民医連新聞

2006年10月2日

“改定”介護保険 現場に何が 最終回 利用者の実態つきつけ自治体動かそう ―各地の運動から

 介護保険料、施設利用者の自己負担増、一〇月から電動ベッドなどの福祉用具レンタルが軽度者(要支援1、2、要介護1)に適用されなくなる など、改悪された介護保険が多くの問題をひきおこしています。八月末に行われた介護事業責任者会議での報告を中心に、連載最終回は、各地の改善運動を紹介 します。

福祉用具「貸しはがし」問題

 一〇月から電動ベッドなどの福祉用具の軽度者へのレンタルの経過措置が切れ、これまで使っていた用具を、自費で購入するか、返却するか、たいへんな困難が強いられます。民医連外の事業者とも手を携えた、自治体への要請が活発です。

市に利用者のビデオ持ち込み…
 市長から「前向き」回答

●滋賀 民医連などでつくる「介護保 険をよくする大津市民の会」は、九月八日、大津市の目片信市長と懇談し、介護用具レンタルの機械的な貸しはがしから利用者を救ってほしい、と訴えました。 市長からは「前向きに調査・検討したい」という返答をひきだしました。同会では市との懇談を何度か行ってきましたが、市長と会えたのも、「前向き」な回答 を聞いたのも初めてです。
 民医連外の在宅事業所や施設、ケアマネたちと、改悪の影響を交流、懇談の場に利用者の様子を撮ったビデオを持ち込むなど、声を集め、知恵をつかった結果です。
 八月三一日に開いた介護問題の学習会には、民医連外の施設や事業所からも八人が参加。翌日に行った市との懇談にも、一事業所が参加しました。
 懇談には電動ベッドがないとどんなにたいへんか、利用者が電動ベッドをたよりに、起きあがる様子をビデオに撮って持ちこみました。市側はこれまで、事業 所から集めた声や、困難事例を紹介しても「厚労省の決めたこと」の一点張りでしたが、今回は映像をみて反応しました。
 「こんな重い人で介護度1か?」と驚くので、制度改定以降、認定が軽く出る傾向にあること、「認定は軽度でも電動ベッドが必要な人はいる」と話しまし た。介護事業者も「戻ってくるベッドの保管経費で、事業がなりたたない。職員のリストラも考えざるをえない」と、窮状を訴えました。この懇談で、一週間後 に予定していた助役との面会に急きょ、市長が出ることに変わりました。
 市長にもビデオをみせました。電動ベッドを取り上げられると、補助なしで起きあがれないため寝たきりになる方が増え、逆に保険財政を圧迫しかねない、せ めて生活保護・低所得者への助成を、と要請しました。
 市長は、貸しはがし対象者が市内に九〇〇人前後いると明かし「全員への補助や、一〇月実施にもう間に合わないが…一二月議会にむけ、低所得や生活保護の 人のケースを、前向きに調査・検討する」と約束しました。
 会では、視覚で訴える効果に驚きつつ、さらに市議会各会派への要請も考えています。

電動ベッド、 医療上の必要も都に訴えて

●東京 八月一八日、東京民医連は、東京都に、独自助成の実施や、用具取りあげの実態調査など、五項目を要望しました。利用者を含め、ケアマネジャーなど、二四人が出席。東京都側は、都介護保険課長と課長補佐が対応しました。
 「膝関節症でベッドなしで生活できない生活保護の利用者に、市は『国が決めたことだから、貯金してベッドを買うように』と言い渡した」、「要支援1で も、ぜんそく発作と逆流性胃炎の症状緩和にベッドが欠かせない人がいる。介護度と別に医療上、背上げ機能が必要な場合もある」などと訴えました。都の反応 は悪かったものの、電動ベッドの医療上の必要性には注目。その後、「国に善処を求めるため、特殊寝台などの必要事例を収集」と報道されています。
 また、区や市で福祉用具利用への独自助成を設けたところ(港、新宿、中央、北、豊島、台東、江戸川の七区と調布市)も。ところによっては、年齢や収入な どの制約つきで、利用しづらいものもありますが、今後の運動で改善してゆきたいと考えています。
 (東京・及川正彦通信員)

利用者の負担軽減にとりくむ

多くの利用者が負担増の試算に対応もたたかいの一環として

●石川 特養やすらぎホームでは、入居者が税制改定とホテルコスト導入でどのような影響を受けるか、実態調査を行いました。
   昨年の一〇月改定で、九、一〇月と入院などせず、全暦入居だった八九人のうち、八二人が一〇月の支払額が九月に比べて増えています(グラフ)。
 また、「税制改正」も大きく影響しています。去年は非課税世帯だった人に課税がされ、利用者負担段階で一気に「第4段階」(負担の軽減がない)になる ケースまで。制度上、年金額が一五三万円以上の方は第4段階です。昨年一〇月時点では、二六六万円以下の年収で第3段階だったことを考えると、「税制改 正」がいかに激変をもたらしているかがわかります。
 やすらぎホームでも三人の入居者が負担区分が第3→第4と重くなりました。課税に伴ってアップした保険料や利用料をあわせると、新たな負担増は年三〇万 円を超えてしまいました(表)。この二人の場合、多床室におられるので、住居費は変わっていません。個室だった場合、さらに一二万円負担が上乗せされま す。

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 大事なのは、このような実態を告発することと同時に、利用者さんたちの困難を緩和することです。組織をあげて一つ一つのケースに対応してゆくことが、たたかいにつながると考えています。
 今回紹介した方たちにも、現行制度にある負担軽減の制度をご家族に紹介し、手続きをすすめ負担増を回避できる見込みです。
 また、共同組織の会員さん全員に、負担軽減の制度についての資料を送りました。これには「資料をくれても、普通の人には申請が難しい」と意見が寄せられ ました。県の高齢者大会で社会保険労務士を呼んで、書類の書き方から申請の方法まで、具体的なノウハウを学ぼう、という企画で、応えようとしています。
 (国光哲夫、やすらぎ福祉会)

介護保険料引き上げに対して

介護保険料の不服審査請求
 高齢者主体の「一揆の会」

●大阪 大阪では、社保協を軸に、自 治体キャラバンで毎年、全行政区に改善を要請するなど介護保険改善の運動は活発です。大阪社保協として『改悪介護保険から利用者・高齢者を守るハンドブッ ク』も発行。特徴的なのは、「介護保険料に怒る一揆の会」が結成され、高齢者主体の運動が存在していることです。
 介護保険料の不服審査請求をたった一人ではじめた福井さん(故人)に続き、〇一年から毎年一〇〇〇人前後が不服審査請求を行うようになりました。高齢者 への非課税限度額の廃止で、連動して保険料がはね上がった人の多い今年は、不服審査請求の書きこみ会や説明会を各地域の社保協などでとりくみ、大幅に増え ています。八月二五日、九月一四日には大阪府庁に「介護保険料不服審査請求一斉提出行動」を実施。現時点で過去最高の一三〇〇を超す不服申請が出されてい ます。この運動の中、自治体独自の減免制度も四一自治体中三二にひろがっています。民医連は、社保協に参加し、不服審査請求や減免運動に奮闘しています。

「一揆の会」 HP http://www.eonet.ne.jp/~ombudsman/ikkinokaitop.htm

(民医連新聞 第1389号 2006年10月2日)

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