民医連新聞

2006年11月6日

相談室日誌 連載228 歩いて受診したホームレスは支援できない? 花木 和美

「救急車ですか、それとも歩いて来ましたか」。Aさんの受診を市の担当課へ連絡すると、こんな返事が返ってきました。これまでもホームレスの患者さんが受診するたび連絡してきましたが、こんな対応は初めてです。
 Aさんは、五〇代の時、北九州市でリストラされました。なかなか仕事が見つからず、何度か生保申請も試みました。しかし、北九州市は「働けるのだから」 などと申請を受付ません。そのうちアパート代にも困り、ホームレス生活をするようになりました。
 大分市には、ホームレス仲間に誘われてやって来て、公園で寝泊りしていました。下痢や下血などの症状に困っている時、食事の差し入れなどをしていた人か ら、当院への受診をすすめられました。お金がほとんどないAさんは、病院まで歩いて来たのです。
 Aさんのような場合、大分市では「行旅病人及び行旅死亡者取扱法」(行旅法)に基づき、負担能力がなければ市が医療費を負担し、重症で入院が必要な場合 は、生活保護受給となるのが通例でした。しかし今回は、「行旅法には『歩行に堪えざる』とあるので、歩いて来たのは行旅病人ではない」「ホームレスは旅行 者ではない」と、やっと歩いて来たAさんの状況をいくら説明しても、行旅法適用は「認めない」の一点張りです。「本人の状況も確認せず、なぜ適用外と判断 できるのか」と繰り返すと、しぶしぶ来院したものの、Aさんに会う前に、持参した法令のコピーをかざして私に説明を始めました。
 最終的にAさんは、入院が必要なため、行旅病人扱いではなく生保申請となりました。しかし、Aさんが受診前に保護申請に行ったとしても、ホームレスを理 由に生保申請を受付なかったでしょう。国は「ホームレスに関する基本方針」等で、ホームレスでも生保申請やその他の援助をするよう定めています。しかし、 現場では既存の「行旅法」での援助さえ認めない対応がされているのです。今も通院中のAさんも、あの時受診していなければ、今ごろはどうなっていたので しょう。
 社会保障制度が次つぎに「改悪」され、腹立たしいことばかりですが、私たちが依るべき軸、憲法二五条の生存権理念を活かせるように、活動していかなければと思いました。

(民医連新聞 第1391号 2006年11月6日)

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