民医連新聞

2006年9月18日

〝医師増やそう〟僕らがウエーブをよびかける理由 医師座談会

「そして病院から医師がいなくなる~まともな医療と私たち医師の未来のため 日本の医師を増やす運動を呼びかけます~」―七月、全日本民医連が開いた医師 委員長会議の参加者有志が、よびかけ文を発表しました。「史上初の運動だ。医師の労働実態をアピールしたい」など、さっそく声もあがりはじめ…でももう少 し、話をきかせてほしい。呼びかけ文をつくった医師たちのうち三人の座談会を企画しました。

声をあげるに至った 地域医療のかつてない危機

遠藤 「医療供給体制がかつてなく困難だ」といわれていますが、地域や現場の実態はどうですか?

柳沢 医師数だけでみれば、全国平均に達している石川県でさえ、科別や地域によって医師不足は深刻 です。金沢市で小児科医が複数いるのは、大学病院、県立病院、医療センターと当院のみです。ここ数年で、三〇〇床の市立病院で常勤小児科医が不在となり、 日赤病院でも複数の医師から一人体制に減り、お産も取りやめになりました。別の民間病院では、年三〇〇件あまりのお産を二人の医師で行い、休憩時間に手術 を入れるなど厳しい体制だと聞いています。能登では、二〇〇床近い病院で内科医が一人しかいない、といった具合で、地域格差も激しい。

平田 山梨県内の病院でも中堅医師の退職があいついでいるようです。僕の専門の循環器分野では各々 の病院でカテーテル治療を中心的に担っていた医師がここ一年くらいの間に三人開業します。そのうちのある病院ではカテーテル治療のできる医師を一本釣りの ように探していると聞きます。
 また、地域の二次救急を輪番制で担っていますが、「当番病院に連絡したが、今からオペで数時間、救急受け入れ停止です。共立さん受けてくれませんか」と いう電話が救急隊からよく入る。「あの病院は」と医局でブーブー言いますけど、考えてみると、それだけどこもギリギリの体制で救急医療を担っているんだな と。
 僕の病院でも「救急室が満員で、救急車もいて、さらに救急の連絡が来たときは、断るべきでは?」と声が出るほどです。救急搬送の方を対応していて、ウ オークインの患者さんが二時間待ち、ということも。

増田 人口当たりの医師数が日本一少ない埼玉県で仕事していますが、先日こんなことが。救急車を受 けられなくて断ったのに、しばらくしてまた同じ隊から電話がきて「病院一〇件に連絡して断られている」と…それでなんとか受けました。僕が医師になった約 二〇年前とほとんど事態は変わっていません。
 日本の医療は、医療者の献身的な努力で成り立ってきたけれど、救急を受けているような病院の勤務医は疲弊しきってます。「あのさあ」「実は」と、他の先 生から声がかかると、退職話じゃないかとドキっとします。

世代超えて考えよう 医師不足は待ったなし

増田 日本の医師不足が判明したのは国民皆保険制度ができたころです。当時の政府は、人口一〇万人に一五〇人の医師をめざしました。でも、変わってない。
 この一〇年ほど、「医師標準定員の欠如=標欠」という言葉が流行しました。標欠になれば病院が維持できないので、管理者は派遣医を〇コンマいくつ、とい うような単位で入れて、医師数を揃えます。でも派遣医たちは、常勤ほど働けないから、常勤医にまた仕事が集中する。どんどん悪循環に陥ります。医療の密度 も、昔とは圧倒的に違うし。僕らが研修医のころは心筋梗塞が来たら、血栓溶解剤を静注して、あとは祈るようにしていたんだけれど、今はそうじゃない。人も 手間も必要です。
 管理者と現場で働いている人とが、同じベクトルがつくれない問題も出ています。ある病院で、若手医師たちが「やれない」と反乱を起こし、救急受け入れが ストップしました。それが地域から非難され、上層部が必死で若手を説得する騒ぎになりました。また「二四時間いつでも救急を受ける」と言う病院があって、 すごいと思っていたら違う。「院長がいる時は確かに受けるが、若手が当直だとすぐ断る」と救急隊から聞きました。その病院の若手医師と話したら「院長はた だ『受けろ受けろ』と言う。そんなにしてたらオレたち死んじゃう」と言うんです。

