医療・福祉関係者のみなさま

2010年4月5日

無保険や困窮で受診できず 47人死亡 全日本民医連の調査(2009年) 背景に貧弱な社会保障

 「国保の資格証明書になってしまった」「保険に加入していない」「保険証はあるがお金がない」…その結果、受診が遅れ命を失った 人がこの一年間で四七人もいたことが、全日本民医連の「国保など死亡事例調査」で判明しました。三月一一日には記者会見を行い、マスコミ各社に発表しまし た。

 「全身状態が悪く呼吸困難になってから受診。肺結核と診断(ガフキー九号)され四日後に死亡」「胸痛のため受診し、三日後肺ガンで死亡」―両者とも無保険でした。報告した事例は、脆弱な社会保障制度が命を奪っていることを物語っています。
 調査は毎年行っており、今回で四回目です。二〇〇九年一月一日から一二月三一日の間に、無保険もしくは短期証・資格証明書の人が、受診できず手遅れとな り死亡に至った事例を民医連加盟事業所から集めたもので、今回は三七例でした。
 また今回は、従来より対象を広げ、保険証はあっても経済的な理由で受診できず手遅れとなったケースも調査に加え、これは一〇事例でした。これを合わせ昨年一年間の死亡者は四七人でした。

増える無保険者の死

 調査結果を見ると、年齢別では五〇代が一九人、六〇代が一八人、合わせて約八割ですが、若年者や高齢者もいます(表1)。

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 死因はガンがトップで、二九人。全体の六割強です。ほか肺結核、脳出血、肝不全、肺炎、大動脈解離、敗血症、多臓器不全などが続きます。基礎疾患に糖尿病をもつ人が五例ありました。
 保険証の有無や種別では、無保険が二七人でした。過去三回と比べて無保険が多くなっているのが特徴です。国保(短期証)が六人、国保(資格証明書)が四人となっています(表2)。

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 無保険者が多いことは「国民皆保険制度」が崩れていることを示します。事業所の健康保険や共済、後期高齢者医療に加入していない人は原則、国民健康保険 (国保)に加入し、無保険の人は存在しないことになっています。しかし実際には、さまざまな理由で「保険証がない人」が多数います。
 報告書では、(1)解雇や退職後に国保に加入していない、(2)健康保険加入の義務のない働き方(パートなど)、あるいは雇用主が健康保険に加入させな い、(3)外国人労働者、(4)国保に加入しているが、保険料の滞納で保険証が渡されないなどを挙げています。国保料の高さが原因です。今回の事例には無 職、非正規雇用が多くいました(表3)。

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医療費が払えない

 また、正規の保険証を持っていた人の死亡事例も深刻でした。
 六九歳の男性の場合、経済的困難から生活保護を受給しましたが、妻に障害年金が出ることになったため二カ月で保護が打ち切られました。その後、生活が苦 しく、胃ガンの治療を一年間中断していました。再発して入院した八カ月後に、死亡しました。入院時の所持金はたった四〇〇〇円でした。
 この人のように、貧しい暮らしの中で医療費の窓口負担三割は重く、受診をためらいます。生活保護基準以下で生活している人が、受給者の五~一〇倍いると いわれるなか、社会保障制度が貧弱で対応できていないことも浮き彫りになりました。

静岡からSOS

 こうした調査は国も実施していません。調査内容は東京新聞が一面で取り上げるなど、多くの新聞で報道されました。記者会見にも反響がありました。
 静岡県に住むAさん(六〇代)はその記者会見をテレビのニュース「救えた命~民医連 手遅れ死亡四七件」を見て、全日本民医連のホームページにアクセス し、窮状を訴えてきました。「ここに問い合わせれば、何とかなるかもしれない」と思ったそうです。
 ガンの術後で高血圧があり、失職中、生活保護の申請を断られていた事情が分かり、静岡民医連が支援しました。同県連の鈴木英治事務局長は「私たちの発信が命の絆になっているとの思いを強くした」とのべています。

※ 調査結果は全日本民医連のホームページに掲載

(民医連新聞 第1473号 2010年4月5日)

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