民医連新聞

2006年10月16日

相談室日誌 連載227 「裕福な高齢者」というけれど 原 範和(のりかず)

Aさん(七〇代・男性)は、慢性の呼吸器疾患と糖尿病があり、インスリンの自己注射と在宅での酸素療法、その他の呼吸器管理の器材使用が欠かせない患者さまです。
 毎月の定期通院が不可欠ですが、国民健康保険、老人医療証、そして、名古屋市が一定以上の身体障害のある方に交付する、福祉給付金資格者証を持っているため、これまで病院の窓口会計は無料でした。
 妻との二人暮らしで、わずかな老齢基礎年金と、細ぼそと営んでいる小売店の売上げで生計をたてていました。
 昨年、先ざきのことを不安に思い、わずかな不動産を処分しました。所得を申告し、税金も納めてほっとしたのもつかのま、通常なら今年八月末で更新される はずの福祉給付金資格者証が、所得制限のため更新できない旨の通知がきました。
 これに加え、老人医療証が「現役なみ所得者」と区分され、今年九月までは二割負担、一〇月以降は三割負担になる通知もきました。
 これらは、この間の医療制度改悪によるものです。病院外来の医療費は、各種の在宅指導管理料が発生するため、大変高額となってしまいます。
 Aさんの処分した不動産はわずかな土地で、税金や高額となった国民健康保険料、介護保険料などを支払うと、手元には少額しか残りませんでした。相談室で 面接した結果、今年中には不動産処分での蓄えも底をつき、医療費や生活費に困窮することが予想されます。生活保護の受給要件を満たす時期がそう遠くないこ とが明らかになりました。
 Aさんご自身も、「これほど保険料、医療費の請求が高額となるとは予想外で、何のために不動産を処分したかわからない」と、嘆いていました。
 所得が基準を超えたのは昨年だけなので、来年には医療費負担は無料に戻るかもしれませんが、急激な医療費の負担増に、治療が中断しないか心配がつのります。
 Aさんは、生活保護の相談のため区役所に行き、貯金残額がある程度少なくなった段階での生活保護申請を、区役所からアドバイスされました。倹約の毎日が続いています。
 「裕福な高齢者もいる」と政府やマスコミはいいます。しかし、相談室にはこうした相談が毎日寄せられています。

(民医連新聞 第1390号 2006年10月16日)

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