遠藤 どうしてこういうことが起こるのか、みんなで学び、共通認識にしないと、医師同士で団結できないですね。

増田 民医連は今まで一度も「医師は足りている」と言ったことはないですよね。「医師が足りず、病 棟閉鎖や医師支援」という話は、これまでもありました。でもいま起こっている事態は、これまでとは違うんです。医療崩壊の速度は、医学対を増やすとか、ダ ウンサイジングで切り抜けられるレベルではないんです。職員はもちろん、国民にも分かってほしい。
 また、現場にいて、肌身でつらさを感じている医師たち自身、忙しすぎちゃって、医師不足や厳しい労働実態が、どこから来るのか、広い視野でとらえにくく なっていますよね。そこを伝えるのも大事だと思います。

柳沢 「民医連やからたいへん」と、思っている人もいると思います。僕もこの前の職員集会で、医師問題をレクチャーしました。

平田 山梨では医師政策づくりを始めました。成果は未知数だけど、政策づくりを通じて、情勢を学びながら、自分のこととしてとらえ、どう解決するか、あらゆる世代の医師たちといっしょに考えよう、という呼びかけにしました。

本気で、ドクターウエーブ 「誰も犠牲にしたくない 犠牲になりたくない」

遠藤 運動のひろがりの可能性を、どうつかんでいますか?

柳沢 金沢市医師会の勤務医部会が「勤務医のQOLを考える」という企画をしました。四十数人の参加で、肝心の勤務医は十数人でしたが。
 女性の産婦人科医が自分のQOLと、「知りあいの女医六人のうち三人は、すごく働きたいのに、子育て中の女医が勤められる病院がないんだ」と切実な問題を語りました。
 またある病院の部長は「この集まりに呼ばれ、どうすれば勤務医のQOLが向上するか、考えたが知恵が出なかった。とにかく勤務をみてほしい」と、自分の 生活がいかにひどいか、スライドで告発しました。この医師の病院は循環器五〇床で医師五人。循環器内科で一〇人の入院患者をもつのはキツいんです。
 朝七時位に病院に来て、五分、一〇分単位で、やった仕事をみせていきました。午前中は外来、外来のあいまに一〇分程で昼食、午後はカテーテル、その間に も感染対策や、安全性の委員会などが、どんどん入る。カテーテル中のちょっとの間に、翌日のカテーテルの患者さんをカテーテル室に呼び、承諾書をとる。病 棟の回診は二〇時以降。信じられない位ずっと、二三時くらいまで働いて「二四時就寝、爆睡」で毎日が終わる。
 これを聞いて「アッ」と思いました。この医師がこういう発表をするのはたぶん初めてです。でもこんな風に実態を共有することが、運動の発火点になるのでは? と。

平田 最近、法人の新任役員になった共同組織の方たちに、医師問題を、レクチャーしました。そうしたら、こんな話が出てきたんです。
 「この前、よその病院に入院した時、循環器の医師がベッドサイドに来て、いかに自分の仕事がたいへんか、とうとうと話していった。その時はあまりピンと こなかったが、レクチャーを受けて、やっと意味がわかった」というんです。僕もその医師を集まりなどで見かけていましたが「こんな困難な症例がうまくいっ た」と、さっそうと報告する姿からは、悩みなんて想像もできなかった。その患者さんが民医連の関係者と知って、分かってくれると期待して彼は、話したんで しょう。
 夜の病院をささえている若手や中堅と交流したい。よその勤務医たちが、たいへんな中で、がんばって地域をささえていることを実感できる機会が少ないです よね。僕たちのよびかけ文の「私たちは誰も犠牲にしたくないし、犠牲になりたくない」という部分がすごくいいと思うんです。「この一文に共感できる医師は みんないっしょに」と、外の医師たちにも呼びかけられるぞと。

