民医連新聞

2009年9月7日

命を守る 無料低額診療は「生きるための制度」

 「無料低額診療制度活用に挑戦を」と呼びかけた第三八回総会以降、新たに四〇事業所が開始し、現在、全国で一一九の民医連の事業 所がこの事業にとりくんでいます。開始に向けて届け出ている事業所も二六あり、各地で「命を守る」活動を強めています。岐阜県では、岐阜勤労者医療協会の みどり病院と三診療所が六月からスタート(県内で二カ所目)。一九人が利用しています。(丸山聡子記者)

岐阜

みどり病院は正義の味方ね

生活するのがやっと

 「無料と聞いても、半信半疑でした。あとでお金とられるんじゃないかと思って…。でも、胸が苦しくなって、死ぬんかなと不安になって。みどり病院に電話しました」。六月末、岐阜市内でひとり暮らしの和田晃さん(四七)は同院を受診し、無料低額診療制度が適用されました。
 和田さんは三カ月前、急性心筋梗塞で救急搬送されましたが、その後、定期受診を中断していました。実は、昨年末に働いていた自動車部品の工場を解雇さ れ、住んでいた寮を追い出されていたのです。雇用保険給付は出たものの、賃金の半分以下。家を探し、生活するのがやっとでした。
 仕事が決まらないまま、雇用保険の期限切れは迫ってきます。次第に病院から足が遠のきました。失業したことは伝えていませんでした。

中断チェックのなかで

 和田さんが受診してないことに気づいたのは、中断チェックをしていた事務の中村順子さんです。 「支払いの件で電話で話したあと、連絡が取れなくなったので、お金の不安を抱えているのではと考えました」。連絡を受けた外来看護課長の近藤かすみさん と、SWの清藤彩野さんが訪問。留守が続いたため、実家へ。和田さんが失業中であることを聞きました。「受診してほしい一心で、無料低額のリーフレットや 『命を守る』ステッカーをポストに入れ、手紙も添えました」。体調が悪化した和田さんが頼みの綱としたのが、このリーフとステッカーでした。
 電話をすると、「支払いの心配はいらないので、すぐ来てください」と言われ、その日の夜間の循環器外来を受診。近藤さんらスタッフが和田さんの顔を見 て、「よくきてくださった」とばかりに、喜んでくれました。「受診して『大丈夫ですよ』と言われたときは、ホッとしました。貧乏人にとっては『生きるため の制度』。おかげで助かった」と和田さん。
 SWの林信悟さんは、「和田さんのような人がたくさんいます。お金の心配から、病気を悪化させないよう、多くの人にこの制度を利用してほしい」と話します。

*無料・低額診療……社会福祉法第二条による事業。減免方法を明示し、SWを配置し、無料の健康・生活相談を実施するなど要件を満たし定款に定め届け出る。条件によっては固定資産税などの優遇措置がある。

反貧困ネットからの紹介も

医療費心配しないで

 みどり病院が同事業を始めたきっかけは、三年ほど前に民医連新聞に載った石川勤医協のとりくみ と総会方針でした。専務理事の土井正則さんは、「岐阜でもできないかと、議論を始めた」と言います。岐阜市の国保料の滞納率は二〇%。すぐに短期保険証に されます。さらに今年六月、国保料は一二%も値上げされました。「短期保険証の人の受診は少ない。経済的に受診しにくいと考えられます。これを機に地域に 出て、必要な人にきちんと医療を受けてもらいたい」と土井さん。
 同事業を利用した一九人のうち、二人が受診の再開で、七人が新患でした。地域の反貧困ネットワークや社会福祉協議会からの紹介もあります。無保険が二人、失業五人、生活苦五人でした。DV被害者の母娘もいました。
 同院の減免は、収入が生活保護基準の一四〇%の人で一割免除、一二〇%で全額免除としています。SWの林さんは、「仕事を探すために車を持っていたり、 自営業で収入が減ったが持ち家を手放せないなど、生活保護に結びつきにくい人もいます。そういう人を支援する選択肢が増え、多くの相談に積極的に応えられ るようになりました」と話します。
 民生委員の集まりなどでも同事業を知らせています。住田崇事務長は、地域の研修会で、他院の人から「みどり病院は正義の味方ですね」と声をかけられました。また子どもの貧困問題にも役立てたいと考えています。

反貧困ネットと協力して

 昨秋以降、派遣切りなどで失業する労働者が急増しました。外国人労働者もいます。ぎふ反貧困 ネットワークは二月から「ぎふ派遣労働者サポートセンター結(ゆい)」を開設。常設で相談にのっています。継続的な支援が可能になり、何度も顔をあわせる うちに「実は体調が悪い」という言葉が出てくることも。
 岐阜県労連の平野竜也事務局長は、「相談にくる人たちは、仕事がない、家がない、頼れる家族がない、病院にかかれないなど、多くの悩みを抱えています。無料で受診できる病院は助かります」と言います。
 民医連との協力について、「困っている人にとって、病院は敷居が高いことが多い。相談会などに病院のスタッフが出向いてくれるのは、とてもいい」と期待も語りました。

各地の民医連で

事業開始40カ所 準備中26カ所

 民医連では、新規に四〇事業所が開始、二六が準備中です。
 三月から同事業を始めた兵庫・尼崎医療生協では、八月中旬までに四四件、七五人が利用しています。三月末にパナソニック尼崎工場が八〇〇人の派遣社員を 解雇するなど、雇い止めや倒産があいつぎ、受診が困難な人が目立っています。
 二〇数年ぶりに事業を再開したのは宮城の坂総合病院です。八月中旬までに一〇四人が利用しました。SWの本庄美也子さんは、「何をさしおいても、いま 困っている、という人に役立っています。なかでも、高齢で独居や夫婦世帯で年金のみの収入の場合、ほとんど該当します。いまの年金が暮らせないほど低いも のであり、さらに後期高齢者医療保険料や介護保険料が天引きされる。憤りを感じます」といいます。
 山形・庄内医療生協の鶴岡協立病院は、同事業を知らせる記者会見を開き、「医療費の心配をせず、具合が悪い人は受診を」と呼びかけました。尼崎医療生協 と同様、生協法人としてのとりくみは注目され、地元テレビ局でも放映されています。
 新規届け出を抑制している東京都でも新たな動きが生まれています。大田病院がある大田区では、区が生活保護率などの実態を把握し、大田病院の診療実績を 評価した意見書を都に提出しました。同院は七月から事業を開始しています。
 全日本民医連の長瀬文雄事務局長は、「この事業とあわせ、国保法四四条にもとづく窓口一部負担の減免制度や、後期高齢者医療制度の減免制度の活用をすす めよう。自治体に、子どもや高齢者などの医療費を無料化する独自制度を求めていこう」と話しています。

(民医連新聞 第1459号 2009年9月7日)

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