医療・福祉関係者のみなさま

2010年4月5日

貧困と高齢化すすむ地域で 無料低額診療事業 路上生活者も無保険者も『いのち救われた』 高知医療生協 潮江診療所

  無料低額診療事業にとりくむ民医連の事業所が全国に増えています。高知医療生協の潮江(うしおえ)診療所(高知市)では二〇〇九年一〇月から県で初めて同 事業を開始、これまで受診できなかった人たちの命を救っています。地域の深刻な実態と住民、組合員、そして職員の熱い思いから出発した事業です。(村田洋 一記者)

 九月二五日、内田好彦所長、岡田艶子看護師長、岡村啓佐事務長の三人が県庁で記者会見し、「お金のあるなしで命が差別されてはならない」と無料低額診療事業を始める主旨を発表しました。

「地域分析」で現実を知る

 潮江診療所では開院二〇周年を迎え、中期計画策定作業の中で診療圏の「地域分析」を行いました。「地域分析」とは内田所長の発案で、『民医連医療』№426号の兵庫・本田診療所、高松典子さんの論文に触発され、温めていたものです。
 内田所長を中心に理事・組合員・職員が手分けして行政関係の各種資料を収集し、町内会長や民生委員、学校関係者などに直接聞いて、地域のさまざまな状況 を調べました。その結果浮かび上がった特徴は貧困と高齢化でした。高知市の生活保護率は三%と全国平均より高く、潮江地域ではさらに高い五・一%で、高齢 化率も三〇%を越える地区があります。
 子どもが置かれている状況も深刻で就学援助制度の利用率が潮江南小学校区では四〇%以上です。ある中学校では生徒の約半数が一人親家庭でした。
 同診ではこの一〇年で患者に占める生活保護受給者の割合が五%から一〇%に増加。中小零細企業が多く、不況の波を大きく受けていることもわかりました。 こうした分析結果をふまえ無料低額診療事業の開始を準備しました。

「テレビ見た」と電話

 同事業の利用は五カ月間に二六件※で保険証がない、あっても三割負担を支払えないためにかかれなかった人たちでした。電話での相談はもっとあり、この事業を始めたことが、困難を抱えた人との接点を広げたのです。
 年金生活のAさん(六〇代)は異常に腹部が膨れ、食欲もなくなりました。保険証もあり、すぐ隣に病院もありましたが、少ない年金では三割負担が払えない と受診をあきらめていました。見かねた知人に共産党の市議を紹介され、市役所に生活保護の相談に行き、同診を受診しました。即日、高知生協病院に入院。A さんは「命を救われた。その人たちに報いるために健康に留意し、できることで協力したい」と語りました。
 路上生活をしていたB子さん(五〇代)は胸のしこりが気になっていました。無保険なので受診はあきらめていましたが、公園で知り合ったCさんが「無料で 診てくれるから」と、B子さんを同診に連れてきてくれました。生保を申請、入院して手術もしました。
 実はCさん(六〇代)は車上生活でした。無保険でしたが、具合が悪くなり同診を紹介され、受診したばかりだったのです。そんな時にB子さんに声をかけたのです。「Cさんも診療所も私の救世主です」とB子さん。
 Dさん(四〇代)は朝八時過ぎに同診に電話してきました。昨夜から上下肢に麻痺が出現したとのこと。内田所長が診療前に緊急往診し、脳出血の疑いで救急 病院に搬送となりました。Dさんは無収入で無保険、高血圧治療を中断していました。テレビで記者会見を見て電話番号を控えていたとのことでした。
 このように、同事業を利用した人の九割以上が診療所と新たにつながり、これを入口にして生活保護などを受給した人たちです。

「患者も誇りに」

 岡村事務長は語ります。「患者になれない病人を救う制度として、もっと多くの人にこの事業を 知ってもらい、活用してほしい。院外処方などの課題も残るが、相談さえしてもらえれば手はいくらでもあります。この事業は医療生協のサービス(持ち出し) であっても、それだけではありません。予想通り新しい患者さんが受診してきます」。同診の一〇月から一月までの減免額は約一五万円でした。でも、新しい患 者が来れば収入増になり、特定健診も利用してもらっています。
 内田所長は「この事業は無差別平等の民医連の魂であり、民医連医療そのものです。民医連の病院は差額ベッド料を取らないことで、輝いています。それに比 べてやや見えにくい診療所の輝きもこの事業で発揮できます。センター病院との連携で救えない命を救うことができる」と胸を張ります。
 岡田師長は「全国の民医連に広がってほしいし、高知医療生協内の事業所にもっと広げたい」と語りました。医事課主任の池田磨奈さんは「この事業を始めた ことで、組合員さんや患者さんは自分のかかりつけの診療所が良いことをしていると誇りに思ってくれている」と話しました。

※ 二六件の内訳は一〇割減免が二四件、五割減免が二件です。

民医連での同事業は「国の抑制方針を乗り越え、一年間で新たに六一医療機関が増えて計一四一カ所になり、準備中が二四カ所になった」(三九回総会事務局長報告)

(民医連新聞 第1473号 2010年4月5日)

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