医療・福祉関係者のみなさま

2010年3月1日

生活保護老齢加算削られ生存そのものが脅かされている 新潟地裁で証言 民医連SW委員会 庄司 美沙さん

 生活保護の母子加算は復活しましたが、一方で老齢加算は廃止されたまま。「廃止は不当」として、加算を削られた高齢の受給者が全 国各地で裁判(生存権裁判)をたたかっており、全日本民医連もSW委員会が実態調査をするなど、支援しています。二月一二日、新潟地裁の証人に民医連の SW・庄司美沙さん(大阪・耳原総合病院)が立ち、廃止後の生活実態をのべました。(佐久 功記者)

 弁護士「老齢加算廃止の影響調査の結果を見てどう思いましたか?」
 庄司「驚きました。少なくとも最低限の生活はできているかと思いましたが、違いました。生存そのものが脅かされていました」

 新潟地方裁判所一号法廷。正面には三人の裁判官。左側には原告側の弁護士と三人の原告、右側には被告の厚労省と県、市の職員と弁護士。傍聴席は原告の支援者でいっぱいになりました。
 「三食欠く世帯が二割も。三食たべていても麺類ばかり。下着すら買っていない。雨が吹き込むような古いところにしか住めない。冠婚葬祭、地域行事に『参 加しない』『ほとんどしない』が半数以上です」。尋問に答え、落ち着いた声で庄司さんは民医連の調査から見えた生活実態を証言しました。

価値ある大規模な調査

 SW委員会は廃止から一年後の二〇〇七年、「生活保護受給者老齢加算廃止後の生活実態調査」を行いました。調査には全国のSW四〇〇人あまりが参加し、直接訪問や面接をして聞き取りました。
 対象者が正直に話してくれたのは、専門性と倫理性をもつSWという職業と、常にあきらめず対応する姿勢が信頼されていたからです。前例のないこの大規模 な調査は、民医連SWの「事例や実態からものごとを見る」科学的態度と熱意で可能になったもの。今回の裁判でそれも明らかになりました。
 しかし、昨年末の京都地裁の判決は、被告側の「偏った団体」の「恣意的な調査」という意見を一方的に採用した不当なものでした。
 庄司さんたちは「この判決は、実態に蓋をしようとしたもの」と断じます。厚労省が実態調査もしない中、民医連の調査は大きな価値があります。新潟で証言できたことは大きい意味があります。

マスクをして寝る

 原告の一人の尋問も行われました。新潟の冬は寒く、この日の最高気温は二・四度。外は雪が降り続いています。原告の長谷川シズエさん(85)が厳しい日々を語りました。

 弁護士「寝室にすきま風が入り込むとありますが、どうやって寝ていますか?」
 長谷川「寒いので、マフラーを巻いたりマスクをして寝ます。バスタオルをかぶることもあります」

 暮らしのようすをたんたんと語ります。「収入は月七万六〇〇〇円くらいです。風呂の水は四~五 日換えません。腰痛で入らないと痛くて寝つけません。灯油代が月九〇〇〇円もかかります。食器棚は、もらった下駄箱を掃除して使い、湯沸かし器は壊れてい るので使えません。撤去代に四万円かかると言われたので、そのままです。冷蔵庫や洗濯機は福祉事務所からもらいました。使っていた人が亡くなったから と…」。少ないお金で何とかやりくりしているようすが明らかになりました。
 人間関係にも大きな影響がありました。「お金がないので友人や親戚づきあいを断っていたら、便りが来なくなりました。結婚式や葬式にも行けません。包む 物が用意できないので、お詫びして断ります」。孤独にならざるをえない実態が浮かび上がりました。

「血の通う判決を」

 新潟市に住む原告で、次回に証言する予定の山田ハルさんの家を訪問しました。古い市営住宅に一 人で暮らす九〇歳です。小さいころから農家の住み込み仕事、失業対策事業など七〇過ぎまでずっと働いてきました。退職金もなくなり、国民年金では生活でき ず、生活保護を受けました。
 生活はとても質素です。真冬でもストーブは朝晩だけで、日中はコタツで過ごしています。転倒が怖いので外出を控えています。最近は「生活と健康を守る会」の集まりに行くのも減り、一人で過ごしています。
 山田さんの陳述書はこう結ばれています。「私を始め原告の生活をじかによく見て、裁判所が血の通った判決をされることを、心の底から願っています」。

実態つかんで発信を

 憲法二五条の主旨は、生活保護の受給者を「生存ギリギリ」の状態に置くのではなく、「健康で文化的な生活」を保障すること。葬式にすら行けない、ただ生存するだけの生活保護であってはならないのです。原告もみな高齢で、すでに亡い人もおり一日も早い勝利が必要です。
 庄司さんは、「私たちは福祉事務所の水際作戦を打ち破り、生活保護が決まって良かったと安心して終わらせるのではなく、その後の生活をきちんとつかむ必 要がある」と語りました。戦争や戦後の苦しい生活を体験した世代、不満をあまり口にしない人たちの現実と思いをくみ取り、発信していこうという提起です。 「もっと実態を浮かび上がらせたい。憲法二五条を空洞化させてはこの国に未来がない。そのために尽力したい」。

(民医連新聞 第1471号 2010年3月1日)

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