民医連新聞

2009年2月16日

フォーカス 私たちの実践 バースレビューで産婦を援助 甲府共立病院(山梨) 出産を「苦痛や失敗」でなく「貴重な体験」とふり返る

 第九回看護介護活動研究交流集会で報告されたとりくみです。

 満足のいく出産体験は、母親が役割を果たすための大きな契機になるといわれます。一方、思いとかけ離れた体験をする女性もいて、その援助が課題になっています。
 バースレビューは、産婦の「わだかまり」を知り、出産体験に肯定感をうながす具体的援助の一つです。
 当院では、妊娠がわかった段階で、妊婦自身が主体的にとりくめるよう「こんな出産をしたい」というバースプランを作成しています。これに対し、出産後に自分の体験を振り返ってもらうのがバースレビューです。
 事例を紹介します。
 Aさんは四〇代で初産。既往歴や妊娠期も異常なく、予定日を超過し誘発目的で子宮口を開く処置を施しました。
 その後、陣痛が起き、急に強い痛みを訴え出血が多量に見られました。胎児の徐脈もみられ、緊急に帝王切開で女児を出産。手術中に常位胎盤早期剥離(はくり)と診断されました。
 赤ちゃんは、筋の緊張が弱く、あえぎ呼吸の状態だったので蘇生を開始。五分後、心拍、呼吸、皮膚色が回復。また、目から頬(ほお)に五~六センチの赤いあざがありました。

手術の恐怖、子の心配…

 Aさんに、産褥(さんじょく)一日目と六日目にバースレビューを行いました。
 一回目、赤ちゃんを抱いたAさんは「自分がこうなるなんて思いませんでした。手術中、先生たちのただごとでない雰囲気や赤ちゃんの泣き声が聞こえないの で、朦朧(もうろう)としていても怖かった。赤ちゃんを守りたい気持ちで精一杯でした」と恐怖感を話しました。
 また、「赤ちゃんにあざがあることを今日知り、女の子で顔なので、消えるかが気になっています。数分は呼吸もない状態と聞いて、後で脳の障害などが出ないか…」と不安も強くありました。
 そこで気持ちの整理に役立つよう、五つの質問を表にして渡し、二回目までに自由に書いてもらうことにしました。質問は、(1)お産前のイメージと比べた 実際の感想、(2)お産で感じ、考えたこと(がんばったこと)、(3)わだかまりや心残りなど、(4)助産師や医師に「こうしてほしかった」と思うこと、 (5)赤ちゃんに伝えたいメッセージ、というものです。

“わだかまり”を解消

 バースレビューで私たちは、共感しながら、プラスの「認識の変化」「意味づけ」をうながしました。Aさんも回を重ねる中で、わだかまりを解消し、「恐怖体験」が「自分なりに精一杯がんばった貴重な体験」へと変化しました。
 たとえば最初は「周りの人から、なぜ早く入院して帝王切開にしなかったんだと言われた…。私は自然分娩で問題ないと思っていた。なぜこんな事が起きたの だろう」と悔やんでいたAさん。だんだんと「ああいう状況で母子ともに生きていたことは奇跡に近いことだと思えます。だから、この子といっしょにいられる 幸せを忘れないでいこう」と話すようになりました。Aさんが母としても強くなったように思えました。
 子へのメッセージには「これから先、辛いこともあると思うけど、いろいろな可能性に挑戦して生まれてきた喜びをいっしょに味わっていこうね」と書いていました。
 出産という特別な体験は女性の自信につながる一方、場合によっては、逆に苦痛・喪失体験として残ることもあります。バースレビューは、出産にわだかまり や失敗感を持つ母親に働きかけ、認識の変化や新しい意味づけをうながすことに役立つと考えられます。
 産婦人科における体制の厳しさは大きな課題ですが、出産にていねいにかかわる姿勢で、工夫を重ねていきたいと思います。

(民医連新聞 第1446号 2009年2月16日)

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