民医連新聞

2006年10月16日

教育 講演 在宅、職員の健康 アスベスト問題 現場で役立つ学習できた

 分科会の中で、4つの教育講演がありました。「在宅ターミナル医療」や「アスベスト」、「看護・介護労働者の腰痛けい腕障害の実態と対策」、「メンタルヘルス」とどれも現場で役立つものでした。

在宅ターミナルをささえる
 川人 明 柳原ホームケア診療所・医師

 在宅ターミナルケアは「その人らしく残りの人生を生きる」ために、様ざまな援助を行うことです。住み慣れた場所で、家族や友人と過ごせる、自宅にかなうホスピスはありません。良いターミナルケアは自然に、在宅での看取りにつながります。
 現在、病院で終末を迎えることが多くなりました。在宅で死を看取ることは、四〇年ほど前は普通でしたが、今では一割以下です。在宅死率が高い長野・和歌 山・奈良県などと、低い福岡・高知・北海道などを比較した結果、在宅死と負の関連があったのは「病床数」でした。臨時往診の減少や延命技術の普及も病院で の終末が増えた要因です。でも患者の思いと合っているわけではなく、在宅死を望まない理由の多くが家族への遠慮です(厚労省の調査)。
 日本では世界で一番、胃ろうのキットが売れています。胃ろうやIVHなどは、回復までの一時的な手段でなく、老衰者を「生かす」手段になっています。四 〇年前は、全介助の高齢者が食べられなくなると、自然死として受容しました。世界のほとんどの国では、今もそうです。弱った人に努力して食べさせる行為は 人間だけがします。でも、嚥下反応がなくなれば、寿命が尽きたと考えるのです。
 老齢で食べられなくなったとき、胃ろう、IVHをつけるかどうか、家族は悩みます。私は、どれもせず見守ることも選択肢の一つと考えています。五〇〇 ml程度の輸液を三日間行い、反応をみて回復の可能性を判断することも一つの方法です。終末期が近づいたとき、家族の意向を聴き、不安や葛藤を癒す大きな 役割を果たすのは、訪問看護師です。
 千住柳原地域では一〇年前から、三つの訪問看護ステーションが連携し、二四時間対応をし、看護師とヘルパーのチームが夜間巡回訪問をしています。〇二年 からは、健愛会・健和会に属する三区五診療所の医師が輪番で当直しています。患者の電話は、まず担当の事業所が受け、夜間巡回チームの訪問を経て、当直医 に出動依頼がきます。訪問診療と訪問看護、地域の連携でターミナルケアをささえています。

アスベスト問題・生活と労働の視点から
 長谷川吉則 全日本民医連理事

 石綿(アスベスト)は、耐熱性や保温性、耐久性に優れ、艦船や機関車、水道管をはじめ、住宅の天井や屋根、壁材などの建材に利用されました。しかし一九七一年、健康被害を発生させる危険有害物質に指定され、七五年には吹きつけが禁止されました。
 アスベストによる肺がんと中皮腫の業種別労災認定では、建設業・製造業で九割を超えます(厚生労働省)。
 石綿肺(じん肺)は、肺が繊維化する病気であり、一〇年以上吸入した労働者に多く現れます。肺がんは、喫煙と深い関係にあることが知られています。非喫 煙者でアスベスト曝露(ばくろ)がない人を「一」とすると、曝露歴がある非喫煙者のリスクは約一〇倍、曝露歴があってなおかつ喫煙者は約五〇倍ともいわれ ています。中皮腫の八割以上はアスベストが原因であり、若い時に多く吸い込んだ人ほど悪性になりやすいといわれます。
 昨年は、クボタや大阪の泉南地域などでアスベスト被害が大きな問題になりました。でも、メディア報道が少なくなると、「もう過去の病気だ」という雰囲気 になりつつあります。しかし、アスベストによる中皮腫や肺がんなどは、潜伏期間が一五~五〇年と長いのが特徴であり、まだこれから患者が増えていきます。 また、一九七〇年以前に建設された建物が老朽化し、解体工事や地震倒壊で建材からアスベストが飛散し、被害が拡大する恐れもあります。今後四〇年間で中皮 腫患者は一〇万人以上になると推測されています。
 アスベスト問題は、安全対策を怠った企業と行政の責任です。被害者であるはずの自営業者や短期雇用者とその家族は、曝露歴が証明できず、労災やアスベスト新法でも補償されません。
 私たちにできることは、アスベストの影響が考えられそうな患者さんの生活や仕事、人生を丸ごと聞き取ることです。曝露歴のある患者さんに労災認定をすす めて、健康を守ることです。そして肺がんと相乗作用のある喫煙を控えてもらいましょう。風邪を防ぐことやインフルエンザの予防接種をすすめましょう。そし て年に一回は、喀痰細胞診とレントゲンより精度が高い胸部CTをすすめ、早期発見することが大切です。

