医療・福祉関係者のみなさま

2010年3月1日

駆け歩きレポート(38) “人の気持ちがわかる看護師になって” 地域で労働・生活・病気を考える 東葛看護専門学校(東京民医連) 「借金・赤字・不況が病気をつくる」 大田区の町工場を訪ねて

 東葛看護専門学校(東京勤医会)では開校当初から、二年生が「地域フィールドワーク」を実施しています。労働の現場や地域の実態 を知って、社会のしくみや看護の役割を考える授業です。一四回目の今年は二月二~四日、町工場や農場での実習、じん肺患者や平和活動家、労働相談の専門家 から話を聞く、医療・介護労働の現場に行くなど九コースが行われました。実習先のひとつである町工場を訪問しました。(小林裕子記者)

職人の技と心意気を知る

 大友冠(くわし)さん(77)が経営する工場。従業員三人の規模ですが、NC旋盤、マシニング 機を駆使して機械の部品を製造しています。一個から数百個の注文を受け、プログラムを入力、千分の一ミリという要求に応える精密な仕事です。実習する看護 学生は土屋正人さん(28)と秋山奈津希さん(19)。
 大友さんは二人に、「職人の技と心意気」を語りました。新幹線のパンタグラフ支軸が破断し、遅延が多かったとき、破断しにくい素材を提案したこと、大手 メーカー工場の配管破断事故で、金属の熱膨張率の差を無視した設計の問題を指摘したこと、さまざまな経験を聞いて、二人は驚きました。
 一方で、仕事が激減し、倒産や廃業に追い込まれる工場が続出している実情も聞きました。かつて大田区では町工場がネットワークをつくり、材料の調達から 機械の修理まで助け合い、どんな注文にも応じていました。いま、その網がズタズタです。大友さんは「まるで地盤沈下だ」と表現します。
 二人は、説明を受けながら機械操作もさせてもらい、苦労と面白さの一端も知りました。

仕事と病気の関係を知る

 三日間の実習からテーマを抽出し、三月の発表会に向けて資料を調べレポートをまとめます。二人は、専任教員の斉藤みゆきさん(看護師)とともに問題意識を出し合いました。
 一つは「下請けと経済・社会」。同区の別の工場も見学しましたが、「注文が減っていて、仕事中のようすが見られなかった」「従業員が辛そうだったね」と 二人。3Kといえば「きつい・汚い・危険」でしたが、いまや「構造改革・規制緩和・海外移転」で中小企業は痛めつけられている、との大友さんの話を実感し ます。
 次に「仕事の安全面、環境」も。「工具類を見て整形外科の現場を思った。人工関節の手術…」と土屋さん。斉藤先生も「整形外科で働いていたとき、指を落 としたり腕を機械に挟まれた患者を見て、なぜこうなるのか場面がわからなかったが、工場を見て理解できた」。大友さんの工場では安全装置や環境の配慮も徹 底しています。
 問題意識は、小企業で働く人の健康にもおよびました。病気が見つかる不安から健診を受けない、受診にお金がかかること、仕事が休めないなどの状況で、病 気を悪化させがち。病院に行ったときは手遅れの場合もあるのです。
 民商共済会の監事も務める大友さんからは、「借金、赤字、不況が病気をつくる。具合の悪い仲間は首に縄つけてでも病院に連れて行けと言うんです」という話も聞きました。

地域の人が協力する授業

 地域フィールドの目的。同看護学校の教員・江藤ちひろさんは、「患者を『歩んで来た歴史と培ってきた人格のある生活者』とみる姿勢の育成」をあげます。
 看護学生は人間関係や勉強に精一杯だったり、経済的な苦労もあり大変です。その中で看護師に必要な視点をどう育成するか、教員の悩みもあります。地域 フィールドは、世の中のこと、経済や政治へ一気に視野を広げ、疾病・医療・労働について考える機会です。
 実習先は東京民医連や千葉農民連などの協力で確保してきました。地域の人たちの民医連への理解や信頼で成立する授業です。
 大友さんが実習生を受け入れた理由も、大田病院の職員との縁です。「人の気持ちがわかる看護師になってほしいからね。看護は人間同士の精神的なつながり が原点じゃないかな。患者の悩みに視線を合わせて、病気という辛い中を案内していくのが看護師だと思う」と語りました。

(民医連新聞 第1471号 2010年3月1日)

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