民医連新聞

2009年4月20日

国保 手遅れ死 31人が語るもの お金なく、資格書ではかかれない ―全日本民医連の調査から

 全日本民医連が三月に発表した「国保の死亡事例調査」にマスコミも注目。三一人を死に追いやった国保制度の欠陥として、国保料 (税)の高さと、滞納世帯に対する「制裁」を問題にしました。全国で滞納世帯は四五三万、国保加入世帯の二一%です。制裁措置の短期保険証が一二四万世帯 に、資格証明書が三三・八万世帯に発行されています(〇八年六月・厚労省)。資格書では一〇割負担。滞納者のかかえる経済的困難を見ず、「悪質扱い」する 行政。死亡者の一事例を市や県に示し、行政のあり方を問いかけている岐阜・みどり病院を取材しました。(小林裕子記者)

岐阜・みどり病院の場合

市や県の姿勢問う
「悪質と決めつけないで」

 同院では昨年一〇月前後、資格書での入院が立て続けに四件ありました。
 六六歳の女性Aさんは、入院して一週間後に膵臓ガンで死亡。近くの公営住宅に住み、年金は月七万五〇〇〇円。一カ月前から腹が張り、食べられなくなり、 他県に住む娘に助けを求め受診したときは手遅れでした。「支払いの余裕がなく、娘に迷惑をかけたくなかった。病院へ行けばお金がかかる」と話しました。
 六八歳の女性Bさん。無年金で契約社員の息子さんと公営住宅に二人暮らしでした。糖尿病と高血圧で他院に通院中でしたが、一年ほど前から中断。ふらつ き、言語障害、尿失禁でみどり病院へ。多発性脳梗塞でした。「息子の収入に頼る生活で保険証もなく、病院に行くお金もなかった…」と話しました。
 五三歳男性のCさん(建築業)。高齢の両親と同居です。下痢とだるさを訴えて受診。結腸ガンが見つかり、いまも他院で治療中です。
 四〇歳男性Dさん(塗装業)。一人暮らし。胃痛と吐き気を市販薬で抑えていましたが耐えきれず受診。出血性胃潰瘍でした。いまは退院し外来治療中です。
 Aさん以外は命にかかわる事態は避けられましたが、保険証がないため長くガマンしていました。

機械的な「資格書」発行

 同院・相談室のソーシャルワーカー林信悟さんと清藤彩野さんは言います。「みな所得が少ないか、不安定な世帯。決して悪質滞納者ではない」。ところが岐阜市は、払えない事情も聞かず、一年の滞納で機械的に資格書を郵送。四人とも市役所から電話も訪問も受けていません。
 「保険料は前年の所得で決まるが、当年の収入が減ると支払い困難になる。そういう世帯の実情を市は把握していない」と清藤さん。
 「とくにBさんは治療が必要で『特別な事情』と考えられ、資格書にすべきでないケース。治療中断が脳梗塞の発症につながったと思う」と林さん。
 資格書だと、子どもが「乳幼児医療制度」が使えないなど、問題が起きていました。

市、県に改善求める

 林さんと清藤さんは、国保問題での岐阜市、岐阜県との交渉に参加しました。
 岐阜市と「岐阜市国保をよくする会」の話し合いでは、国保課長が「三九の中核市で資格書発行ワースト1」と認め「なんとしても避けたい」と発言する状況 です。国保加入約七万世帯中、滞納世帯は二割を超え、その二四%の三五八一世帯に資格書を発行(〇八年九月資料)。市が面接や電話で事情を把握したのは三 割ほどにすぎません。会は改善を求めました。
 林さんは県社保協のキャラバンに参加し、各市町村と国保問題でも懇談してきました。わかったのは「行政の姿勢の違い」です。たとえば郡上(ぐじょう)市 は、滞納世帯約三五〇を全部訪問して状況をつかみ、同市の資格書発行はゼロです。
 岐阜県と県社保協との交渉で、林さんはAさんの例をあげ、市町村を指導するよう求めました。「県が無責任では?」と考えています。大須賀しずか県議(元 みどり病院の看護師)も機械的な資格書発行や福祉医療の対象者への発行を議会で問題に。県は実態調査を約束し、結果をもとに市町村に「法令遵守」を通知し ました。