全日本民医連介護事業所の看護・介護労働者の実態調査
 北原照代 滋賀県医科大学・医師

 昨年の七~一〇月、「介護労働の健康影響調査研究班」では、介護・看護労働者の労働と腰痛・頸肩腕障害に関する 実態調査を行いました。民医連に加盟する全国五九二事業所、四七五四人から有効回答がありました。介護・看護労働者の調査を、この規模で行ったのは日本で はじめてです。
 回答をくれた事業所は、在宅事業所が九割以上で、その七割以上が一〇人未満の小規模事業所でした。安全衛生体制の整備は、老健施設や老人ホームで約六 割、それ以外が約三割で比較的すすんでいました。しかし、具体的な活動では、職場巡視や腰痛検診、予防体操の実施率が二割以下の状況でした。
 回答した介護・看護労働者は、約九割が女性で、約七割が介護職でした。平均年齢は女性四四歳、男性三五歳です。女性のうち施設介護従事者の約四割が二〇 代で、訪問介護従事者は約六割が四〇~五〇代でした。
 腰痛は、現職に就労して以降、約八割が経験しており、調査時点の有症率も約五割でした。特に施設介護従事者は平均より一割ほど有症率が高くなっていま す。また、訪問介護従事者では、訪問件数が増えるほど、有症率が高くなっていました。
 頸肩腕障害は、女性で二割、男性で一割が自覚症状を訴えており、この障害が多発している手話通訳者集団と、ほぼ同じか上回る状況です。
 病気による四日以上の休業は、腰痛が最も多く、次いでケガ、妊娠異常です。頸肩腕障害による休業はほとんどなく、病気として自覚されていない可能性があ ります。また、介護職の妊娠出産経験者のうち約四割が、切迫流産・流産を経験しています。
 施設でのリフト設置や、腰部保護ベルトなどの介助補助具による予防対策は、三割以下しか取られていません。しかし、例えば腰部保護ベルト着用で腰への負 荷は半分以下に軽減することができます。道具も有効に使って、安全・安心の介護・看護を心がけて下さい。

今日からはじめようストレスマネージメント
 戸田治代 船橋二和病院・医師

 看護師・介護士さんは、人のためにがんばり、たくましく向上心があり、誠実で人間好きです。でも逆に言えば、 「仕事が生きがい」になりやすく、自分のために時間を使うこと、断ることが苦手で、中途半端ががまんできません。実際の現場は、限られた人員と時間で、う まくいかないことがほとんどです。ですから、几帳面でコツコツやる人、熱中しやすい人などは、苦手な状況に陥り、燃え尽きやすいのです。心の病気も、 ちょっとした疲れや不調のうちは、よく寝てリフレッシュすれば治ります。しかし、過剰なストレス反応では、自律神経失調などの危険信号がまず現れ、それで も無理を重ねると、疲労がとれなくなり、完全なうつ状態になります。そうすると回復には三カ月から一年以上かかります。
 ストレスはうまく克服できると、満足感・達成感が得られ自信が増します。しかし、回避してばかりいると、何も達成できず自己評価が下がり、ますます回避 する悪循環に陥ります。ストレスの受け方や反応は、一人ひとり違うため、自分がどんなストレスに弱いか、受けたときにどんなサインが出るか知ることが大切 です。そして、サインが出たら、がんばらないためにどうするか考えて下さい。
 まじめな性格は変えられませんが、ものごとのとらえ方や行動パターンは変えられます。自分の考え方のクセをつかみ、生き甲斐や価値観などを見直すことで ストレス反応も変えられます。お互いに元気を分け合う支援体制も必要です。働きやすい職場づくりのため、話しやすい雰囲気にすることは、みんなで努力すれ ばできます。
 ストレスマネジメントの基本は、毎日の生活の見直しからです。規則正しい食事、十分な睡眠、積極的なリラクゼーション、また、死生観、人生観を磨くこと も大切です。その場しのぎの酒やタバコは害となります。
 大切なのは無理にがんばらないことです。いい医療・介護をするためには、商売道具である体と心のお手入れが必要です。二四時間の使い方を考え、どこを削るか考えて下さい。

(民医連新聞 第1390号 2006年10月16日)

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