民医連新聞

2006年9月18日

訪問でわかった高齢者の孤独 ―東京・西部保健生協

 「体調に心配のあるひとり暮らしの高齢者は、孤独死する恐れがある」。東京西部保健生協の訪問調査で明らかになりました。四~七月に九つの 事業所、のべ四〇人の職員が八六人から聞きとりした結果です。訪問して初めて知った実情に、職員たちは診療所の役割をつよめ、制度を改善したいと、思いを 強くしています。第一回評議員会で決定した全日本民医連の高齢者生活実態調査も、まもなく始まります。(川村淳二記者)

■孤独死の恐れが

 上井草診療所が訪問した三人のケースです。
 Aさん(女性)は、変形性股関節症で足が悪く、うつ病もあります。人との関わりがうっとおしく、電話もインターホンも鳴らないようにして、ヘルパーも 断っています。でも、診療所のスタッフは信頼しており、「孤独死の心配」を打ち明けました。その訪問の二カ月後、自宅で倒れているのを民生委員に発見さ れ、民医連の病院に入院しました。
 都営住宅に住むBさん(女性)は、片麻痺があり自分で玄関ドアが開けられません。隣の部屋で火事があった時、消防署の人がドアをたたいて確認にきました が、玄関にすぐ行けず不在と思われてしまいました。消火後にやっと気づいてもらいました。緊急時が不安です。
 Cさん(男性)は、関節リウマチで、ヘルパーの援助がないと一人ではほとんど動けません。日中はテレビの前に座りっ放しです。食事も準備してもらってい ます。認知症の奥さんが急死し、何もしてやれなかった、と強く後悔しています。「早く死にたい」ともいいます。
 同診療所は気になる患者さんを中心に二九件を訪問しました。うち七件(二四%)に、孤独死の恐れがありました。「収入が少ない人ほど不安が大きいようで す。四~五月は、医療・介護の改悪で自己負担が増えた不安、六月は税金の通知が届き、介護保険料や住民税が三、四倍、ひどい方は一〇倍になって不安をいっ そう強くしました」と松本浩明事務長は話します。

■結びつき強めたい

 東京西部保健生協では、三年前、組合員さんが死後三週間たって、自宅で発見されたことをきっかけに活動を見直し、毎年五〇〇人以上組合員を増やし、班を広げ、地域の結びつきを強めてきました。
 昨年の秋からはボランティア委員会をつくり、今年の五月末から、介護保険から外れた人向けの「くらしの助け合い」活動を開始しました。食事づくりや掃除、草むしり、外出の付き添いなどの援助です。
 今回の高齢者訪問は、医療・介護の改悪の影響を調べるため、一職場一事例運動と教育月間を結びつけ、「まちに出よう、そして学ぼう」を合い言葉に行いま した。結果をもとに、(1)困っている高齢者を救う、(2)自治体交渉し制度改善する、(3)「くらしの助け合い」活動のニーズをつかむことも目的でし た。

■風呂がない家も

 職員たちは、調査から多くのことを学びました。「お風呂のない家に住む高齢者が多いのは意外でした。銭湯はほとんど廃業しているので入浴が問題になります。生活保護基準以下の年金収入しかない人もたくさんいます」と藤木ゆき子看護師長はいいます。

 若い事務職員は、「人との関わりを閉ざしている人も、ちょっとした瞬間に心を開く時がある」と感じました。デイ ケアの若手職員は、「杉並区は全体に生活レベルが高い地域と思っていたが、格差があることに気づいた。近所づきあいがない人もいて、サロン活動など医療生 協の役割が大きい」と認識を新たにしました。

 これらは班会でも報告しました。組合員さんにもいっしょに考えてもらいたいからです。「実態調査をしただけでは 現実は変わらない。結果を制度改善などにつなげることが大切」と加藤保子看護師もいいます。ひとり暮らしの人の安否を確認する制度を、区にも働きかけてい こうと考えています。

(民医連新聞 第1388号 2006年9月18日)

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