「すぐ相談室へ」

 清藤さんは「悲劇を防ぐために、私たちが知る実態を行政に伝えていくことが大切だと思う」と。相談 室が発行する「相談室だより」には「手遅れを生む資格証明書、受診したらすぐ相談を」の見出しが。深刻事例は昼の外来カンファレンスでも報告します。最 近、Aさん、Bさんが住んでいた公営団地に「困ったことは相談を」のチラシを、職員たちが手分けして配布しました。資格書をなくすとりくみの始まりです。

高い保険料と重い窓口負担改善を

非正規労働者の死

 民医連の調査は三回目です。今回は非正規雇用の劣悪な労働条件・環境を示す事例がありました。
 正規雇用に該当者はなく、非正規雇用が八例、失業中が一一例ありました。うち三〇~四〇代が二人。三二歳男性は、土建業のアルバイトで妻と子ども二人を 養っていました。高血圧でしたが経済的にも職場事情からも休みが取れず、治療を中断。仕事場で倒れ救急搬送。脳出血の手術中に死亡。
 パート勤務の四九歳女性は、職場健診で高血圧と診断され、「治療しないなら雇わない」と言われましたが、無保険で治療できず失職。くも膜下出血を起こ し、緊急手術後、意識が戻らず亡くなりました。このほか、病気になって失職、国保加入ができず無保険になったケースが多数ありました。

高齢者を制裁

 後期高齢者の死亡が二例。八一歳男性の場合は、国保法では「老人医療の対象者には資格書を交付しない」決まりなのに、かなり前から資格書が発行されていました。そのため「病院にかかれなかった」と家族が話しています。
 八九歳男性は、妻・息子と同居でしたが、息子が失業してから無保険になり、生活費は年金だけ。低栄養で肺炎を繰り返して死亡しました。二人の事例は、後 期高齢者医療制度で「滞納者へ資格書発行」したら何が起こるか、端的に示しています。

暮らせない年金

 「年金暮らし」が七事例ありました。独居の年金生活者(六六歳男性)は、痛みを市販薬で紛らわせて いました。借金して受診したときは肺ガン末期でした。保険料の支払いもできない年金の低さが推測されます。七一歳女性は無年金で、収入は視覚障害者の夫の 年金だけ。救急搬送された翌日、肺炎で死亡しました。

ガン末期までガマン

 死因では悪性腫瘍が六割でした。日雇いの六〇歳男性は仕事がなく、貯金が尽き、市役所で生保受給相 談中に倒れました。末期胃ガンでした。独居の五七歳男性は、働けなくなり収入が途絶え、知人宅に身を寄せ、兄弟やサラ金から借金して生活。肝臓ガンで受診 後三カ月で死亡。このように末期になって救急搬送、即日入院、翌日~数カ月後に死亡というケースが目立ちました。早期発見すれば助かった人たちです。

「悪質」でなく「困窮」

 滞納世帯率はずっと二割近くです(〇八年は納付率が高かった後期高齢者が外れたため急上昇)。
 その理由の一つが国保料の高さです。年間収入に対する負担率は、政管健保七・四%、組合健保五・一%に比べ、市町村国保は一一・六%。国保には低所得の 世帯が多く、保険料が「高すぎる」「支払えない」のが実態です。生活を切り詰めて保険料を支払えたとしても、窓口での三割負担が重く、受診を手控えたケー スもありました。
 資格書の交付だけでなく。最近は、滞納者を悪質と決めつけ、「差し押さえ」や「徴収専門家の派遣」などで追いつめる措置が取られています。しかし今回の事例には「困窮」はあっても、「悪質」は皆無でした。

緊急提言

 31事例は氷山の一角です。全日本民医連は国に対し、緊急提言しました。「子どもに資格書を出さない」国保法改定と同様、大人も病気で経済的に困難な場合は「保険証を発行する」という閣議決定通り、保険証の機械的取りあげを即刻中止すべきです。
■短期保険証、資格証明書の発行はただちにやめ、正規の保険証を交付すること
■窓口一部負担金の軽減、少なくとも3割から2割負担へ軽減し、当面国保法44条の活用、無料低額診療の活用を指導すること
■国庫負担を元(45%)にもどし、誰もが「払える保険料」にすること
■失職後再就職までの期間、健康保険加入資格を国と企業の責任で継続すること

(民医連新聞 第1450号 2009年4月20日)

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