民医連新聞

2006年12月18日

医療倫理の深め方(2) 4分割法を活用しよう~解答編~ 全日本民医連医療倫理委員会〔編〕

[本人(患者さん)の意向]
 本人には判断能力がある。病状説明に対して「あまり知りたくない。弟のBに言っておいて」。外来治療の提案に「治してから帰りたい」。外泊に対して「病院の方が安心なので行かない」。

[周囲の状況]
 独身。母と弟、姉妹の4人と同居。
 同居家族は、治療方針決定に関与しようとしない。キーパーソンは遠方にいる弟のBさん。Bさんの意向は「本人には告知せず、化学療法を行う」。

[医学的適応]
 原発性肺癌(ステージIV)。腫瘍は右肺の2/3を占め、左肺にも転移。化学療法は効果なく、今後、緩和治療が中心となると考えられる。

[QOL]
 肺癌が進行し、全身状態は徐じょに悪化している。

 前回(一二月四日付)の事例について四分割表を用いて検討してみます。
 倫理的な問題を考える場合の原則は四つあります。
(1) 自律尊重
 患者に真実を知らせ、患者の自己決定を尊重する。
(2) 仁恵
 患者が最大限の利益を享受できるようにする
(3) 無害
 患者に決して害を与えない
(4) 正義
 どの患者に対しても公正で公平に接する

 「患者さんに真実を知らせる」という立場からすれば、病名を告知せず、副作用の恐れがある 化学療法の実施や麻薬の使用は、適切ではありません。なぜなら患者さんは、自分の受ける治療行為がもたらす利益の最善の判断者だからです。しかし、Aさん のように「病状を知りたくない。弟のBに治療方針の判断を任せる」が自己決定であれば、インフォームド・コンセントを無理強いすべきではありません。「知 りたくない。自分で決めたくない」という決定も尊重されるべきです。

C委員 なぜ、このような家族関係になっているのか。自 分のことをBさんに任せるという関係は、どんな歴史から来ているのか。家族もどんな気持ちでいっしょに暮らしてきたのか。このことが分からないと「Bさん に決定権がある」とはならないのではないでしょうか。患者さんに寄り添って看護する私たちは、患者さん一人ひとりの歴史を知って初めて、ともに歩むことが できるのではないでしょうか。

D委員 患者さんの終末期を医療者としてどうサポートす べきなのか、それが最優先課題ではないでしょうか。医療者側が「告知することがふさわしい」と判断すれば、そのようなアプローチを本人にしなくてはいけま せん。同居家族の一人でも患者さんに寄り添うことができそうなら、告知を可能にする働きかけをするべきだと思います。「私たち職員は、患者さんを最期まで ささえたい。みなさんとともにそのようにできませんか?」という一歩踏み込んだ姿勢を家族に示すことが必要だと思います。
 
 今回の事例では、なぜAさんが告知を望まないのか、まずそのことを明らかにする必要があります。家族関係の問題なのか、経済的な問題なのか。医療者側で そうした障害をとり除ける可能性がないのか探ってみる。その上で、病状が変化するたびにAさんの意思を確認する必要があります。その中でAさんの気持ちが 変化し、病状について話し合うことができれば、今よりもいいケアを提供することができると思います。
 こうした働きかけにもかかわらず「やっぱり、すべてBに任せる」というのであれば、その結論も尊重すべきです。

(民医連新聞 第1394号 2006年12月18日)

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