民医連新聞

2007年1月22日

無料・低額診療事業が命ささえる 石川勤医協・輪島診療所

 お金がなくて受診できない人のための「無料・低額診療事業」。これを実施する施設は全国に約二六〇あり、民医連も約一〇の法人が 実施しています。格差が広がり、低所得でも税金や保険料が容赦なく課せられる今、この事業の役割は重いと思えます。しかし、政府は「必要が薄らいだ」とし て、広げない方針です。石川勤医協では全病院・診療所で「無料・低額診療」事業にとりくみ、輪島診療所もその方針のもと、力を入れています。困難な住民を ささえる様ざまな努力のなかで、この事業も役割を果しています。(小林裕子記者)

 「輪島市民の所得水準は現役も高齢者も厳しい現状。一〇〇万円未満の世帯がおよそ五〇%もあります。だから、無料・低額診療は、治療を続けるための大事な制度なのです」。輪島診療所の事務長・濱茂夫さんは、強調します。
 生活保護を受けてもおかしくないのに、葬式代としてわずかな貯金を持っているため、受給できない高齢者が多数います。

「命をもらっているから」

 「現金がない暮らしを想像できますか?」という矢沢幸恵さん(奥能登健康友の会事務局長)に案内され、磯上かのさん(82)を訪ねました。
 磯上さんには高血圧やひざ関節症など持病があります。年金収入は月三万五〇〇〇円。介護保険料が天引きされ、水光熱費、国保料などを払うと残りはわず か。家は土壁の築一二〇年。修理のたび、乏しい貯金が減っていきます。漁師だった夫は二〇年前に、息子さんも一三年前に亡くなりました。農家の従兄弟が届 けてくれる米や野菜、妹が送ってくれるお古の衣類でしのいでいます。
 磯上さんの暮らしを見かね、矢沢さんは、「無料・低額診療」の利用をすすめたのです。
 「診療所は『頼り』なんて言葉じゃ言い尽くせない」と磯上さん。「みなさんに命をもらってるから大事にしなきゃね」と笑顔で話しました。

困難な患者に目配り

 輪島診療所が、「無料・低額診療」の準備を始めたのは四年前です。診療所は一九九八年四月の開 設当初から、友の会とともに、住民の生活相談にとりくみ、生活保護受給なども援助してきました。しかし、輪島市の保護率約一%という低さに示されるよう に、受給には制約があります。大変な患者さんも増えて、「無料・低額診療」事業の活用に迫られました。
 事業の要件「SWの配置」を満たすため、矢沢さんがSWの勉強を開始。週一回半年間、ベテランに来てもらい、生活保護制度の概要や相談のすすめ方など実 例に即して学びました。職員も制度や事例を学習し、患者・利用者さんに困難はないか、目配りを強めました。
 事業の利用者はだんだん増え、一二月が一一人。〇五年度の延べ数は七三件、減免額は約二一万円でした。

「たすけあい基金」で薬代を援助
奥能登健康友の会

 「無料・低額診療」事業があっても、薬局で支払う薬代などの負担はカバーできません。むしろ診療費より高い場合もあります。そこで、奥能登健康友の会は、〇五年「たすけあい基金」をつくり、困っている人に、薬代などの負担分を援助することにしました。
「たすけあい基金」の原資には、友の会が蓄えていたマイクロバス購入基金一〇〇万円弱を充てました。また、『いつでも元気』の還元金(年間約十数万円)、会の繰越金の一部を加えました。
 実は、同じころ友の会は会費を廃止。そのときの論議のなかに、友の会の姿勢と「基金」を創った理由がうかがえます。「五〇〇円くらい…」「会員の自覚 は?」など反対意見もありました。しかし、「現に会費が負担できない人も多い」「そういう人ほど友の会が関わらねば」との意見を受け止めて、決めました。
 会の活動は共同する法人からの援助金と寄付金でまかない、「仲間になって、月一回発行のニュースを読んでくれる人」はみな会員です。これで、声をかけや すくなり、増えた会員は〇五年度が五〇〇人、〇六年度も四〇〇人を超え、まもなく一九〇〇世帯・五〇〇〇人に。住民の約一六%が会員です。
 大きな文字の手作りニュースを、一〇六人の協力者が手配り。最近「ニュースで読んだけど、詳しく知りたい」という問い合わせが増えました。矢沢さんは 「読まれている。これで良かったんだ」と実感しています。「地域でかかわると困っている人が見えてくる。会の担い手を増やして、班会も活発にして、暮らし も良くしたい。それも友の会の役割だから」。会員さんに寄せる思いが言葉にあふれます。

***

 取材で、診療所に近い菜の花薬局の職員が、未収金から患者さんの困難に気づき、矢沢さんと協力して生保受給を支援した話を聴きました。こういう努力をし、制度が不十分なら「基金」までつくり助ける人たちに、国は制度の縮小ではなく、拡充で応えるべきです。


 【無料・低額診療】社会福祉法第二条第三項第九号による「生計困難者のために無料または低額料金で診療を行う」事業。 行うには、定款に定め届け出ることが必要。また、診療費の減免方法を定めて明示し、SWを配置し、無料の健康相談や生活相談を実施するなど、いくつかの要 件がある。また、条件を満たせば、税制上(固定資産税など)の優遇措置を受けられる。

(民医連新聞 第1396号 2007年1月22日)

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