民医連新聞

2006年11月20日

医療倫理の深め方(1) 4分割法を活用しよう~問題編~ 全日本民医連 医療倫理委員会〔編〕

 今回の連載は、現場でよく聞かれる「倫理的な問題って何だろう」、「倫理的な問題をどう考えたらよいのだろう」という声に、少しでも答えることを 目的としています。形式は、一回目に医療倫理委員会の委員から事例を提供し、二回目でそれ以外の委員が議論するという方法です。
 難問が多く、正解のない問題を解くような場合も多いのですが、倫理的な問題を考える一つの筋道を示したいと考えています。一つの事例について前半が問題編、後半が解決編です。

「告知を拒む人のがん終末期」をどうする?

 Aさん(六〇代・男性)は、職業は農業で独身。母と弟姉妹三人(三人とも独身、詳細不明)の五人で暮らしています。キーパーソンは、遠方に住む弟のBさんです。同居する弟姉妹は、「AのことはBに一任する。病院から連絡もしてほしくない」という意向でした。
 一年前から血痰があり、今年七月から右胸部痛、全身倦怠感がありました。しかし仕事が忙しく、病院に行けませんでした。九月下旬、胸部痛が改善しないた めに外来を受診。胸部レントゲンで腫瘍がすでに右肺の三分の二を占める状態で、左肺にも転移巣が多数存在していました。
 入院後の検査でAさんは、原発性肺癌のステージⅣ(進行がん)と診断されました。しかしAさんは、「あまり知りたくないですな。Bに言っといてくださ い」と、病状説明を受けることに積極的ではなく、すべてをBさんに一任しました。そこでBさんに病状説明を行ったところ、「告知すると落ち込んで、余計に 病状が悪化する」と主張し、告知せずに化学療法を行うことを希望しました。また「Aからの告知要求にも応じないように」とつけ加えました。
 その後、化学療法を一クール実施しましたが効果はなく、「進行(PD)」でした。入院も長期になってきたため、退院して外来で化学療法を受けることをす すめました。しかしAさんは、「病気を治してから帰りたい」と言い、このまま入院を希望しました。
 Bさんにこれまでの経過を説明し、今後について協議しました。「状態がいい時には、実家に外泊しよう」と提案しました。それでもAさんは「家にいても気 を使う。病院のほうが安心」と拒みました。全身状態は次第に悪化し、緩和治療が中心となる段階となりました。


 

病院スタッフの問題意識は次の三点です。
(1)本人に告知するかどうかを家族が決定できるのか。家族が反対したら、本人に告知できないのか。
(2)本人に告知せず、治療で期待できる効果、予想される副作用の説明をしない状況で、化学療法の実施や麻薬の使用は適切なのか。
(3)本人が、残された時間を悔いなく過ごすためには、医療スタッフとしてどのような援助をしたらよいのか。
  次回は、こうした問題について検討してみることにします。

(民医連新聞 第1392号 2006年11月20日)

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