医療・福祉関係者のみなさま

2009年12月7日

駆け歩きレポート(35) 路上生活者でも受診できます 市の助成制度を積極的に活用 ――神奈川・平塚診療所

 急増する路上生活者。たいていは無保険で、受診した場合、本人への請求はもちろん、保険請求もできません。結局、医療機関の持ち 出しになり、頭が痛い問題です。神奈川県平塚市には、路上生活者の医療費を助成する独自の制度「平塚市緊急医療援護費」があります。平塚診療所はこれを活 用し、路上生活者の診療を積極的に引き受けています。(佐久 功記者)

 神奈川県内では川崎市、横浜市に次いで路上生活者が多い平塚市。平塚診療所では、二〇〇一年か ら路上生活者の支援団体「平塚パトロール」と協力して、路上生活者の診療を行い、毎年四〇~五〇人が受診します。年齢は五〇~六〇代が多く、高血圧や肝臓 病、腰痛、結核、ガンなどさまざま。
 「足が腐って穴が開いていた人もいました」と、臨床検査技師の尚和(しょうわ)のり子さん。骨折の手術部位にバイ菌が入り慢性骨髄炎になっていました。 患部のひどい臭いを気にして、受診が遅れたのです。この人はすぐに戸塚病院に入院し、退院後はアパートに入居、現在も平塚診療所に通院中です。

敷居を低くして

 二〇〇一年、平塚診療所を二人の路上生活者が紹介で受診。診療所ではこの経験から、「お金がなくてもまず治療しよう」と意思統一しました。
 前事務長の川本修三さんは、平塚パトロールの見回りに参加したとき、「何かあったら、これを持って来てください」と、自分の名刺を配って歩きました。 「こういう気遣いがとても大切。路上生活者にとって医療機関の敷居は高いからです。お金のことや服装、臭いを気にするので」と、尚和さん。彼女は平塚パト ロールのメンバーで、診療所との橋渡し役でもあります。
 その後、平塚パトロールのビラに平塚診療所の地図と電話番号が載りました。「断らない。治療も生活相談もしてくれる」と信頼を得、路上生活者の間に口コミで広がり、受診が増えています。

「使いやすい制度」

 しかし当初は、医療費をどうするかが大きな悩みでした。最初の二人の場合、市と何度も交渉し、ようやく社会福祉協議会からお金を出してもらうような状況でした。
 それが二〇〇二年、ホームレス自立支援特別措置法が成立し、神奈川県もホームレス支援計画を策定。これを受けて二〇〇四年四月、平塚市の単独事業「平塚市緊急医療援護費」が始まりました。
 無保険でお金のない路上生活者の診療を行った医療機関の損失分を補助する制度で、予算は年間二〇〇万円。通常の保険診療と同様にレセプトを作成し、市に 提出します。生活保護と同じく、一〇割分の医療費が支払われます。医療機関から電話を入れ、書類をやりとりし、早ければ一カ月以内に振り込まれます。
 「煩雑な手続きもなく使いやすい制度です」と話すのは、事務長の高橋勇美さん。生活保護のような時間のかかる調査もありません。「他の自治体でも、こう いう事業をやっている所はあります。ぜひ問い合わせ、活用してほしい」。
 「二〇〇八年はのべ一〇〇人以上が事業の対象になりました」と市の担当者は語ります。「今年はかなり増えていて予算を超えそうです。路上生活者の自立の ための一助として行っており、その後は生活保護を受給していくので、本当は件数が減っていくはずなのに…」とも。厳しい経済情勢を反映しています。
 尚和さんは「全員が生活保護を受けられればいいのですが…。生活保護を受けて施設などに入っても、劣悪な環境に耐えかねて路上に戻る人もいます。そんな時、この援護費が役立ちます」と、この制度の意義を語りました。

*   *

 平塚市と平塚パトロールは以前から話し合いの場をもうけ、関係を築いてきました。いまは平塚診療所 もその輪に加わっています。「役所の人も同じ人間。味方になってくれます」と尚和さん。「現在、市も路上生活者の巡回相談を熱心に行っています。どこに誰 がいるか、私たちより詳しいかも」。情報を共有し、連携した支援を今日も続けています。

尚和さんの相談記録より

6月16日
 Aさん、500円貸してくれと来院。断る。

6月17日
 Bさん、お腹がすいて倒れそう、人を殺してしまいそう、夜眠れないと来院。野宿1カ月目。精神的に参っている。2~3カ月前まで派遣で働いていた。仕事 なくなりどうにもならない。平塚の施設に空きがないので、横浜にいっしょに行き、地元の支援団体に頼み、翌日施設へ。

6月21日
 Cさん、空腹と顔のでき物で来院。施設入所していたが1カ月で出た。福祉事務所へ行くようすすめる。
(○○市の福祉事務所に相談に行ったら500円くれて、他の市へ行けと言われた)

7月1日
 Dさん。足の化膿、糖尿、肝機能障害。福祉事務所に電話。施設に空きがある。7/7に入所予定。治療を継続するよう確認。(夜のパトロールの時訪れること。○○大橋付近)

7月2日
 Eさん、結核ガフキー9。○○病院入院。今後、結核を意識して行動を。(Aさんの仲間にレントゲンをすすめる。パトロールメンバーなど接触した人もレントゲンをとる)

 (民医連新聞 第1465号 2009年12月7日)

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