民医連新聞

2009年8月17日

フォーカス 私たちの実践 「動き」に着目する褥瘡(じょくそう)回診 北海道・苫小牧病院 原因の動作を調べ 自然な動きの援助で治す

 北海道勤医協・苫小牧病院では、褥瘡回診の中で患者の「動き」に着目し、自然な動きを援助して治癒につなげています。看護師の幌(ほろ)沙小里(さおり)さんが、特徴的な症例を発表しました(第九回看護介護活動研究交流集会)。

 褥瘡は「動きの欠乏症」で廃用症候群の一症候だという考えがあります。当院の褥瘡対策委員会(医師・看護師・薬剤師・栄養士・セラピストなど)は月二回 の回診で、患者の「動き」もアセスメントしています。このほど私たちは、日常の起きあがりの動き方が原因で褥瘡ができたと考えられる症例を経験しました。 この患者は、自然な動きを習得することで治癒し、再発もありません。

起きあがる動作に原因が

 患者は七〇代の女性Aさん。小脳出血・くも膜下出血の後遺症があり、変形性膝関節症のため右膝 痛と関節可動域の制限があり、リハビリを目的に入院中でした。入院当初は起居動作全介助でした。褥瘡チームに相談があったのは、リハビリによって起居や立 ち上がり、移動が自力でできるようになり、見守りと歩行器の練習が始った時点でした。
 回診での評価は左大転子部のNPUAP分類II度の浅い褥瘡でした。病棟スタッフの意見は、左側臥位で過ごすことが多いので、その部分が圧迫されたとい うもの。ところが、瘡の処置後に調べると、圧迫されている部位と瘡部が一致しません。そこでAさんに、仰臥位から立ち上がりまでの一連の動作を普段通りに やってもらいました。痛む右膝をかばい反動をつけて、「飛ぶ・引きずる」ような動作で起き上がり、褥瘡部がその支点になっていました。褥瘡は圧迫でなく起 き上がり時に生じたズレ(応力)によるものでした。

自然な動作を考える

 この動作を改善するため、右膝が痛まない範囲で、重さのかかる部分が転がる(移動する)ような起き上がり方を考えました。
 スタッフがAさんの起きあがり方を実際にやってみました。(1)ベッド柵につかまり、(2)痛む右膝をかばいながら、(3)柵にぶら下がるように反動を つけて、(4)一気に起きあがる、この動作は瞬発力と筋力にたよって動くので、途中で止まることが難しく、腕や腹筋が苦しく無理もかかっていました。
 指導した動作は、(1)まず、しっかりと側臥位になり(それで褥瘡部が支点にならない)、(2)下肢をベッドから降ろす(このとき右膝が痛ければ左だけ 降ろす)、(3)上半身の体重を左肘に移し、上半身の重さを骨盤に乗せながら、ゆっくり起きあがる方法です。
 この方法の指導には、担当PTの力も借り、毎日のリハビリでも訓練してもらいました。一週後、今までの起きあがり方はみられませんでした。指導されたやり方が自然だったのでしょう。

患者の全体像をみて

 また、体圧分散寝具の選択にあたっては、軟らかく体が沈みこむようなマットレスは使用せず、しっかりと必要な力が入る薄いウレタンマットレスにしました。二週後の回診時には、褥瘡部は完治していました。またADLの低下もなくリハビリも順調にすすみました。
 褥瘡の原因はさまざまです。原因を除き、局所のケアと除圧、全身状態の改善が欠かせません。さらに、圧迫やズレには「動き」が関与しているため、患者の 可動性や活動性をアセスメントし、欠乏している動きを補う援助や、不適切な動きを改善するための援助を行うことが大事です。
 褥瘡の治療・ケアでは、局所だけを見るのでなく、患者の全体像をとらえ、不具合なところを減らすという視点で当たることが大切だとあらためて感じました。

(民医連新聞 第1458号 2009年8月17日)

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