民医連新聞

2006年8月7日

重い保険料が命おびやかす -患者さんといっしょに改善運動を-

 「受診我慢の末死亡 21人」―朝日新聞が国民健康保険加入者の実情を大きくとりあげました。各地の民医連事業所を取材した記事です。国保 料を滞納している世帯は全国で四七〇万を超え、加入者の五分の一に(〇五年六月一日現在)。問題は高い保険料。滞納が長引けば、制裁措置として保険証とり あげ=治療の機会を失い手遅れに…最悪は命まで失う、という構図です。今年度は特に、税制改革に連動し、保険料がアップ。犠牲者を出さない努力が始まって います。(木下直子記者)

年収270万円の親子に30万円の国保料請求が

 Aさん(69)は、千葉・新松戸診療所(東京民医連)の患者さんです。家計を担っていた次男が、昨年から病気で思うように働けなくなり、収入が激減しました。年収約二七〇万円の世帯に請求された国保料は、三〇万六〇〇〇円という額でした。

 「私と息子の医療費(窓口負担分)に、二万円は置いておきたい。家賃や光熱費を払うと、一〇日間の生活費を一万 円で抑えようと思っても厳しい」とAさんは生活を語ってくれました。着る服をハギレで縫い、思い切って友人に窮状を打ち明け、野菜を差し入れてもらうな ど、できる限りの節約をしても「私は一食抜こう」という日があります。若いころ片肺を切除、現在もいくつかの病気治療中のAさんの体に、こんな生活は良い はずがありません。

 「診療所が息子に紹介してくれた病院にも、すぐには行けませんでした。本人は行きたくても、窓口で支払うお金が なかったんです。普通に働ければ何とかなる一万円、二万円が、捻出できません。医療費も国保料も高いです」。それまで息子さんが通院していた開業医の医療 費は、長男から借りていました。今年に入って息子さんの収入はさらに減り、半年間で九七万円。貯金も数万円しか残っていません。

 「ぜいたくしたいとは全く考えていません。息子が落ち着いて治療できる機会がほしいだけ」。そう語るAさんの眼鏡が涙で曇りました。

 医療を受ける保障であるはずの国保が、支払える限界を超えた保険料のせいで、医療どころか、生活まで圧迫しています。

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 国保に加入する人は自営業者か高齢者ですが、高齢化と不況による失業者の増加で、無職者の割合が五割を超えています。

 しかし、加入者の実情に反し、国保料の負担は他のどの保険よりも重いのです(図)。Aさんのような事例は、特別な話ではありません。四〇〇万円前後の所得で最高額の保険料・五三万円が請求される地域も。その上、年々引き上げられれば、滞納者が増えるのは当然です。

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  国保を運営している市町村は財政悪化を値上げの理由にしますが、その発端は、政府が八四年に、国保の国庫負担を四五%から三八・五%に減らしたこと。とこ ろが、政府が打開策としてうちだしたのは、滞納者へのペナルティ強化でした。正規の保険証をとりあげ、数カ月間しか使えない期限付きの「短期証」や、いっ たん窓口で医療費一〇割を払わなければいけない「資格書」に切り替えるよう、指導。結果、保険証のとりあげが急増、全国で約三二万世帯に資格書が発行され るようになりました(下)。

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 国保料を支払えない人が、医療機関に来て、医療費全額を払うことは困難です。受診をがまんし、手遅れになる国保の患者さんが増えるのは、こんな背景があるからです。

中断・未収金、意識的につかみ相談へ
新松戸診療所

 新松戸診療所では、積極的に国保の相談に乗っています。Aさんもその一人で、いま松戸市に国保料の減免申請をし ています。日常診療でも意識的に治療中断や窓口未収金の有無など、患者さんの状況を把握しつつ、国保・介護保険料の納付書が届く六月に「いのちと暮らしの アンケート」をとっています。とりくみの中心は、事務長の関智子さんです。

 〇三年からとり始め、今年で四回目のアンケートの束には、付せんがたくさんついていました(写真)。国保料減免の希望者です。回答者一六〇人中、三五人。

 松戸市には国保料の減免制度がありませんでしたが、昨年ようやく条例ができました。〇三年から地域に「国保をよくする会」をつくり、運動を起こしました。診療所のアンケートも、同市との懇談で紹介、減免の希望者の多さが、担当者を驚かせました。

 関さんは、地域の「国保をよくする会」や社保協の学習会などにも必ず参加し、情報をつかんでいます。今では患者ではない人から、相談の電話が入ることも。

 「来られなくなった人のことは、努力しないとみえません。生活が苦しいことを、恥ずかしくて口にできない方も多いです。相談に乗ってみて、こんなにたいへんな事情だったか、と思うこともしょっちゅう」と。

 取材の日も、橋本病の治療を春から中断しているという女性から、「薬がないので体が辛い、でも医療費がない」と、電話が入りました。「お金はいいから、とにかく受診に来て」という関さんの言葉に、女性は泣いてしまいました。夜診に来たその人の保険は、短期証でした。

 「アンケートは、診療所をささえてくれる患者さんや地域の人たちに共感する手段でした。生活保護の申請もしたこ とがなかった私たちも、相談活動でノウハウが身について…。いっしょに問題を解決したいという私たちの姿勢が、診療所への信頼につながるかな、と考えてい ます」。

兵庫
「講座」で国保に強い職員増やす

高齢者の増税に連動、保険料も大幅アップ

 高齢者の非課税措置の廃止・縮小で、今年度から税負担が重くなりました。連動して、国保料・介護保険料も 大幅に上昇。保険料が4倍という人も少なくありません。役所には連日、問い合わせや苦情の人がつめかけています。1日400人を超す所も。保険料が払え ず、保険証がもらえない人が急増する恐れがあります。

 兵庫民医連では、犠牲者を出さないために、国保の相談に乗れる職員を増やそう、と6月29日、国保講座を 開きました。事務や看護師、ケアマネ、医師など54人が受講。内容は、(1)事例をもとにしたロールプレイ、(2)講義・国保問題とは何か、(3)各法人 から困難事例の報告、(4)講義・国保料の計算方法と減免制度の活用、でした。

 参加者からは「事例に涙が出た」「窓口で、保険料や一部負担を『払えない』と相談するのは、大勢の人目もあり、難しいと知った。プライバシーに配慮し相談しやすい工夫がいる」など、感想が出ました。(大杖哲司、県連事務局)

 

新潟
「国保料値下げ」求め直接請求運動

値上げ9.4%にも。怒り集まる

 新潟市は7月から国保料を平均9.4%値上げしました。同市の国保料滞納世帯は毎年増え、6月には昨年か ら3000増の2万2000世帯に。これでは払えない人がさらに増えてしまいます。そこで、民医連も参加する「新潟市の国保をよくする会」は、国保料の引 き下げを求める直接請求運動を、6000人の受任者を組織して始めました。

 7月10日の開始以降、署名を希望する人からの電話が毎日何本も入る、署名を断る人はいない、などの反響が。8月10日まで、有権者の5分の1・13万筆の目標をめざします。(酢山省三、県連事務局)

(民医連新聞 第1385号 2006年8月7日)

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