民医連新聞

2006年9月4日

フォーカス医療・福祉の実践(6) 肝炎患者救済に17年 B型肝炎 原告が全面勝訴 北海道勤労者医療協会

 「B型肝炎ウイルスに感染したのは、集団予防接種で注射器を使い回したため」と北海道の患者五人が国の責任を問うた裁判で、六月一六日、最 高裁は原告の主張を認め、国に賠償を命じました。この裁判には、北海道勤労者医療協会(勤医協)の慢性疾患管理の二〇年以上におよぶ活動が深く関わってい ます。中央病院の安井重裕事務長の報告です。

 一九七五年、札幌病院でB型肝炎の患者同士互いの親睦を深めるため、同院の慢性疾患管理・肝グループとともに「ウイルス性肝炎友の会」をつくりました。ここから長いたたかいが始まりました。
 友の会では学習会などを重ね、一九七八年の総会で、「肝炎治療の保障制度を求める運動を本格的に展開しよう」と呼びかけました。そして、健診や治療の保 障を求める署名活動にとりくみました。この運動は、民医連を中心に全国に広がりました。患者会もつくられ、長野や徳島にも結成され、全国組織もできまし た。

B型肝炎は「医原病」

 当時、B型肝炎は母子間の感染が原因と考えられていました。肝グループは、B型肝炎ウイルスの感染経路を追跡調査しました。家族・親類の採血をさせてもらうため、函館や旭川、小樽など、吸血鬼のように北海道をくまなく巡りました。
 このとりくみでB型肝炎ウイルスがどのように家系内に集積するのか解明しました。しかし、感染経路が不明な患者様が多いことも分かり、疑問がふくれあがりました。
 さまざまな文献を調べた結果、「集団予防接種で針や注射器をとり替えずに接種したことが原因」と、考える学者がいることを知りました。肝グループでは手 分けして、一九世紀からの外国文献も調べ、肝炎はずさんな医療行政が原因の「医原病」であると確信しました。

肝グループの努力で勝訴

 「国の責任を問い、肝炎患者の救済を」と、肝グループは、原告になってくれる人を捜しました。予防接種が原因で B型肝炎になった人を捜すには、母子間感染、輸血歴のある人を除かなくてはなりません。しかし、条件が合う人がいても国を相手に訴訟を起こすことにちゅう ちょする人も多く、原告捜しは難航しました。最終的に勤医協職員二人を含む五人で、一九八九年六月三〇日に札幌地裁に提訴しました。
 裁判では、肝臓学者に証言を依頼しました。しかし、ほとんどの学者に断られ、逆に国側の証人となる学者もいました。私たちはその姿を情けない思いで見つめたものでした。
 一審は敗訴でした。高裁では昭和大学の与芝真教授が、私たち原告側の証人を引き受けてくれました。与芝教授の証言や私たちの努力が認められ、高裁が国の責任を認め、勝訴しました。
 この訴訟は当初、北海道民医連の大きな支援を受けました。しかし、九五年の退職問題で患者会も訴訟も困難な状況に陥りました。それでもあきらめず、患者 団体や弁護団と闘い抜き、最高裁で「全面勝訴」判決を勝ちとることができました。
 一七年間、つらい時期もありました。しかし、当時の肝グループの努力やバイタリティーがあったからこそ、勝利できたのです。
 ほとんどの病気には社会的な背景があります。アスベストによる中皮腫や肺がん、薬害エイズや肝炎など、個人の責任ではありません。地域や患者実態に密着 したアプローチで真実を掘り起こし、症例検討や学習を通して掘り下げていく。民医連ならではの活動です。この裁判の勝利は、それを実証していると思いま す。
 私たちは引き続き、薬害C型肝炎訴訟のたたかいとも連帯したとりくみをすすめています。今回の判決がすべてのウイルス肝炎患者救済に道をひらくものとなるためには、さらなる闘いが必要なのです。

(民医連新聞 第1387号 2006年9月4日)

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