛えられた」と話すのは入職して六年目、医事部課長二年目の芦(あし)村陽子さん。青年職員たちが、経済的に厳しい患者には積極的に無料低額診療制度をすすめ、SWに相談するなど、迅速に対応するようになりました。
 また、患者の経済的・精神的負担を軽減し、未収金を発生させない努力を意識するようになりました。
 経理や総務、本部などの職員もだんだん無料低額診療制度の説明がうまくできるようになり、「もっと患者情報がほしい」という意見が出てくるほどでした。

民医連らしい未収金管理

 一方、医事部としては未収金管理の明確化をすすめました。データ化・実態把握が不十分だった理 由の一つは、入院部門の医事業務を〇四年から外部委託していたことにありました。医事部長以外は入院窓口から保険請求まですべてを委託社員が担います。し かし、短期間に人が入れ替わり、きちんとした引継ぎも未収金の把握もされなくなりました。このままでは業務も回らず、事務職員の後継者育成もできないと判 断し、〇六年に請求に関わる事務の委託をやめ、正職員を配置。その新しい職員が中心になり、いまでは未収金の状況を毎月の各病棟「診療運営会議」で報告で きるまでになりました。
 竹元さんは「未収金は今後の社会情勢や地域性からいっても増加すると考えられる。情報を多くの職員で共有し、病院全体の問題にして、民医連らしい未収金管理に医事部が責任を持ちたい」と課題を語ります。
 今後も社保の運動と結びつけて「気になる患者」などの訪問を計画しています(次回は二月)。四月には新入職員の研修としても行う予定です。

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訪問事例から

●母親と対話。未払いについて謝られた。訪問時、1万円支払う。無料低額診療制度の利用を検討してもらうことに。
●現在、生活保護。未払いは国保の時のもの。手持ち金なく、次月に支払う約束。
●現在、無保険。自己破産。未払い金については弁護士に話してあるとのこと。
●家自体がなくなっていた。
●本人不在で家族と対話。未払いに驚き、月3千円の分割払いなら可能と。子どもがおり、生活は苦しそうな印象。
●住んでいるようだが、反応がない。

(民医連新聞 第1446号 2009年2月16日)

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