民医連新聞

2007年2月5日

全日本民医連 孤独死調査 若年層は大半が男性 疾病に特徴は―?

 全日本民医連は「孤独死調査」の結果を発表しました。〇六年一~九月まで、全国の事業所で経験した孤独死事例を集め、検討したものです。民医連が孤独死について調査するのは今回初めてのことです。どんな特徴があったでしょう。報告書から紹介します。(木下直子記者)

調査へ~孤独死が連続して

 孤独死調査のきっかけは、夏に開かれた第一回評議員会で、神奈川の協同ふじさきクリニックが、 六、七月の二カ月間で五例の孤独死事例に遭遇した、という報告でした(『民医連資料』06年9月)。「孤独死が増えた原因のひとつに、在院日数の短縮で重 症患者が在宅療養を強いられていることや、医療改悪で受診できない人の増加が影響しているのではないか?」という議論になりました。
 厳しい生活保護行政が行われている北九州市では、孤独死が激増しています。医療や介護制度の改悪で、重症患者や重度の要介護者が、やむをえず在宅での療 養や介護を強いられるケースも増えました。そこで、本調査を行うことになりました。

内容~52事業所から105例

 〇六年一~九月までの九カ月間に、事業所が経験した孤独死事例の報告を求めました。対象は、事 業所に受診歴があった患者など。事後報告で、五二事業所から一〇五例が寄せられ、該当した九九例で検討しました。「全日本民医連の事業所が年間遭遇してい る孤独死症例は、五〇〇~一〇〇〇例程度の可能性がある」と、調査のまとめにあたった原和人副会長は話しています。

「危険因子」は

 「孤独死が起きやすい環境」に、高齢者、独身男性、親族が近くに住んでいない、無職、慢性疾患をもつ、賃貸住宅(隣家に無関心)などが一般的にあげられています。今回の調査では、これらに加え、七〇歳未満の男性、生活保護世帯などが危険因子と考えられました。
 さらに注意が必要なのは、糖尿病、脳血管障害の既往、アルコール依存の基礎疾患、透析療法、インスリンの自己注射や在宅酸素療法などの在宅治療を行っている患者。通院状況では、中断しがちな患者さんです。

孤独死防止のアプローチ 医療・介護事業所の視点は―?

 孤独死の予防には、地域でのつながりを生かした「面」の対策に加え、ハイリスクの患者や要介護者と接している医療機関や介護事業所の「点」の活動も重要です。
 ほとんどの孤独死は突然の事故や病気で起こりますが、発生後、数時間から数日は生存の可能性があります。その時期に発見できれば救えます。報告書は、次の点をおさえる必要がある、と強調しています。

[介護サービスとの連携]…ケアマネやヘルパーの訪問時、配食サービス時、デイサービスの迎えの時に発見された事例が多くみられました。リスクの高い利用者の細かなプラン作成が必要です。
[治療中断]…「電話したが、連絡がとれない」という中断患者の孤独死事例が複数ありました。中断対策は、日常的に行っていますが、孤独死のリスクの高い患者が予約日に受診しなかった場合、積極的な対応が必要です。
 集計から外した中には、こんな事例がありました。「退院一カ月後たって受診がないため訪問。呼んでも出ず、携帯に電話すると家の中で呼び出し音が鳴った ので、家に入り、倒れていたところを発見、救急搬送」というものです。「電話で不在」は、すでに異常な事態だという認識が必要です。日常診療は多忙です が、電話でだめなら、訪問、家族に安否確認を依頼するなどの、より積極的な対応が望まれます。
[退院後]…退院一カ月以内の孤独死が六例。いずれも退院後から約一週間前後の死亡だと推定されました。医療改悪の中で、在院日数のしばりが強化されています。退院許可が正しかったかどうか、再評価の必要があると思います。
[気になる患者]…全日本民医連の看護師を中心に「気になる患者訪問」の活動が行われてきました。その多くは、孤独死に結びつきやすい患者です。リストアップし訪問することが大切です。

***

 報告書は、「患者を、生活や経済的条件など社会的背景をふくめた全人的な視点でとらえることなしに孤独死は防げない」とのべ、これを「民医連的な活動」 だとしています。また「不幸にして孤独死が発生した場合、なぜ孤独死にいたったのか分析し、どうすればなくすことができるのか検討し、今後の対応も具体化 を」と、呼びかけています。

社会保障の後退は孤独死を増やします

 高齢者の社会的孤立や貧困の問題に詳しい、明治学院大学・河合克義教授のコメントです

 一九八七年以降、朝日、毎日、読売三紙が報道した孤独死事件を数えると、年間数件だったのが、 九五年は二一件、九六年三九件、九七年四九件、九八年が三四と急増しました。これは、阪神大震災で仮設住宅や復興住宅が注目され、たまたま分かった数だと いえます。また、東京都の監察医務院の発表では、東京二三区の餓死者は、一九九〇~九九年で合計一八一人、年平均は一八人です。孤独死はこの餓死者よりさ らに多いはずです。
 報道などで目にする事例は、氷山の一角に過ぎませんし、孤独死に関する公的資料は多くありません。民医連がこういう形で孤独死の問題を扱うのは、重要な意味を持っていると思います。
 孤独死は、家族関係や、親族や地域のネットワークのありようなど、非常に複雑な要素がからみあって起こります。とくに、地域社会の安定性について西欧と比べると、日本は「壊滅的」といっていいほどです。
 また、みなさんが懸念するように、社会保障制度の後退は、明らかに孤独死を増やしています。
 分かりやすいのは生活保護。「最低限度の生活」である生活保護基準より所得が低い人たちがどの程度、生活保護を受給できているか(=捕捉率)を推測する と、日本は一割、多くて二割に届きません。イギリスの場合は八~九割です。この違いをみるだけでも、最低限保障が機能していない行政的な問題が、餓死や孤 独死に直結していることがわかります。
 これから先、団塊の世代が高齢期に入り、孤立問題はさらに深刻化すると考えられます。日本では、生活困窮者の存在を考え、「連帯」しようという意識はま だ弱いですが、民医連のこうした調査は大きなインパクトを与えるものになると思います。

(民医連新聞 第1397号 2007年2月5日)

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