遠藤 「先生がたの病院はどうですか?」と、自分たちの地域で懇談を始めることが大事ですね。九州沖縄地協では、「地域医療を守ろう」という集まりが計画されています。
(「ほお~」の声)

増田 政府は「病院を減らす、いまある九〇〇〇病院を三〇〇〇に、さらにその中で救急医療をするの は一〇〇〇病院だけ」などと言う。郵政民営化みたいに病院を減らし、「救急はセンター一本化」なんて…「病院が多すぎる」というけれど、日本では病院医療 にウエイトがおかれてきた特色があり、他の国とはバランスが違うわけで、それだけを問題視しては困る。こんなにアクセスの良い医療を達成している国はそう ないんです。地域に医師がいなくなると、住民の命にかかわります。社保協の運動に盛りこめないかなあ。

柳沢 県議会に医師の増員を求める決議をあげさせるなどの運動ができないでしょうか。県単位で医師 確保しようという動きは強まるでしょう。でも、すべての都道府県が確保を始めると、医師は絶対的に足りない。真面目にやっている開業医さんにも、地域医療 の崩壊は、たいへんな打撃ですよね。

平田 開業医の方がたにも「先生たちが送ってくる患者さんたちを、勤務医はもっと安心して受け入れたいんだ」と訴えよう。

増田 ドクターウエーブは「命をどう考えるのか」を問う運動ですね。


 

平田 理 医師(山梨・甲府共立病院)

増田 剛 医師(埼玉・さいたま協同病院)

柳沢深志 医師(石川・城北病院)

司会:遠藤 隆(全日本民医連事務局次長)

◆医師が足りない◆

 「02年から3年で、お産のできる医療機関が2000カ所も激減」「小児科医が足りない」産科や小児科や 過疎地の問題が激化し表面化しているが、救急を担う病院や、中核病院も深刻で、地域の医療崩壊が急速にすすんでいる。これは日本の医師数が絶対的に足りな いことによるもの。
 勤務医の労働は過酷。大阪府医師会の調査では、過労死認定基準の「超過勤務週20時間以上」にあてはまる医師は3割にものぼっていた。1人辞めると、そ の分残った医師たちの負担が増え、激務に耐え切れず第2、第3の辞職者の発生、という悪循環が起こる。

 

◆実態みていない…ガッカリな厚労省「報告書」◆

 日本の医師数はG7中最低。人口千人あたり医師数ではフランスのたった6割(グラフ)。OECD加盟国の 平均医師数で比較すれば、日本に足りない医師数は12万人。しかし厚労省が出した「医師の受給に関する検討会報告書」(7月)は医師増員は「9000人で 足りる」とケタ違いの目算を述べた。国際比較の観点も、医療現場の実態も反映されていないものだ。先日発表された医学部定員増110人の方針にも「焼け石 に水」との声があがっている。

 

「医師増やそう」のよびかけ文は、
 民医連新聞7月17日号2面やHPで読めます

https://www.min-iren.gr.jp/search/01syokai/koe/2006/060811.html

◆こんなアクション 始まっています◆

 「勤務医の実態把握」や「勤務医との懇談」「メディアへの発信」などの行動提起にこたえ、さっそくこんなアクションが始まっています…。

 「地域医療を守る九州・沖縄のつどい」

…10月29日、同地協が主催し、講演とシンポジウムを企画。講師に済生会栗橋病院の本田宏医師。全病院に、この案内と、地域医療と医師労働の実態アンケート、署名を同封して発送。またこのアンケート結果は、全病院に知らせる予定。

  「医師看護師増やせ10.27中央集会」 …東京・日比谷野外音楽堂で全国集会を行う。この場には、新人・ママナースとともに、医師1000人のメッセージも集めて集合しよう、各県から医師の代表を送ろう、とよびかけている。

(民医連新聞 第1388号 2006年9月18日)

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